たつぬ。かへるさにはおりにつ
けつゝさくらをかりもみちをも
とめわらひをおりこのみをひろ
ひてかつはほとけにたてまつり
かつはいゑつとゝす。もしよしつか
なれはまとの月に故人をしの
ひさるのこゑに袖をうるおす。
くさむらのほたるはとをくまき
のしまのかゝり火にまかひあか月
(麻呂大夫の墓を)訪ぬ。
帰るさには、折につけつゝ、櫻を狩り、紅葉を求め、蕨を折り、木の実を拾ひて、かつは佛に奉り、かつは家苞とす。
もし夜、靜かなれば、窓の月に故人を偲び、猿の聲に袖を潤す。
叢の螢は、遠く槙の島の篝火に紛ひ、暁
(参考)大福光寺本
タツヌ。
カヘルサニハヲリニツケツゝサクラヲカリモミチヲモトメワラヒヲゝリコノミヲヒロヒテカツハ仏ニタテマツリカツハ家ツトニス。
若夜シツカナレハマトノ月ニ故人ヲシノヒサルノコヱニソテヲウルホス。
クサムラノホタルハトヲクマキノカゝリヒニマカヒアカ月