新古今和歌集の部屋

美濃の家づと 一の巻 春歌下2

摂政家五首歌に          俊成卿

又やみんかたのゝみのゝさくらがり花の雪散る春のあけぼの

めでたし。詞めでたし。狩は、雪のちる比する物なるを、その狩をさくらがりにいひなし、其雪を花の雪にいひなせる。いとおもしろし。

百首哥めしける時春の哥      具親

時しもあれたのむのかりの別さへ花ちる比のみよしのゝ里

めでたし。詞めでたし。武蔵のみよしのと、大和の
みよし野と、一ツになれるは、ことさらにかくよみなせるなり。
あやまりてまがひたるにはあらず。これも此集のころ
の一ツのおもむきなり。

題しらず             西行

ながむとて花にもいたくなれぬれば散わかれ社かなしかりけれ

ながむは、心ゆかず。古歌に、√なるゝを人はいとふべらなりと
あるによりて、花にもといへるなり。

                 越前

山ざとの庭よりほかの道も哉ちりぬやと人もこそとへ
色のもじいとわろし。にとあるべき所也。もしはにを写し
謝れるにはあらざるか。散しきたる花を、ふまむとの
をしきよし、詞にはあらはさずして、さだかにしか聞えたるは、
めでたし。上句を或抄に、山ざとはあまたの道のなき
よしなりといへるは、無用の注なり。

五十首哥奉りし中に湖上花     宮内卿

花さそふひらの山風ふきにけりこぎゆく舟の跡見ゆるまで

めでたし。詞めでたし。跡見ゆるまで吹にけりといふに
はあらず。此けりは、おしはかりて定めたるけりにて、下句は、

舩の跡の見ゆるまでに、花の散うきたるはといふ意を、いひの
こしたるなり。古歌に、√こぎゆく舩の跡なきがごとゝ
ありて、舩の跡は見えぬ物なるに、みゆる迄といへるは、ちりうき
たる花の多きほどを、甚しくいへるなり。契沖が、詞い
かめしくて、女の身におはずや、すべて此人の哥は、をのこにかへ
まほしきが多き也といへるは、心得ず。女の哥ならんからに、つよき
をきらふべきにあらず。小町が哥を、つよからぬは、女の哥なれば
なるべしといへるも、つよからぬをゆるしたるに社あれ。女の哥
は、つよからぬをよしといへるにはあらざるをや。  

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