一 題しらず よみ人知らず 一 故郷にかへるかりがねさ夜更て雲ぢにまよふ聲きこゆ也 増抄云。夜中にかりの空をゆきやらずこゑの きこゆるをきゝて、古郷にはやくかへらんとて 夜中にたちてゆくものならんか。くらければ えゆきやらでまよふ事よ。扨も哀さよと の心あり。うちきゝはすらりとしたる古風 の哥なり。味へばあわれなる哥なり。かやう の哥とやす/\とみるは、無念のよしを 古人もいへり。