3月である。もうすぐJリーグも開幕する。今年は、2010年南アフリカワールドカップアジア最終予選もあるし、サッカーで盛り上がる年になる事を期待したい。
Jリーグといえば、先日、横浜FCのカズこと三浦和良が42歳の誕生日を迎えたそうな。Jリーグ史上最高齢らしい。今まで、Jリーグには42歳の現役選手はいなかった、という事だ。凄いなぁ、カズ。
このカズという選手、これまで華々しいサッカー人生を送ってきたようでもあり、そうでもないようであり、という感じ。ご存知の通り、高校を中退して単身ブラジルに渡り、トップチームと契約して注目され、日本に凱旋してからは、Jリーグの顔として、日本代表のエースとして、日本サッカーを支え、また日本人初のセリエAプレイヤーとしてイタリアに渡り、日本人選手の海外進出の先鞭をつけ、その後も日本のみならず、クロアチア、オーストラリアと海外でもサッカーを続け、42歳になる今なお現役である。
しかし、その反面、数々の不幸にも見舞われる。心技体ともに絶頂にあった1993年、いわゆる「ドーハの悲劇」で、目前にしていたワールトカップ初出場の夢を断たれ、翌年移籍したセリエAでは、順調に仕上がっていたものの、開幕戦でケガをして、満足な働きが出来なかった。1998年には、フランスワールトカップの直前に代表からはずされる。その後ヴェルディを離れ、サンガ、ヴィッセル、横浜FCとチームを転々とした。決して、順調なサッカー人生だった訳でもない。
テレビのインタビューなど見てると、カズという人、本当に真面目で心底サッカーが好きなのだ、というのが分かる。精神的にも強靭なものがあるのだろう。浮き沈みはあったものの、その結果を全て受け入れ、他人を恨んだり、責任を押し付けたりする事もない。自分はただサッカーがしたいだけ、という、正に「サッカー馬鹿」なのである。身体が動く限り、どんな条件であれ契約してくれるチームがある限り、サッカーを続けたい、という言葉には、様々な試練を経てきた彼ならではの重みがある。あっさりと引退した中田英寿は、カズの爪の垢でも煎じて飲むべきだ。
そういうカズこそ、日本サッカー界の至宝と呼ぶべきだろう。Jリーグも不景気の波には勝てず、昨シーズン終了後、多くのベテランや中堅選手が引退した。いや、引退に追い込まれた。そんな中で、まだ現役を張っているカズは凄いとしか言いようがない。もちろん、彼に昔日のプレーを要求するのは無理である。90分フル出場も難しい。横浜FCだって、客寄せパンダとしてカズと契約しているのだ、という声もある。そうかもしれない。しかし、「サッカー界の至宝」がチームにいることによって、他の選手に与える影響は計り知れないものがある。客寄せパンダと言うが、カズ見たさに来る客がいる、という事自体価値がある事だ。カズがいることで、プレーだけでなく、有形無形の波及効果が周囲にもたらされる。これこそプロってものではないのか。戦力としてだけではなく、選手として何かしらの価値が自分にあるのなら、どこのチームでも行く。この姿勢は素晴らしい。
確かに、「至宝」が一選手としているのだから、監督もやりにくいだろう。しかし、カズは若い頃ならいざ知らず、今では監督を批判したりする事はない。スタメンで使って貰えなくても、出番がなくても、決して文句は言わない。「実力がない者を監督が使うはずありませんよ」と言ってるのも聞いた。彼は、使って貰えないなら、使って貰えるようにトレーニングを積み、技に磨きをかける。本当に頭が下がる。
個人的には、昔はカズの事は好きではなかった。第一に読売の選手であったのが気に入らない(爆)。スターであり代表のエースではあったけど、なんとなくチャラチャラしてるようなイメージがあった。今のように、求道者のような雰囲気はなかった。お調子者って感じかな。でも、「ドーハの悲劇」のあと、あれこれ言い訳しない姿は立派だった。ラモスとは偉い違いだ(笑)。セリエAに移籍した時、現地の記者会見で、イタリアは日本から連れてくるスポンサーに期待してる、という批判があった中、「セリエAでプレーする事は、全世界のサッカー選手の憧れです」とイタリア語で挨拶したのにも感動した。フランスワールドカップの直前で代表からはずされた時も、岡田監督に関して批判めいたことは一切言わなかった。そう、カズはほんとに“男らしい”ヤツなのだ。「キング」と呼ぶのにふさわしい。
今年も、そんなカズに注目していこうと思う。自分で納得するまで、現役を続けて欲しい。