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PTSDと(m)TBI((軽度)外傷性脳損傷)、MI(道徳的負傷:モラルインジャリー)(7) ~「モラルインジャリー」の定義~

2023-06-14 22:11:23 | 健康・病と医療

 MI(モラルインジャリー)は、リッツらの2009年の定義では、

「正邪や個人の善についての仮定と信念を毀損するため、不調和や対立を生み出す違反(transgression)行為」から結果するものとされました

[Litz et als.2009;Koenig&Al Zaben 2021,p.2990]。

道徳的信念や道徳的価値の違反(transgression)がなされたり、観察されたり、学習されたりしたときに発症するというのです

[Litz et als.2009;Koenig&Al Zaben 2021,p.2995]。

 

 ブロックとレティティーニの2012年の定義では、

「恥、悲嘆、無意味感、そして中核的な道徳的信念(core moral beliefs)を毀損したことによる後悔の感情などを含む違反(transgression)感」

[Brock&Letitini 2012,p.xiv]

 

 最近では、ジンカーソンが定義を更新し、

「罪悪感、恥、精神的/実存的な葛藤、信頼の喪失といった経験的・理論的に認識された症状、

そして抑うつ、不安、怒り、自傷といった二次症状、

そしてそこから生じる社会問題を強調しました[Jinkerson 2016;Koenig&Al Zaben 2021,p.2990]。

 

 2018年のケーニッヒらによると、

結果として罪悪感、恥、裏切りの感情、道徳的懸念、許し難さ、意味の喪失、信頼の喪失、自己非難、精神的な葛藤、

そして宗教的信仰の喪失などを伴ないます[Koenig et als.2018;Koenig&Al Zaben 2021,p.2995]。

 

ベトナム戦争帰還兵の「ラップグループ(おしゃべり会)」を組織してそのトラウマを掘り起こし、

DSM-ⅢへのPTSD概念の確立に大きく貢献し、ヒロシマの被爆者や元ナチス医師のトラウマ体験の調査でも知られるロバート・リフトンは、

トラウマ体験者にとって一番辛いのは、(目の前の恐怖によって)何もできないと感じるとき、

二番目に辛いのは(過去を振り返って)ひょっとしたら何かできたのではないかと考え直すときだと記していますが[Lifton 2011,p.262]、

後半の心理こそまさに「モラルインジャリー」の核心に触れているともいえそうです[大谷 2020,p.30]。

 

  とはいえ、「モラルインジャリー」のカテゴリーにどんなものが入るかは、

かなりの意見の不一致とコンセンサスの欠如が今なお残っています[Hodgson&Carey 2017;Koenig&Al Zaben 2021,p.2990]。

 

「モラルインジャリー」は決して珍しい問題でも些細な問題でもありません。

こうした状況を踏まえて、スクリーニングのために、すでに軍人向けの尺度の作成が、2013年のウィリアム・ナッシュら以来着手され

[Nash et als.2013;Koenig&Al Zaben 2021,p.2991]、

近年のケーニッヒらのグループを中心に、MIS-M-LF、MIS-M-SF、EMIS-Mなどさまざまに作成されてきています

[Koenig et als.2018a,2018b; Currier et als.2018;Koenig&Al Zaben 2021,p.2991]。

さらに近年には、ヘルスケア専門家向けの尺度も、ケーニッヒらによって作成されてきています[Mantri et als.2020]。

 

<文 献>

Brock, R. N. & Lettini, G. 2012  Soul repair: Recovering from moral injury after war. Beacon Press

Currier, J. M., Farnsworth, J. K., Drescher, K. D., McDermott, R. C., Sims, B. M., & Albright, D. L. 2018  Development and evaluation of the Expressions of Moral Injury Scale—Military

    Version, in Clinical Psychology & Psychotherapy, vol.25, no.3, pp.474–88. 

Hodgson, T. J. & Carey, L. B., 2017  Moral injury and defnitional clarity: Betrayal, spirituality and the role of chaplains, in Journal of Religion and Health, vol.56, no.4, pp.1212-28.

Jinkerson, J. D., 2016  Defning and assessing moral injury: A syndrome perspective, in Traumatology, vol.22, no.2, pp.122-30.

Koenig, H.G.·& Al Zaben, F., 2021  Moral Injury : An Increasingly Recognized and Widespread  Syndrome, in Journal of Religion and Health, vol.60, pp.2989–3011.

Koenig, H. G., Ames, D., Youssef, N. A., Oliver, J. P., Volk, F., Teng, E. J., Haynes, K., Erickson, Z. D., Arnold, I., O’Garo, K. & Pearce, M., 2018  The moral injury symptom scale-military

    version, in Journal of Religion and Health, vol.57, no.1, pp.249–65.

Lifton, R. J., 2011  Witness to an Extreme Century: A Memoir. New York: Simon and Schuster.

Litz, B.T., Stein, N., Delaney, E., Lebowitz, L., Nash, W. P., Silva, C. & Maguen, S., 2009  Moral injury and moral repair in war veterans : A preliminary model and intervention strategy,

    in  Clinical Psychology Review, vol.29, pp.695-706.

Mantri, S., Lawson, J. M., Wang, Z. Z. & Koenig, H. G., 2020  Identifying Moral Injury in Healthcare Professionals: The Moral Injury Symptom Scale‑HP, in Journal of Religion and

    Health, vol.59, pp.2323-40. https://doi.org/10.1007/s10943-020-01065-w

Nash, W. P., Marino Carper, T. L., Mills, M. A., Au, T., Goldsmith, A. & Litz, B. T., 2013  Psychometric evaluation of the moral injury events scale, in Military Medicine, vol.178, no.6,

    pp. 646–52. 

大谷 彰、2020 「パンデミックとトラウマ――新型コロナウイルスから考える-―」『人間福祉学研究』第13巻1号、pp.25-40。

 

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