暮春
元稹
拂水柳花千万點隔楼鴬舌両三聲
菅丞相
低翅沙鷗潮落曉乱絲野馬草深春
小野篁
人無更少時須惜年不常春酒莫空
源順
劉白若知今日好應言此處不言何
いたづらにすぐる月日はおほかれど
はなみてくらす春ぞ少なき 興風
三月盡
過襄陽楼 元稹
水を払ふ柳花は千万点。楼を隔る鴬舌(おうぜつ)は両三声。
晩春遊松山館 菅原道真
翅を低(た)る沙鴎は潮の落る暁。糸を乱る野馬は草深き春。
春光細賦 小野篁
人更に少き時無く須く惜べし。年常に春ならず酒を空し莫れ。
源順
劉白若今日好なるを知ましかば、此処とは言はまし何とは言まし。
古今集
貞保親王の、后宮の五十賀奉りける屏風の
絵に、桜の花の散る下に人の花見たるかた
をかけるをよめる 藤原興風
いたづらに過ぐる月日はおもほえど花見てくらす春ぞ少なき
白
留春〃不住春帰人寂〔漠〕
猒風〃不定風起花䔥〔索〕
白
竹院君閑消永日花亭我酔送残春
白
惆悵春帰留不得紫藤花下漸黄昏
菅丞相
送春不用動舟車唯別残鴬与落花
菅
若吏韶光知我意今霄旅宿在詩家
尊敬
留春不用関城固花落随風〔鳥入雲〕
落花 白居易
春を留るに春住ず、春帰て人寂〔漠〕(せきばく)たり。
風を厭に風定らず、風起て花䔥〔索〕(しょうさく)たり。
白
竹院君閑して永日を消、花亭に我酔て残春送
白タリ
惆悵(ちゅうちょう)す春帰て留るふを得ず紫藤の花下て漸く黄昏(こうこん)たり。
一時十首 送春 菅原道真
春を送舟車動を用ず。唯残鴬(ざんおう)と落花別る。
同上尾聯
もし韶光(じょうこう)を我意を知ぬは、今宵の旅宿は詩家にあり。
三月尽 尊敬
春を留に関城の固を用ゐず、花落は風に随〔鳥は雲に入る。〕
けふのみとはるをおもはぬ〔ときだにも〕
たつことやすき花のかげかは 〔躬恒〕
はなもみなちりぬるやどはゆくはるの
ふるさとゝこそなりぬべらなれ 貫之
またもこむときぞと思へどたのまれぬ
我身にしあればおしき春かな 貫之
閏三月
陸侍郎
今年閏在春三月剰見金陵一月花
源順
歸谿歌鴬更逗留於孤雲之路
辭林舞蝶還翩翻於一月之花
古今集
亭子院の歌合に 凡河内躬恒
けふのみと春を思はぬ〔時だにも〕たつことやすき花の蔭かは
※御物粘葉本和漢朗詠集では「けふとのみ」。
拾遺集
おなじ御時月次の御屏風に
紀貫之
花もみな散りぬる宿はゆく春のふるさととこそなりぬべらなれ
※拾遺抄では、読み人知らず。貫之集に掲載。
後撰集
三月のつごもりの日、久しうまうで来ぬよ
しいひて侍る文の奥に書きつけ侍ける
紀貫之
またもこむ時ぞと思へどたのまれぬ我身にしあれば惜しき春かな
※御物粘葉和漢朗詠集では「惜しくもあるかな」。
陸侍御 送淮南李中丞 陸侍郎
今年の閏は春三月に在、剰(あまさ)へ見金陵一月の花を
後三月陪都督大王華亭同賦今年
又有春各分一字応教 源順
谷に帰歌鴬(かおう)は、更孤雲の路逗留し
林を辞する舞蝶(ぶちょう)は、還て一月の花に翩翻(へんぱん)たり。