新古今和歌集の部屋

新古今増抄 巻第一 寂蓮 蔵書

一 摂政太政大臣家百首ノ哥合に。寂蓮法し

俗名定長。中務少輔。従五位上俊成卿猶子

俊忠ノ孫也。

一 今はとてたのむのかりも打侘ぬ朧月よのあけぼの空

古抄云。たのむ、たのも、五音相通也。用所に

よりて置なり。いまはと云詞ばかりのかへらんと

するきわなり。さらでも春のあけぼのはなご

りおほきに、霞に月の残りたる時分なれば、

帰鳫の聲も一入のこりおほきやうにきこ

ゆれば、心なきかりもなごりをおしむかと

いへり。鳫ものもの字、我うち侘たる心也。

感性ふかくあはれさかぎりなき哥也。

増抄云。たのむのかりの事、田面頼両説也。

奥州には、ともだちの中にまづしきもの

がありければ、その人にとくをつけんため

より合て、かりをして、その日とりたるもの

をみなやる也。この説はたのむの狩なり。

たのもの時は、田のおもてにヰる鳫なり

と師説自見集といふものに委くあり。是は

田面のかり成べし。いまは北國へゆかねばならぬ

と打わびてゆくなりとなり。とゞまらん

かとたのみてありしかりもゆく心有べし。

下句はかりのおもひたつ比の景なり。

たゞも物おもはしきころなると也。

 

頭注

今はとてとはすでに

そのきわになり

たりよしなり。もは

やかへらねならぬと

いふ義なり。

 

○鴈格物論云

鴈陽鳥泊江

湖洲渚之間動

計千百大者居

其中令鴈雙圍

而警寮飛有

先例秋南而春

北鴻又其大者

羽毛純白詩䟽

云大曰鴻小曰鴈

管子云鴻鴈春

北而秋南不失

其時。

 

打侘ぬとはかへらで

かなわぬ自説がき

たるとてわびたる

義なり。かりもといふ

もの字にて人も打

わびぬとの心なり。

なごりをおもふ故

なるべし。

 

※古抄 常縁新古今集聞書

※奥州には~

俊頼髄脳
このたのむの雁といへることはよの人おぼつかなき事なり。此比ある人かやうの事知りがをにいへる人あり。如何申すとたずねしかば、ひんがし国に鹿狩するに、たのもしのかりとてかたみによりあひて、狩をして、その日とりたる鹿をある限りむねと行ひたる人に取らすなり。さて、後の日かたみごとにてたがひにするをたのむのかりとはいふなりぞと申すめる。

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