さて、富山市を後にして立山連峰を望みながら国道8号を北上し帰路に着くことになるのだが、途中の滑川、魚津、黒部と気になる町が続く。その中で、神通川や常願寺川とともに富山七大河川の黒部川が気になる。黒部ダム?確かに上流部も興味深いが、今回は河口近くの町「生地(いくじ)」に狙いを定めていた。
黒部川は一級河川、常願寺川と同様、立山や剱岳の後ろ側(南東方向)斜面や、北アルプスの白馬、鹿島槍ヶ岳、野口五郎岳、鷲羽岳など3000メートル級の日本の屋根から積雪を含む雨などを集め、延長僅か85キロで富山湾に注ぐ日本屈指の急流だ。
ただ今回は、急流・黒部川が持つ1.2万ヘクタールの「扇状地」に、これまた扇状地特有の現象である沿岸部での湧き水を求めて生地に足を踏み入れる。「黒部川扇状地湧水群」として「名水百選(環境省)」にも選定されているが、黒部・生地では「清水(しょうず)」と呼ばれ、地域の中に20か所の湧水地がある。
生地の町には黒部漁港があり、港近くには「魚の駅・生地」がある。その目の前にも「魚の駅の清水」があるし、隣接する名水公園にも「名水公園の清水(おしょうず、写真上)」がある。少し歩くと月見嶋の清水、清水庵の清水、弘法の清水(同名の清水が3か所)、絹の清水、殿様の清水、神田(しんでん)の清水、中島の清水、新明町の共同洗い場、寺の庭先にある前名寺の清水などなど(写真下)。
どれもきれいに整備され、丁寧に看板を掲げられ自由に見学・使用することができる。地域住民が共同で使うので、利用するときはルールを守ってということだが、井戸から段々に整備されているのは、上から飲用、炊事用、洗い物用ということだそうだ。地域住民に愛されるがゆえに、きれいに整備され、案内板があり、一般にも開放されているのだと感じる。
飲んでもとても美味しい。上手くレポートできないが、実は生地の各湧水は湧出量や水質、味わいがそれぞれ異なるそうだ。ただ、水温は1年を通して11℃前後で適度なミネラルを含んだ「おいしい水」ということである。全部は飲めなかったが、自分好みの水を探すというのもいいかもしれない。
富山県の調査では、黒部市には700か所以上の自噴井戸があるそうだ。黒部ダムや水力発電所、川沿いの宇奈月温泉、黒部川に沿って走る黒部峡谷鉄道など、黒部川沿川にはいろいろな観光地や見どころも多い。しかし、最大の恩恵は扇状地の地下に流れる伏流水にある。
富山は水力発電が盛んなことから電気料金が安いといわれているが(本当なのか?どれくらい安いのかは分からないが)、その電気も然り。加えて生地をはじめ黒部市や近隣の住民はこの水を飲用のほか家事や産業に使用することで、途方もない恩恵を受けていると言って過言ではない。
扇状地上にあるYKK(生地周辺のあちこちに広大な工場がある)やアサヒ飲料の工場(黒部市のお隣の入善町)も黒部川の水を使っている。少なからず、日本の産業経済にも寄与し、私たちの生活を支えてくれている。黒部川の水は、冷たいけれど「黒部の太陽」であり「日本の太陽」なのである。
(写真下:生地の中心地にある「新明町の共同洗い場」の外観・内観)
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