付け焼き刃の覚え書き

 本や映画についての感想とかゲームの覚え書きとかあれこれ。(無記名コメントはご遠慮ください)

私的年間ベスト2020

2020-12-31 | ランキング・カテゴリー
 シンクタンクのサブカルチャー調査でライトノベルファンが年間に消費する金額が1万2千円とかいう話を聞くと「それ、1週間の金額ですか?」と言いたくなります。月1冊買うか買わないかでマニアとかオタクとか、どこからデータをピックアップしてるんでしょうか?
 それはともかく、選んで買って読んでいるつもりでも当たり外れとか好き嫌いはあるもので、大昔に読んでも場面の1つ1つが脳裏に浮かび、決めゼリフがするりと出てくる作品もあれば、自分がブログにあらすじや感想をメモしているのに読んだことすら覚えていないものもあり……不思議だなあ。この話、本当に読んだのかなあ?
 そんな記憶の残滓にまた1冊。

『転生前は男だったので逆ハーレムはお断りしております』 森下りんご
 ここ数年やたらに多いTS転生で、定番の殖産・内政チートものなんだけれど、キャラが面白く、テンポが良いのですね。お約束の部分は途中過程を大きく端折ってジャンプ。起業編や諸国漫遊編は最初からなかった。気がついたらマリア様が見てた……。
 主人公の目的と立ち位置が最初にしっかり決まっていると、あちこちぶっ飛んでも話がぶれないという見本ですね。この場合は「男×男は無理!」ということなんですが、最初からトップスピードでぶっ飛んでいきます。

『城主と蜘蛛娘の戦国ダンジョン』 朽木外記
 光と闇の戦いの最前線に遅滞戦闘用の陣地としてポンと捨て置かれた迷宮を、なんとか無事に完成させて人間・エルフ・ドワーフ連合軍から守り抜かんとするダンジョンコアの化身こと拠点精霊のおっさんの奮闘記。ひとことでいうと「迷宮は完成するまでが面白い」。
 戦国小説を彷彿とさせる古めかしい登場人物たちの語り口で古い言葉と新しい軍事用語が入り交じって語られ、ひたすら真面目に迷宮の建設と防衛が行われているのに何故か読後感はユーモラスです。

『魔王殺しの《死に狂い》』 草薙刃
 戦国ダンジョンと同様「まぜるなキケン」な時代小説+ファンタジーな剣豪もの。
 魔王討伐の勇者パーティーに大陸の東のはずれの島国から送り込まれたサムライが勇者からクビを宣告されてしまうが、勇者たちの旅を、なんでわざわざ遠回りしなくちゃいけないのだ?「とりあえず、魔王城でも落としてみるか」と単身まっすぐ殴り込んで勝手に魔王を討伐してしまったサムライの物語。
 大陸の文明国からは辺境の蛮族と侮られがちな小さな島国「八洲」だけれど、その実態は魔王をあっさり倒したユキムラを上回るサムライがごろごろいるのだ。舐められたら殺す!のサムライがファンタジー世界を闊歩して、魔王やら不死の王やら邪竜らと斬った張ったするサムライ・ファンタジー。

『亡びの国の征服者』 不手折家
 ニートだった青年は、川に落ちた少女を救って死に、見知らぬ世界に、耳の少しとがった民の息子ユーリとして転生した。田舎の牧場の跡継ぎになるのだと思っていたユーリだったが、父親の実家の事情から都の騎士院へと進学することになる。
 異世界転生して前世知識と思い切りの良い判断でのし上がっていく立身出世譚だけれど、タイトルにあるようにやがて国は亡び、主人公は魔王と呼ばれるようになって世界征服に乗り出すことになります……というか、平和な生活のためには自分が魔王になってでも攻める気満々、こちらを滅ぼす気ありありな周辺諸国をすべて平らげるしかないし、やるなら徹底的にやらないとこっちは後がないんだ!……という最終決戦。序盤から上げては落とす、緩急自在の展開と主人公を取り巻くキャラクターが魅力です。 

『Dジェネシス ダンジョンが出来て3年』 之貫紀 
 世界に突如としてダンジョンが現れて3年。たまたま、偶然から、出会い頭に経験値を稼いでしまった芳村は、無責任な上司に見切りをつけてダンジョン・エクスプローラとして生計を立てることにした……というところから始まる現代ダンジョン攻略譚。いきなり強くなってダンジョン攻略という話は多いのだけれど、この話の面白いところはなんでも「なんとなく」では済ませないところ。どうして、出てくるモンスターが地球の神話伝説や創作物まんまなの? どうして、モンスターを倒すとドロップアイテムが出てくるの? ダンジョンができて、モンスターからアイテムがポップするようになった社会の政治とか経済とか軍事とか文化とかどうなっちゃうの?というあたりまで丹念に、そして面白おかしく読ませちゃうのです。なんとなく神様が日本のゲームをパクりましたとか、ダンジョンにモンスターが出てくるのに日常生活はそれ以前とは変わりませんとか、おかしいよね?とツッコみたくなる人を納得させる作品です。

『ホラー女優が天才子役に転生しました』 鉄箱
 ホラー女優が自動車事故で死に、お金持ち夫婦の一人娘として転生。一般的知名度はなかったけれど共演者やスタッフなどに高く評価された演技力を駆使して天才美少女子役としてハリウッドデビューをめざす演劇小説。
 物語そのものは彼女を取り巻く人々の悩みや葛藤を演技を通じて昇華させていく正統派の話なんだけれど、特撮なしでホラー映画の恐怖シーンを演じられる女優の変態的な演技力そのまま受け継いだ主人公とのギャップが楽しく、若干の百合テイスト。

『俺は星間国家の悪徳領主!』 三嶋与夢
 周囲の者に裏切られ続けて死んだ男が、星間国家で領主の息子として転生。もう人に利用されるだけの人生はごめんだ、今度の人生は弱い者を踏みにじり贅沢三昧で生きてやるんだと悪徳領主としての道を邁進するものの、根が小市民。自分では好き放題に生きているつもりが周囲からは真面目、質実剛健、有能と本人の希望と正反対の評価をされていく立身出世譚。
 この壮大さとバカバカしさが同居する世界こそ、まさにスペースオペラの正当な後継者です。

『TRPGプレイヤーが異世界で最強ビルドを目指す』 Schuld
 TRPGにおいてルールを隅々まで読み込んで、その裏を読み、最適解を導き出し、あくまでルールで認められた範囲内で強力なキャラクターを作るプレイヤーをデータ・マンチキンとかパワープレイヤーなどと呼称するわけですが、そのマンチが異世界に転生したところから始まる異世界冒険譚。
 効率的にキャラクターを育てていこうというのは異世界転生ものの定石ですが、ストーリーそのものに個性があり、展開が巧く、合間合間にはさまるコラムやIF展開がセッションぽくて面白いのです。

『オールラウンダーズ!!』 サエトミユウ
 前世の記憶を取り戻した5歳児が、ネグレクトをはねつけ、肉弾戦でも魔法戦でもS級冒険者と互角以上に渡り合う能力を身につけ、不思議な魔導具を開発したり、酒や料理で他人をうならせながら、好き勝手に冒険していく異世界転生譚。
 人づきあいが苦手で不器用なベテラン冒険者のおっさんと、人嫌いで不信感の塊に育った幼女との二人三脚のバディ小説です。会話のかけあいとストーリー展開がどちらもテンポ良く、一気に読めます。

『ボクは再生数、ボクは死』 石川博品
 ビジネスから教育、レジャーまでVRを利用するのが普通になった時代、FPSゲームにのめり込んだ男が、TS百合にはまり、ネカマの動画配信者としての稼ぎを風俗嬢につぎ込んでいくという、VRTS百合バイオレンス小説。動画再生数を伸ばすために、次第に過激な方向に走り始め、血を血で洗う抗争劇の真っ只中でカメラを止めるな!という話で、結論は「戦いは数だよ!」に。そして、あれだけ凄惨な殺し合いをした後に平然とオフ会をしちゃうあたりが、虚実の切り分けができるベテランぽいっというより、こいつら「壊れてるよね」という感じになっちゃいます。

『地球さんはレベルアップしました!』 浦之瀬開
 現代社会にダンジョンが出現し、たまたま最初のダンジョン創成に巻き込まれた少女が、人より少しだけ強くなって生還。みんなを引っ張ってダンジョンに挑む……という、ある意味定番の話なんだけれど、まずダンジョンが出現した理由を「地球さんはレベルアップしました!」ですべて説明したことにして、その上でダンジョンものでありがちなPKとか犯罪的なあれこれを地球さんが用意したカルマシステムが排除してしまうもので、緊迫していてもどこかほのぼのとして雰囲気でまとめてしまいます。命懸けではあっても、あくまでダンジョンとの勝負であり、PKとか政府の思惑とか裏のごちゃごちゃした枝葉は無視して良いのです。
 こうなると、単なるルーチンで強くなって、主人公がみんなに認められていくというありきたりな話になりがちですが、そこを主人公の性格と言動でひっくり返します。
 これはダンジョンが出現するようになった世界で、より強くなろう、強くなってみんなを護ろうと頑張る話であると同時に、これからの世界は力がないと危険だとみんなの自覚を促し、感化し、みんなで強くなろうと頑張る話。自分が強くなった秘訣を隠匿して一人勝ちを目指す話じゃないというところが、まさに良きジュブナイル百合小説なのです。


 以上、今年発売のお薦め11選。とりあえず筆頭は『Dジェネシス ダンジョンが出来て3年』、それから『城主と蜘蛛娘の戦国ダンジョン』、『ボクは再生数、ボクは死』あたりが続きます。一般的な売れ筋ではなく、いわゆるSFとかファンタジーとか時代小説とか、山田風太郎とかホーガンとかさんざん読みふけってきた大人(年寄り)向けのセレクションです。

 最近は、検索アピール対策とかあれやこれやで内容概要や序盤展開をまとめたタイトルが目立ちますが、結果として「似たり寄ったりの話ばかりと最初から分かっちゃってると読む気が失せるなあ」と息子が言ってます。確かに内容まとめたものに、あまり個性が見られませんね。もう、「追放」とか「今さら遅い」とか「ハーレム」とか「成り上がり」とか、タイトルにするのはやめませんか? 読めばそれなりに工夫していて個性もあるけど、タイトルで読む気が失せるので、そこをあえて「とりあえず序盤だけでも読んでみよう」と行動に移すにはなかなかエネルギーが必要なのです。
 あと、なんとかかんとかオンライン……みたいなサブタイトルをつけるのはやめましょう。検索していてもアルファベットの長い羅列が途中で表示窓からはみ出してしまって認識できないのです。毎日何十本とウェブ小説を読んでいると、タイトル不明の更新表示が出てくるのはストレスなのです。

 ああ、今年ももう終わり。早いなあ。新型コロナ対策で右往左往しているうちに1年終わっちゃいました。
 来年は明るい年になりますように。
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私的年間ベスト2019

2019-12-31 | ランキング・カテゴリー
 今年も歳の終わりに振り返り、この1年で楽しませてもらった書籍を幾つか覚えに残しておきましょう。

『ノームの終わりなき洞穴』 山鳥はむ
 遠征資金稼ぎのために宝石鉱山を採掘していたら、周囲の村人や冒険者が勝手に入り込んでは警備の魔物に殺され続け、そのせいで自分の採掘している鉱山がダンジョンだと噂になってさらに一山当てようという冒険者たちが集まる悪循環の物語。
 基本的に、欲に駆られた冒険者たちが洞窟に潜っては殲滅されるの繰り返しなんだけれど、そこを巧く面白く読ませ、ウェブ版の最終章は壮大な英雄叙事詩となって幕を閉じます。

『信長の庶子』 壬生一郎
 家督相続権のない庶子に生まれながら、不思議な知識を持つ母親の教育で、織田家にその人ありと知られるようになっていく織田帯刀の出世譚。
 転生知識チートは、なにも本人が使わなくてもOKだよねとか、竹簡で同人誌発行みたいな小ネタに走りつつも、物語としてはあくまで群雄割拠の戦国時代の冒険譚で、改編歴史物として完璧な本造りも魅力。

『ダンジョンクライシス日本』 緋色勇希
 日本各地でに迷宮が出現し、自衛隊と米軍による封鎖が続く時代。ひょんなことから迷宮の向こうに通り抜けてしまった元自による、往きて還りし物語。
 小説家になろう発のハヤカワJAの1冊で、なんでもかんでも萌えイラストつけりゃいいってもんじゃないよという1冊。続くといいな。なにげに名古屋界隈のご当地SFだったりします。

『異世界転移、地雷付き。』 いつきみずほ
 修学旅行のバス事故でクラス全滅のところを邪神に救われ異世界転生。ところが邪神の警告を無視して安易にチートスキルを取得したクラスメイトは、巻き添え自爆必至の地雷みたいなもの。そういうわけで、ナオたち親友5人は可能な限り他の地雷クラスメイトに関わらないよう、地味に、堅実に、安全第一で生きていこうとする……。
 異世界転生のスローライフな共同生活もの。派手なところはないけれど、特に暗く重いストーリーでもなく、他の話ならクラスメイト同士で敵対したり支配したりする展開になるところが、地雷付き転生者たちは勝手にどんどん、あまり主人公たちと関わらないところで爆発していきます。リアルな中世風社会の暗黒面は主にそちらが担当。その間にナオたちが1つずつ実績を積み上げ、少しずつ装備を更新し、一歩一歩着実に生活改善を続けていく姿が楽しいですね。派手な英雄譚ではなく、チート頼りの開拓話でもないですが、ほどほどに順風満帆なストーリー展開の起伏がベストバランスです。あとはタイトルにある地雷がほとんど爆発した後、話にどう結末をつけるかってあたりでしょうか。

『悪役令嬢の監獄スローライフ』 山崎響
 乙女ゲームのお約束みたいなもので、公爵令嬢レイチェルは身に覚えのない罪を理由に王子との婚約を破棄され、地下牢に投獄されてしまう。ところが、レイチェルは逆に地下牢の鍵を内側から施錠し、事前に持ち込んだ食料や贅沢品をふんだんに使った監獄ライフを堪能する。誰に頼まれたって出てやるものかと。その間にも、勝手な理由で婚約破棄した王子への圧力は高まり……。
 ひとことでいうと「プリズンイエーーーーーッ!」なハッピーホリデー・コメディ。さらば、王妃教育に追いまくられていた日々よ。ワンアイデアで上下巻という収まりの良さもポイントです。

『スコップ無双』 つちせ八十八
 宝石鉱夫のアランは、ひたすらスコップで穴を掘り続けていたが、採掘100年目のあるとき、なぜかスコップから岩石溶解ビームが出た。これで今まで堅くて掘れなかった岩盤も抜けるとさらに掘り続け、1000年目にはビームは波動砲に進化していた。地道な採掘の経験値は、本人も知らぬないうちにアランを最強のスコップ使いにしていたのだ……。
 スコップ使いの超人が主人公で、新興宗教の教組がヒロインで、波動砲が必殺技のファンタジー小説。世の中のたいていのことはスコップでなんとかなる。ちなみに1巻は「シャベル無双」とのコンバーチブル表紙。

『世界の闇と戦う秘密結社が無いから作った(半ギレ)』 黒留ハガネ
 ひょんなことから超能力が身についた主人公。ところが能力を磨きながら待っていても何も事件は起きないし巻き込まれない。世界の闇の存在もなければ、それと戦う組織もないというなら作ってやるぜと決意した。そこに同じく厨二心を大事に抱える整形美人(美容への並々ならぬ情熱と努力)のお金持ちヒロインをスポンサーに迎え、「世界の闇」とそれと戦うための「秘密結社」を作り始めるのだ。
 本物でなくてもホンモノと同じくらいステキなものを生み出したなら、そこに何の違いがあるというのだろうか。
 書籍版は2巻で中断。ウェブ版のようにせめてワールドワイドに展開するところまではやって欲しいものです。

『異世界国家アルキマイラ』
 VRシミュレーションゲーム『タクティクス・クロニクル』をプレイしていたら突然の地震。天災イベントかと確認してみれば、ゲームにおける自領丸ごとリアルに異世界転移していた。自分は戦闘力が皆無の脆弱な人間のままだけれど、周囲の部下は一騎当千の魔物ばかり。まかり間違って忠誠度が下がればひとたまりも無い。さらに樹海の外では人間とエルフの国家間での紛争が激化している。中身はまだ20歳前の大学生に、この状況に王として立ち向かえというのは、あまりに酷な話であった……。
 ゲームしてたら異世界転移して魔物ばかりの国家を指揮して戦うというと『オーバーロード』とか真っ先に思い浮かびますが、こちらは主人公の中身も器も人間なので冷酷に割りきれず、あれこれ苦悩しながら成長していきます。大学の授業はしっかり聴いておくもんです。

『サラリーマン流 高貴な幼女の護り方』 逆波
 武術の経験はないけれどネゴやプレゼンなどビジネススキルだけはやたら高い青年が、事件に巻き込まれたことで異能覚醒。刀剣を主武器とする異能エージェント集団に迎え入れられ、甘えることを知らない幼女の世話をし、意識高い幼女に諭され、政治的に危険な立ち位置にある幼女を大陸のスパイやらテロリストから護る話で、つまりはボディガードと王女様もの。
 1巻ごとにストーリーが完結し、テンポ良く、飽きさせない構成は見事。今は2巻までしか出ていないけれど、ウェブ版ではほぼ1巻分ごとに1人高貴な幼女が増えるので、ちょうどきりのつく3人目までは刊行して欲しいものです。

『異世界転生…されてねぇ!』 タンサン
 人助けで死んだ高校生が転生しそこない、チート能力を持ったまま元の世界で生き返ってしまったけれど、現代日本も裏では陰陽師や超能力エージェントの抗争が繰り広げられていて、そこに異世界で暴れ回るはずのチート能力者が第三勢力として殴り込んでしまう話。
 基本はスローライフなスクールライフなので、着々と強くなっていく主人公の言動がツボ。

『ハズレ判定から始まったチート魔術士生活』 篠浦知螺
 異世界の王国が戦力不足を補うために異世界からの召喚を強行。ある中学校の2年生が学年丸ごと召喚され、隷属の首輪で奴隷化されたけれど、国分健人だけハズレで使い物にならないと王女によって魔物だらけの密林に放り出され死にそうになる。でも、実は健人こそチートな能力の持ち主で……と、典型的な集団異世界転移もので、宣伝もその路線で押してるんだけれど、展開が早くて、起伏が激しくて、この手の話としてはかなり面白く、右も左も分からない異世界での足場固めと同級生救出作戦の二本立てでてんてこ舞いの展開に飽きずに読んでます。
 ただ、あまりに最悪な出会いの王女が後にヒロイン候補に挙がってくるものですから、書籍版ではちょこちょこ「あんな悪辣な真似をしたのにはやむを得ない理由があるのだ」と言い訳を前倒しにしてるので、そのあたり不自然になってます。そこまで本人も周囲の人間もそんな極悪人ではないというなら、死人が出る前になんとかしろよと。そういう意味ではウェブ版の方がしっくりきます。

『悪役令嬢レベル99』 七夕さとり
 ドルクネス伯爵家令嬢ユミエラ・ドルクネスは5歳にして覚醒した。自分がRPG要素の強い乙女ゲーム「光の魔法と勇者様」通称「ヒカユウ」の世界での悪役令嬢に転生していたことに気がついてしまったのだが、そこで前世のゲーマー魂に火がついてしまった。両親から放置されていたのを幸い、書庫で書を読み、野山で魔物を狩り、ゲームの舞台である学園に入る頃にはレベル99となっていたが、これは理論上のレベル上限。魔王討伐の推奨レベルが60である……。
 バランスブレイカーの裏ボスに転生した主人公が、ゲーマーの血が騒ぐままにレベル上げしていくうちに、なにが常識でなにが非常識か分からなくなってしまい、自分の基準で周囲を引っ張り回す話。彼女の「ちょっと危ない」は普通の人の「命の危機」。
 基本がワンアイデアのバカ話なので、ほどよい長さできりがついているあたりもお薦め。


 乙女ゲームの悪役令嬢転生ものというのは、そもそもオリジナルがほとんど見当たらないのが特色。他のファンタジー系創作などは、明らかにドラゴンクエストとかD&DとかFFとかメジャータイトルがあり、そこに起因するお約束が共通認識としてあるから成立しているわけですが、乙女ゲームにはそれがありません。確かに主人公のライバルとしての悪役令嬢が登場するゲームがないわけではないようですが、いざ具体的なタイトルを挙げようとするとあまりメジャーでないものが1本か2本……というくらい。それがちゃんと「悪役令嬢の登場する乙女ゲーム」というものに対する共通認識ができているのが不思議です。
 むしろネタ的には昔からの少女マンガの方に起因するらしく、2013年スタートの「謙虚、堅実をモットーに生きております!」が少女マンガ転生で、今も「小説家になろう」累計ランキングベスト10に入っているこの作品あたりから増えていったと聞いています。これは確かに面白いもの。連載が中断して2年以上かあ……小学校入学前から始まって、もう高校卒業間近。3年生の夏休みの花火大会直前と、クライマックス目前で途絶えて待つ身は辛いです。もう何回、最新話まで読み直していることか。
 新年こそは更新を期待したいものですね。
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私的年間ベスト2018

2018-12-31 | ランキング・カテゴリー
『航宙軍士官、冒険者になる』 伊藤暖彦
 SF王道+ファンタジーお約束の融合作品。人間を食料とする昆虫種族と人類の帝国が戦いを繰り広げている未来宇宙。超空間航行中の戦艦が謎の敵から攻撃を受け大破。唯一の生き残り士官が脱出ポットで降り立った星は、人類に連なる者が生息する、剣と魔法の世界だった……というもの。スタートレックの未開文明潜入ものとか、パーネルの「デイヴィッド王の宇宙船」とか、シェールの「地球への追放者」とか好きな人にお勧めしたい。

『人外姫様、始めました』 子日あきすず
 よくある「VRなMMORPGに参加して、人とは違ったことをしていたら何か活躍できちゃいました」というやつで、デスゲームでも異世界転生でもないので一歩間違うとなんの緊張感もなく、だらだらプレイ日記が続くだけになるのだけれど、ここはキャラクター造形とイベントの配置で巧くクリア。あとは上手に着地できるかどうかですね。

『ロープレ世界は無理ゲーでした』 二八乃端月
 「ゲームそのままの世界に転生していて、しかも悪役キャラなので破滅しないよう何とかする」、ウェブ小説では非常に多いパターンの話なんだけれど、チート能力があるわけでもなく、ゲーム知識がそんなに万能でもなく、記憶が戻るまでにしでかしていた悪行・悪評を簡単に払拭もできず……と、この手の話のお約束を封じた上でコツコツやっていくところが面白いのです。ヒロインがそのままもう1人の主人公状態で、表と裏で話が進んでいきます。イラストも完璧。

『ひとりぼっちの異世界攻略』 五示正司
 クラス丸ごと集団で異世界転移で、案の定仲間割れして……という話だけれど、ぽつんと孤立した主人公が常軌を逸しているので一周回ってほんわかムードさえ醸し出す1冊。
 文章が下手だとか読みにくいとか指摘もあるみたいだけれど、主人公以外の視点ではすっきりはっきり書かれているので、つまりは主人公の狂気についていけてないだけ。博覧強記にして最弱の主人公が、他人には理解できない論理と飛躍しまくる思考で飛び回っているだけなのです。肉壁委員長の通訳は必須です。

『淡海乃海 水面が揺れる時』 イスラーフィール
 昨年末より書籍化スタートした戦国転生もの。琵琶湖の辺の朽木庄に泡沫の戦国武将として転生した主人公が、有力勢力がぶつかり合う渦中でいかにバランスをとりながら生き残り、大大名へと成り上がっていくかの戦国絵巻。

『冒険者になりたいと都に出て行った娘がSランクになってた』 門司柿家
 うだつの上がらない冒険者が片足を失ったのを契機に引退。故郷の村へ戻って、森で拾った赤ん坊を育てることにしたのだけれど、それが見事に成長。Sランク冒険者となったのだけれど、お父さん大好きっ子はあちらこちらで「お父さんはスゴイ冒険者だったんだ!」と父親自慢しまくりで、本人の知らぬ間に過大評価がググ上がり。その一方で、娘が故郷に帰ろうとするたびに大事件が起こり、お父さんに会えない!と逆上しながら魔物討伐に奔走するファンタジーコメディ。でも、ドタバタではなく、中学校の図書館あたりで末永く読み継がれて欲しいファンタジー。

『エートスの窓から見上げる空』 かめのまぶた
 ジジイとJKの謎解き相談というけれど、日常系ミステリと言い切るにもためらう程度のミステリで、どちらかというと少女たちの友情以上、百合未満な空気の中で繰り広げられる青春のやりとりを、至近距離から野次馬根性で見守り、あれこれ詮索する怪しい二人組の下世話小説。

『信長公弟記』 彩戸ゆめ
 転生に大切なことは、すべて鉄腕DASHで学んだ……が結論かな。
 この1年ほどで信長系の作品がドッと出たけれど、その中で読みやすく面白いものの1つ。ちゃんと連載が続いて、書籍版まで完結することを願ってやみません。

『素人おっさん、転生サッカーライフを満喫する』 ハーーナ殿下
 交通事故で両親と妹を失い、自らも後遺症に20余年苦しんだ末に死亡した主人公が、自分が応援してきた地元のサッカーチーム解散のニュースを聞き、自分にもっと力があったら……と、気がつけば幼稚園児に戻っていたところから始まる転生やり直し系スポーツ小説。キーワードで「超スピード展開」とつくくらい、テンポの良いストーリー展開が魅力。かといって、ダイジェスト版ということではなく、メリハリがついて語るエピソードの取捨選択が上手いんですね。
 ただ、スポーツ小説も売り方が下手で打ち切られることが多いので、ここも頑張って感動の最終回まで続いて欲しいです。

『異世界のんびり農家』 内藤騎之介
 最近目立つ異世界スローライフ系農家もの。ウェブで読んでいると、携帯小説的というか、やたら一文が短くて改行が多く、会話とモノローグ中心で話が進むのでいまいちかなあと思いつつ、気がつけば何度か読み返していたんで、つまりは面白いんです。
 勘違い系というか、自分とその仲間たちのとんでもなさに主人公だけが気づいていない農村開拓話。書籍版は送り手側のこだわりが随所に見られる、素晴らしいできばえです。

『予言の経済学』 のらふくろう
 災厄を予言する巫女の言葉を誰も信じなかった。そもそも具体的な日時も場所も内容も不明では対策の取りようもない。しかし災厄の到来を確信し、悩む巫女が出会ったのは、成り上がりの中小商人の息子だった……という、科学的思考法を武器に、あやふやな予言を1つ1つ検証して不明点を潰していく、安楽椅子型異世界ファンタジー。
 確かに内容通りではあるけれど、タイトルがなんか堅苦しくて損してます。予言された災厄に立ち向かう英雄譚であり、学園ラブコメであり、競争相手を蹴落としながら成長していく経済小説であり、セントラルガーデンの仲間たちと困難に立ち向かう冒険小説です。

『異世界からの企業進出!? 』 七士七海
 神々同士の争いから異世界に放逐された人間以外の種族は、なんとか元の世界に帰還しようとするが、彼らは魔族と呼ばれ、勇者との戦いは苦戦続きで願いは叶わない。そこで前線の拠点であるダンジョンをなんとか強化しようと、現代日本からテスターをリクルートすることにした。勇者の主要産地なら、さぞかし有望な社員アルバイトが採用できるだろうという算段なのだが……という、転職サクセス・ストーリーで、現代人のダンジョン攻略物のバリエーション。


 今期は、定番のパターンながら細部をきっちり詰めて完成度を上げた作品が目白押し。どれも面白く、きちんと完結して欲しいけれど、毎月何十点と刊行される類書に埋没しそうで不安です。せめて、出版社がきちんと作品のどこが面白いか、ウケているのか理解して、それに見合った本を作り、売って欲しいものですが、「どこをみている編集!」「営業は仕事してるのか?」と言いたくなるケースが多く残念です。『人外姫様、始めました』とかMMOもので掲示板回を横書きにしない編集は能力ないよねと思っちゃいます。横書き文化をなめてるよね。「つ」を縦書きにしたら、意味が通じないじゃないか。
 そんな中、『航宙軍士官、冒険者になる』『異世界のんびり農家』『冒険者になりたいと都に出て行った娘がSランクになってた』あたりは、出来上がりの本が良いので期待できそうです。
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★「現代ダンジョン」もの

2018-07-30 | ランキング・カテゴリー
 現代日本やその他諸国に、いきなりファンタジーさながらの巨大迷宮が出現し、モンスターが溢れ出すというパターンのお話しも一つの定番です。門をくぐると異世界に入り込むという古来からのファンタジー・メルヘン・神話における「現実世界と異世界の連続性」という定番ネタと、「現実世界への異世界の侵食」ネタを合わせて、ウィザードリィ風のトレジャーハンターものにしてみたという合わせ技です。
 この場合のお話作りのポイントは「現代文明とファンタジー設定のすりあわせ」。単純に銃火器を取りそろえた軍隊が存在するのに、わざわざ民間人を冒険者に仕立てて迷宮に送り込む理由の説得力というか、どういう理由付けをして、それが物語の展開にどう活かされているかに興味が湧きます。
 いちばん気になるのは「ダンジョンから回収される肉や野菜」が食糧供給源のメインになっているような話でしょうか。日本限定で考えてもじゃがいもだけで年間産出量が250万トン前後。これをダンジョンのドロップで賄おうとか無理筋です。

2007
『ヴァンガード』 深見真
 巨大で厚い壁に阻まれて外界と孤立した東京の人々が、アサルトライフルやショットガンから輸送用ロボットまで駆使してモンスターの出没する迷宮をがしがし攻略していく話で、完全に現代兵器vsモンスターと漢らしい物語。


2008
『迷宮街クロニクル』 林亮介
 和風ウィザードリィ純情派。舞台は現代日本でありながら冒険者が剣と魔法しか使えないのは法規上の問題で、銃火器で対抗できるモンスターがいる迷宮に剣で挑んだ冒険者が続々と死んでいくという、そっちの方が政治的に問題あるんじゃないかという話。


2014
『秋葉原ダンジョン冒険奇譚』 中野くみん 
 迷宮エリア内では物理法則その他が外部と異なってしまうとはっきり割り切った話で、現代科学の産物は迷宮では使えないという設定。


2015
『魚里高校ダンジョン部!』 安歩みつる
 世界には八百万の神さまが存在していて、ダンジョンも普通に存在していて、人間以外のヒトも当たり前に生活していて、ダンジョン攻略がスポーツ競技化している世界。


2018
『冒険家になろう!』 萩鵜アキ
 一応、銃火器は使えるけれど、跳弾して床や壁に当たると迷宮そのものに攻撃したとみなされてスタンピードが起きるため、推奨されないという設定。で、単発なら剣や槍の方が熟練した分だけ威力も上がって効率的という話。

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私的年間ベスト2017

2017-12-31 | ランキング・カテゴリー
 この1年、体調は悪いし、気分は滅入るし、そんなときは新しい本を読む気も起きなくて、あらすじも結末もわかりきった本を何度もパラパラ読み飛ばしながらゴロ寝。なので、積ん読の山が大きくなるばかり。
 ただ、けっこう「小説家になろう」の作品は読んでます。布団にくるまっていても、読めるのが良いね。新刊出たら購入前に内容は最新話までチェックするのが鉄則。こういう話って、導入部は面白くても勢いが続かないとか、展開が好みに合わなくなるのも多いので。それからジャンルごとの期間ランキングはひととおりチェック……だから、山が低くならないのかなあ。
 とりあえず、今年読んで面白かった本。

『ドラゴンは寂しいと死んじゃいます』 藤原ゴンザレス
 たった1人で戦局をひっくり返すことのできる傭兵アッシュは、身長2メートルを超える巨漢で、顔は殺人鬼のように怖い。でも、本当は畑仕事とお菓子作りの生活に憧れている、多感な17歳なのだ。そんなアッシュが傭兵を引退し、手に入れた幽霊屋敷で助けたのは、小さなドラゴンだった……。
 巨漢と小さなドラゴンの田舎暮らしのはずが、本人たちは何も変わらないのに周囲が右往左往して国が滅びかねない大惨事が連発して自業自得に陥るスローライフ・ファンタジー。

『黒の召喚士』 迷井豆腐
 転生者ケルヴィンは戦闘狂である。敵は強ければ強いほど嬉しいし、強い者は味方であるより敵であって欲しいという男だ。だから、転生した当初は完全に後衛向きのスキルだったのに、いつしか最前線で殺し合う冒険者になっていた。召喚士が接近戦に弱いと誰が決めたと……。
 清々しくも知性派脳筋な主人公による異世界冒険譚。どいつもこいつも頭は良いのに、最後は脳筋で残念なことになるあたりがツボ。

『スーパーカブ』 トネ・コーケン
 おとなしい女子高生が免許を取ってスーパーカブを手に入れ、自分でパーツつけたり整備とかしながら、学校に通ったりバイトしたりツーリングするだけの青春小説。バイク小説につきものの「知り合いが事故死」もない。これをスニーカー文庫で出したのがすごいと思う。絶対、一般文芸だよ。
 それでも2巻が出ました。よかった。

『BLACK TO THE FUTURE』 左高例
 犯罪者が跋扈するアメリカの大都市ゴッタマシティの黒人警官はギャングに襲撃されて死に、なぜか奈良時代の日本で転生した。その名は、坂ノ上田村麻呂……。
 異世界転生ものは多いけれど、ひねりすぎてしまった怪作。転生してもアメリカ人なので日本の歴史なんか知らないし、コーンフレークくらいしか料理をしないので内政チートもできないという、なんにもメリットのない転生チートもの。でも、球技は強くて修羅場慣れはしてるのな。

『陶都物語』 
 斜陽の多治見の陶磁器業者の社長が過労死して、幕末に転生。今からスタートを切れば、多治見の陶器は天下を取れると考えるのだが、彼はいまだ幼子で、しかも貧農の末っ子。なんの力もないのだった……というところから始まる、陶磁器好きの下克上。
 山あり谷ありのかっぱぎ人生も、尾張藩主からかっ剥ぎ、大老からかっ剥ぎ、ロシア人からかっ剥ぎ、今はアメリカ人からどれだけかっ剥げるか!?というところまでウェブ連載は来てます。続きが楽しみ!

『オッサン(36)がアイドルになる話』
 真面目で人柄は良いのに、太っていたため苛められ続けた少年時代。頑張って大学を卒業して就職しても業績不振を口実にクビを切られて無職に。成果を出しても評価されない社会人生活についに折れ、弥勒は自室に引きこもってしまう。それからおよそ10年で、ミロクも36歳。動画サイトに影響されてダンスを始め、スポーツジムに通っているうちに体重は減り、そのカラオケ動画がネットに流れてしまい……。
 36歳のオッサンが、なぜかアイドルになってしまう人生やり直し芸能小説。転生しなくても人間って変われるんだー。でも、やはり性格の良さと努力は大事だよね。そこがスタートなのだ。

『魔王様、リトライ!』 神埼黒音
 自分で運営していたオンラインゲームのボスキャラに転生してしまったものの、その世界は現実世界でもゲームの世界でもなかった。しかし、なぜかゲームのアイテムは使用することができて……というところから始まる、勘違い系悪役無双ストーリー。
 魔王あるいは堕天使と呼ばれるようになった主人公が、適当に話を合わせて会話しているだけで相手は勝手に深謀遠慮だと勘違いし、また実際にそれを成し遂げる力があるものだから、話はなりゆき任せに転がって、勇者や魔人、はたまた周辺諸国を巻き込む大騒ぎになっていく。

『その無限の先へ』 二ツ樹五輪
 その世界には転生者が普通に存在していた。とはいえ、現代日本からの転生者はそんなに多くはなかったのだが、ツナは迷宮都市へ向かう車中で日本人から転生したというユキという少年と出会う。彼らが向かう迷宮都市は、外部にはその実態がほとんど知られていないが、どうやら日本人が創り上げた都市らしい……。
 死んでも復活できる不思議な迷宮で、1度も死なないまま攻略を続ける少年とその仲間たちの迷宮探索ストーリー。この話も3巻でドM紳士の武闘家サージェスが仲間に加わってから加速しはじめ、次第にパンダが増殖しはじめ、いつの間にか主人公のパーティーがキワモノ冒険者の溜まり場と化していくあたりが面白いわけですが、いよいよこれからという5巻で刊行が足踏みしてます。続きが待ち遠しいシリーズです。

『神達に拾われた男』 Roy
 世界間の魔力のやりとりに使われるため転生することになったリョウマだが、その人柄が異世界の神々に愛されて人一倍の加護を得てしまう。だが、もともと人づきあいが得意ではなかったリョウマは、これ幸いと森の奥深くに引きこもり、スライムの研究や武術の鍛錬に明け暮れて、なかなか人間社会と接触しないまま数年が経過していくのだが……。
 雑魚キャラ扱いされていたスライムのテイマーとして頭角を現していく主人公の冒険譚。あるいはクリーニング&ハウスクリーニング・ストーリー。

『雷帝のメイド』 なこはる
 貧乏貴族の若様が屋敷のメイドとして連れてきた少女ナナキは、かつては帝国最強の戦士である五帝の1人であり、単身で神をも屠る雷帝であり、今は予言によって帝国の敵とされた逃亡者でもある。メイドに転職したナナキはマスターメイドをめざし、掃除洗濯に奔走しながら(厨房には立ち入り禁止)、行く手を遮る障害物を抹殺していく。己の誇りのために。
 最強最悪の戦士がメイドとしても有能なポンコツぶりを発揮するアクションコメディなファンタジー。

 今年いちばんの良いニュースは『陶都物語』が書籍化したこと。
 今年いちばんの悪いニュースは『陶都物語』が1巻で打ち切りになってしまったこと。
 こういうの多いよね。『嫌われ者始めました』とか『異世界詐欺師のなんちゃって経営術』とか、あれやこれや。連載が続いているのに新刊が長く出ていないと、これもそうかなと不安になります。
 作者が自作が書籍化したことに満足したり本業が忙しくなって書けなくなったというならいざ知らず、そうでなければ、これって出版社の無能を示しているだけかと思います。
 たとえば「小説家になろう」っていうのは長短合わせて約50万作品がひしめくところで、そこで期間限定だろうがランキング上位を取った、何百万プレビュー獲得したというのは、週刊雑誌のアンケートで4週連続トップを取ったくらいの快挙です。小説の新人賞と比較したって、下読みから選者・編集者まで合わせたところで、その何千倍かのウェブの読者の評価を得て出てきた作品です。
 それだけの中から抜き出てきた作品をひょいひょいとつまんで書籍化して、売れなかったから打ち切りねー!(^_^)なんてのは、編集者の無能で、営業や宣伝の無為無策の結果でしかありません。自社レーベルの読者層と合わない作品を引っ張ってしまった、読みたい読者の手に届くように宣伝できていなかった、買おうと思った読者が買いに行った書店の店頭に配本できなかった……それだけです。
 まあ、商売ですから、売れなければ切るのは当然かもしれませんが、売りようによっては売れたはずの作品をドブに捨ててしまったということで、自分たちの恥をさらしているということでもあると気づいて欲しいですね。
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★勘違い系

2017-08-22 | ランキング・カテゴリー
 文化ギャップから言動が本人の意図以上に好意的に解釈され、その結果、主人公が過大評価されてしまう物語。マーク・トゥエインの『王子と乞食』なんかもそれっぽい。

『こんにゃく問答』 落語
 旅僧に禅問答をしかけられた住職が、出入りのこんにゃく屋の主人に代役を依頼。替え玉住職になったこんにゃく屋の主人が、口もきけず耳も聞こえないふりをしていると、旅僧は無言の行ととりちがえ、互いに身振り手振りだけで会話を交わすことになるが、旅僧はこんにゃく屋を賢人と考え違いをして平伏し、こんにゃく屋はこちらが替え玉であることに気がついたと感心する。

『オーバーロード』 丸山くがね
 気がついたらオンラインゲームで使っていた骸骨姿のネクロマンサーになっていたモモンガ。部下はすべて魔物や魔人。一般人のゲーマーの感覚でついぽろりと何か口走っても、周囲はさすがモモンガ様と感激し、その意をくんで世界征服へと邁進していく……。
 
『弓と剣』 淳A
 弓の腕だけが取り柄の青年貴族がひょんなことから成り上がり、その天然ボケもさすが若様と周囲が勝手に感激して評価が上がっていくけれど、本人はそんなたいしたことしてないよと逆に自己評価は低め。それがまた謙虚な御方だと評価が上がっていくヒロイック・コメディー。

『夜伽の国の月光姫』 青野海鳥
 お姫さまのの中身は現代日本から転生してきた、なまけもので引きこもりだったおっさんの魂。単なる怠け者の勘違い娘が、言葉も覚えられずたどたどしいことから本意が伝わらず、逆に考え深い高貴な姫と誤解されていく……勘違い系成り上がりファンタジー。

『幼女戦記』 カルロ・ゼン
 世界大戦間際の異世界に幼女として転生させられたエリートサラリーマン。自分が死なないよう、安楽な生活が出来るよう、現代サラリーマン的に組織の中で出世して、安全な立場につけるよう最大限効率的な仕事の仕方を模索するけれど、それが周囲に戦略的視野を持った優秀な士官として認識され、意図とは逆に常に最前線の激戦区に送り込まれ続ける。

『へっぽこ鬼日記』 田中莎月
 夜道の自販機でコーヒーを買おうとしていた学生が異世界に転移。気がついたら鬼の一族の末弟になっていて、見た目切れ者ながら中身へっぽこの剣士が陥る冒険と陰謀のコメディー。

『帰ってきたヒトラー』 ティムール・ヴェルメシュ
 大戦末期のベルリンから気がついたら21世紀のベルリンに転移していたアドルフ・ヒトラー。ヒトラー本人だと主張するが、周囲にはそっくりさん芸人だと誤解され、テレビの人気者となるうちに政界進出の話が舞い込む様になる。

『小さな国の救世主』 鷹見一幸
 反体制派に天才軍師と祭り上げられてしまった龍也だが、実は中央アジアの観光中にツアーからはぐれて戦渦に巻き込まれた日本の高校生に過ぎない。ただ、インターネットを通じて掲示板などからアイデアを借りられるだけなのだ……。
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★和風スチームパンク

2017-05-26 | ランキング・カテゴリー
 そもそもの話からすれば、人間の存在というものがどうとか、社会の構造とか文明の発展がどうのとかいう既存の枠組みを取っ払い、未来において人間の肉体が遺伝子改良やサイボーグ化で元の形を失ったり、巨大なネットワークで人間の意識が肉体を離れたり同化しちゃったりするようなサイバーでパンクな話を「サイバーパンク」と呼ぶようになりました。この「サイバーパンク」の定義そのものからして諸説あるけど、それは置いときます。
 これに対して、イギリスのヴィクトリア朝あたりを舞台にした作品なのに、ネジ歯車や蒸気機関による技術革新がオーバーテクノロジー的に発展し、レトロ風味だけど変に高度なテクノロジーが発達している世界の物語を「スチームパンク」と呼びます。これは、ジーターが「あれがサイバーパンクなら、自分たちの書くような話はスチームパンクと呼んで差別化しようぜ」と言い出したことが始まります。このあたりはジーターの『悪魔の機械』の後書きに詳しいです。
 それで、スチームパンクというのは超未来的技術が跋扈しているヴィクトリア朝ロンドンとか、アメリカ西部開拓時代とかが舞台になるわけですが、その亜流ともいうべき物語は日本にもあります。
 「和風スチームパンク」というべきか、「カラクリ時代劇」というべきか、戦国時代や江戸時代を舞台に、トンデモな超兵器がしれっと登場する作品ですが、日本の場合、これにまことしやかに忍術忍法が混ざってくるので油断なりません。

『虚船』 松浦秀昭 
 文化年間。江戸幕府は既に地球防衛組織<青奉行>を結成していた。
 <青奉行>の本部は江戸のとある問屋の地下深く、秘密裏に造られ、直情径行な奉行職・浅葱のもと、日夜、謎の円盤・虚船に対し、敢然と立ち向かっていたのである……と、宇宙からの侵略者相手に花火を使った哨戒網からカラクリ仕掛けの巨大ロボットまで駆使して立ち向かう物語です。

『赤胴鈴之介』 原作:武内つなよし
 時は幕末。鈴之助は剣術家として著名な千葉道場に入門し、兄弟子やライバルたちと切磋琢磨しながら幕府転覆をもくろむ鬼面党と対決していく……という1950年代の少年マンガから始まって、ラジオや映画になった活劇のアニメ版。最初は普通の武芸ものだったのに、いつの間にか機械仕掛けの青銅鬼が登場したり、敵方に戦車やら水中竜型潜水艦やら蝙蝠型の飛行メカが登場して怪しげなことに。
 最近の国産ファンタジーでは真空状態で敵を切り裂く風魔法が定番だけれど、これはこの作品の「真空斬り」が根底にあると信じてます。

『大菩薩峠の要塞』 朝松健
 天保八年、甲州鴉ケ原で砲術試合が開催されるということで、日本各地より名うての銃士たちが集まっていた。だが、それは幕府転覆を画策する滝津姫の陰謀であった。砲術試合を隠れ蓑に、大菩薩峠に密かに築かれた巨大要塞では、巨大砲が江戸城を照準に入れようとしていた……という、幕末ガンアクション小説。

『仮面の忍者 赤影』 原作:横山光輝
 戦国時代も末期。織田信長や木下藤吉郎らが頼みとする忍者がいた。飛騨の影一族、その赤影は仲間の青影や白影らと共に、金目教を操る甲賀忍軍やまんじ党などの忍者たちと戦い続ける!……という1967年テレビ特撮作品。テレビ版は日本のスチームパンクの金字塔。
 巨大な神像を模ったロボットや怪獣と忍者が空を飛び、砲撃し、爆撃して戦う大活劇。巨大なコマが地を割って出現し、巨大要塞が空を飛び海中に潜り、サイレンが鳴り響き、空飛ぶパラソルと大凧が空中戦を繰り広げ、南蛮渡来のビーム砲で水上バイクを撃破するようなことを平然とする話。あ、原作マンガは真っ当な忍者ものです。

『ロボットカーニバル』 監督:北久保弘之 他
 8人のクリエーターが「ロボット」をテーマに制作した7本のアニメ短編を収録したオムニバス集。その一篇、「明治からくり文明奇譚〜紅毛人襲来之巻〜」。
 まだ江戸時代の風景が残る東京。その帝都を狙う紅毛人マッドサイエンティストの巨大ロボットに立ち向かうのは、祭のために作られていた人型山車であった……。

『さくや妖怪伝』 監督:原口智生
 富士山の噴火によって結界が破れ、封じられていた妖怪たちが地上に出現した。幕府の密命により、公儀妖怪討伐士の少女・咲夜は土蜘蛛の女王を討伐すべく仲間たちと旅立った……という忍者+妖怪もの。スチームパンクというにはギミックが大筒1つで物足りないけれど、巨大な松阪慶子は必見。

『白獅子仮面』 制作:大和企画
妖怪を率いて江戸を支配しようとする火焔大魔王に立ち向かうため、大岡越前は影与力・剣兵馬を長とする武装同心隊を結成。兵馬は獅子面の神の力で白獅子仮面となって妖怪に立ち向かう……という大江戸変身ヒーローもの。編隊を組んで飛来する唐傘小僧の大軍を、手裏剣投擲で撃ち落としていくシーンが好き。江戸空襲かよと。

『変身忍者 嵐』 原作:石森章太郎
 魔神斉が従える忍者集団・血車党が日本を征服すべく動き出した。化身忍者の秘法によって肉体改造されたハヤテは、変身忍者嵐に化身して仲間の伊賀忍者たちとともに立ち向かう……という赤影の系譜に仮面ライダーの血を流し込んだ作品。
 前半は血車党の化身忍者が敵だけれど、後半は魔神斉を操っていた大魔王サタンの西洋妖怪軍団と戦いますが、これを今風にリメイクすると「仮面ライダー響鬼」になります。

『風雲ライオン丸』 原作:うしおそうじ
 『快傑ライオン丸』の後番組だけれど、主人公は役者も同じで名前も同じの別人。『素浪人 月影兵庫』と『素浪人花山大吉』の関係と同じですね。


 本家スチームパンクだとレトロな超技術を登場させるのに世間に認められない発明家の作品とか歴史とは似て非なる別世界にしなくちゃいけないのだけれど、和風スチームの場合は「忍者の秘術」「南蛮渡来の技術」でたいてい説明つくんだよね。どれだけ万能なんだ、南蛮? あと、これに平賀源内を加えると完璧。
 こういうのって、こども向けに限らず、さらっと大人向けにも混ざっているのが特徴。子連れ狼の乳母車とか必殺仕事人のアイテムとか。
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私的年間ベスト2016

2016-12-31 | ランキング・カテゴリー
 今年も読んで面白かったものを順番にまとめて総括。
 こうして見ると「この話って、刊行始まってまだ1年足らず?」と思うものもしばしばです。
 ウェブから読んでいるせいでしょうけれど。

『戦国小町苦労譚』 夾竹桃
 農業系女子高生が戦国時代にトリップして信長配下となり、異世界DASH村を建設する話。
 チートな異能力に頼らない内政系タイムトリップもの。そのうち外交とか戦争とかにも関わるけれど、すぐに村に戻って開墾と農産物の開発に取り組む日々です。
 話も進んで、もはや女子高生という歳ではなくなりましたが……。

『人狼への転生、魔王の副官』 漂月
 瞬く間に辺境都市を陥落させた魔王軍。しかし、その指揮官である人狼ヴァイトは、元人間の転生者だった。魔物の力に人間の知謀……。
 主人公は自己評価が低すぎで、その一方で周囲は勘違いから実際以上に高評価され、結果としてギャップがすごく大きくなる話。文章の緩急が効いていて、さくさく話が進むのに急いでる感じがしないのは、場面転換が巧いからかな。
 自分は所詮小物で副官レベルがお似合いと卑下しながら、実は彼が倒れれば国一つ倒れかねないのに自覚のないのに周囲が苦労する物語でもあります。おとなしく後ろで控えてくれれば良いのに、すぐ突貫、特攻しちゃうから、周囲の気苦労はいかほどのものか。

『銀河連合日本』 松本保羽
 地球に突如飛来した異星人たち。しかし、ファーストコンタクトを求めてきた異星人たちは、なぜか日本にしか興味を示さなかった……という展開で、アニメやコミックなどサブカルが第一の理由にならないのは珍しいかも。
 真っ当なファーストコンタクトSFというより、人類が銀河文明に加わっていこうとする過程でぶつかる政治問題を描いたラブストーリー。やっぱ日本人ってスゴイよな! 陛下万歳!という話ですが、ウェブ版では最後の最後に(それまでみそっかす扱いだった)アメリカ海兵隊が見せ場をかっさらっていくのがツボ。

『銭(インチキ)の力で、戦国の世を駆け抜ける。』 Y.A
 宇宙の事故で時間と空間を飛び越えて戦国期の地球に漂着した日系宇宙人の運送業者一家が、宇宙船で沈没船の財宝を引き上げて売り払ったり、オーバーテクノロジーな機械で干拓事業をごり押ししつつ、信長配下として着々と勢力拡大していく話。
 よくある戦国内政系チートものなんだけれど、メリハリがしっかり効いていて痛快。戦いは火力だよ、アニキぃ!とばかり長距離殲滅戦志向で戦場を蹂躙していきます……。

『火輪を抱いた少女』 七沢またり
 ひとことでいうと、血に飢えた愛少女ポリアンナ。
 この作者のシリーズは、可憐な少女が巨大な武器を振りかざして無双する、そして少女のものの考え方が常人からかけ離れていて理解困難というのが特色で、その少女がリアルに血肉を持った存在なのか、単なる悪夢が見せた幻影なのか、物語が進むうちに境界線が分からなくなり、最後には周囲の多くを巻き込んで歴史の彼方に消えていく姿が魅力です。

『異世界詐欺師のなんちゃって経営術』 宮地拓海
 騙した相手に殺された詐欺師が異世界に転生したものの、そこはウソをつくとカエルにされてしまう世界だった……というところから始まる異世界コンサルティング物語で、巧妙な語り口で繰り返されるノリツッコミが印象的。最近読んだコンサルものの中ではいちばん面白く、物語としてもまとまってました。
 ウェブ連載で気になっていた部分も書籍版でさりげなく差し替えられていて、安心して読めました。

『アラフォー賢者の異世界生活日記』 寿安清
 異世界の神様の手抜きで死んでしまったVRMMOゲーマーが、アバターの能力そのままに異世界転生。“黒の殲滅者”と異名を取るほどのトップキャラが異世界でやりたい放題、日々平穏を求めて好き勝手に生きる冒険譚。
 異世界転生系のテンプレ要素をことごとく詰め込みながら、無理矢理感がないまま面白く読めてしまう、ジャンルを体現した1冊。

『嫌われ者始めました』 くま太郎
 もはや定番となった「ゲームの悪役に転生しちゃった」話の男性版。悪女なら才色兼備で性格だけ悪いというのが定番だけれど、男なのでひたすら貧相。よくあるのは設定だけ貧相とか普通といっているのにイラストは格好良いというやつですが、安心してください。イラストも終始貧相です。
 そして真面目に将来設計して民草のために仕事してるのに、なぜかヒロインたちには毛虫のごとく嫌われますが、ここで気にせず、むしろ距離を置いてもらった方が好都合と黙々と働く主人公のワーカーホリックぶりが格好良いです。

『セーブ&ロードのできる宿屋さん』 稲荷竜
 初心者冒険者を短期養成で一人前に育ててくれるという噂の宿屋さんの物語。
 ネタ的にはタイトルでモロバレなんだけれど、これを天丼で押し込んでこられると物量で負けます。ハッピーエンドなので笑って読めるけど、「とりあえず死にましょう」「たすけて」「死ななければ殺人じゃありません」「たすけて」と客観的に一言でまとめると「静かなる狂気」。そして「豆」。

『武姫の後宮物語』 筧千里
 新しい王の後宮に呼び集められた美姫たちのうち、最年長のヘレナがなぜか皇帝のお気に入りに。皇帝の年増好き疑惑が持ち上がる中、権謀術策が蔓延する後宮の勢力争いに巻き込まれたヘレナは、何も考えず、ただ肉体の鍛錬に専念していた。
 本来の彼女は淑女ではなく、次期将軍候補と謳われるほどの武勇に優れた戦士だったのだ……という、脳筋ヒロインの武勇譚という、熱血スポーツ根性後宮小説。


 最近ではアルファポリスとかカクヨムもありますが、あいかわらず「なろう系」の書籍化が多いですね。
 でも、こういうウェブ小説は、最初は面白くても長編化していくうちにルーチンに陥り、「水戸黄門」化くらいならともかく「くれくれタコラ」「ウルトラファイト」全話視聴くらいの単調な展開になりがちです。新しい街や迷宮に到着、大暴れでモンスター退治、戦利品を持ち込んで驚かれる、みんなで日本食を愉しむ……の繰り返しとか、いつまでもいつまでも戦争を繰り返していたり。
 そういう中で書籍換算して5冊10冊と飽かせず続けられる作品は本当にスゴイと思います。
 願わくば、そういう作品はすべてそれなりに売れて完結できますように。

 それでは皆様、よいお年をお迎えください。
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★キャラクターの顔が突然変わる

2016-12-27 | ランキング・カテゴリー
 劇画タッチ、リアルっぽい絵のキャラクターが突然に頭身が小さくなってギャグっぽくなるマンガというのも今では普通になったかな。

『ホモホモ7』みなもと太郎(1970)
 劇画調のキャラが一瞬で3頭身そこそこに変貌するスパイもののコメディ。
 単なる一発ネタとして突然のキャラの変貌というだけなら手塚治虫のマンガが(ひょうたんつぎとか)普通にやっているので、どこが最初かきちんと調べようとすると、まず手塚治虫の作品をチェックしないといけませんが、作品としてそれを売りにしたのはたぶんこの作品が最初。

『がきデカ』山上たつひこ(1974)
 でもヒットした大きさで言えば、『がきデカ』にはかなわない。
 日本初の少年警察官と自称するこまわり君の暴走に、彼が通う小学校の同級生たちが巻き込まれるギャグ漫画。下品でエッチで絶対親には読ませちゃいけないやつ。
 イメージソングの「恐怖のこまわり君」もヒットしたらしい。どれくらいヒットしたかは知らないけれど、当時のラジオでは頻繁に「がんばれがんばれ ぼくのパンツ」の歌詞が流れてました。

『マカロニほうれん荘』鴨川つばめ(1977)
 真面目な高校生が、クラスメイトで下宿も同じという2人の落第生が巻き起こす騒動に巻き込まれる、スラップスティック・ギャグ漫画。頭身変化をギャグのメインに据えた作品。
 「トシちゃん25歳」とか「きんどーちゃん40歳」とか、当時の小中学生はみんな読んでた。

『軽井沢シンドローム』たがみよしひさ(1981)
 別荘地・軽井沢を舞台にした女性ヌード専門のフリーカメラマンと若者たちの青春群像で、女と女と女と女と暴走族の抗争の物語。基本的にシリアスな話なのに、登場人物がリアルな八頭身からギャグ頭身にひんぱんに切り替わったり、アニメや特撮ネタが随所に出てきたりして、重苦しさを吹き飛ばしてました。
 OVAでは、エッチなシーンになるとアニメから実写のイメージ映像に切り替わってたなあ……。
 エロマンガ以外で肯定的にハーレムエンドを描いた先駆け。

 ただ、前述したけれど、油断できないのは手塚治虫。
 新しい試みをどんどん考えていた人だし、何か流行りそうだとすぐに自分もマネして取り入れてくるし、しかも作品数が多いので、なにか「マンガ初めて」を考える時には、「この技法は先にどこかで手塚治虫が使っていないか」「この手塚治虫が使っている技法は、他で誰かが先に使っていないか」検証が必要な存在。
 手塚治虫はコミックや全集やCOMで一通り読んだけれど、手元にあるのは『白いパイロット』だけなので検証不能。とりあえず「手塚治虫以外で」としておきましょう。
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★時空を超えた恋物語

2016-10-30 | ランキング・カテゴリー
 映画「君の名は。」が大ヒットしているせいか、書店の新刊にちらほら「時空を超えた恋物語」みたいな話がちらほら。この手の話が流行るかもねと言っていたら、嫁さんが「それなら『王家の紋章』の時代が来たね!」と。それは正解だが、違うと思うぞ。
 そんなこんなで、「『君の名は。』を観て、こんなわくわくどきどきしたり、せつなくなったりする、時間SF&ファンタジーな恋愛要素のある作品を読みたい」というときのためのリストです。

『ハルカ 天空の邪馬台国』 桝田省治
 現代日本の高校生が自宅の蔵でみつけた銅鏡からの呼びかけに応えたばかりに、時空を飛び越え遙か太古の日本へと飛ばされる。彼を呼び出したのは邪馬台国の巫女ハルカ、そして女王卑弥呼。邪馬台国はおりしも存亡の危機を向かえており、張政は救国の英雄として呼び出された……という、和テイストというか古代日本が舞台で、ハラハラドキドキ、ちょっぴりエッチで胸熱な冒険譚。この作品だけでも完結しているし、語られなかった気になる伏線については続編「炎天の邪馬台国」にて回収。

『この胸いっぱいの愛を』 梶尾真治
 飛行機事故に遭った鈴谷比呂志は、気がつけば20年前の故郷に立っていた。つい子供の頃に暮らしていた街並みを散策してしまうが、そこで出会ったのは幼い自分だった。そこで彼は気がついた。20年前の今日、彼は祖母のための誕生ケーキを焼こうとして火事を起こしていたのだ……。
 やはり時間SFロマンス小説の傑作である「クロノス・ジョウンターの伝説」を映画化したものを、さらに作者自らノベライズしたもので、作品としてはこちらの方が分かりやすくて好きです。梶尾真治作品には、「ムーンライト・ラブコール」とか、この手のロマンスSFが多いですよね。

『夏への扉』 R・A・ハインライン
 婚約者に裏切られ、仕事も発明も奪い取られてしまった男が、人生を諦めて30年後に蘇る冷凍睡眠を申し込んだ。再び甦生できる保証もない未来への旅に同行するのは猫のピートだけだったが……。
 タイムパラドックスものだけれど、ネコ小説で、一種の恋愛小説で、「あきらめるな。幸せをつかむためにがんばれ」という話なので、そりゃあ面白いし、読んで元気が出るってもんです。今となっては「遙か未来」が2000年というのがツッコミどころ。今でいうルンバの姿を見よ。

『鵺姫真話』 岩本隆雄
 視力悪化で宇宙飛行士への道が断たれてしまった少女は傷心のまま帰郷。そこでなりゆきから剣道の奉納試合を引き受けることになるのだが……。
 連作である『星虫』『イーシャの舟』と合わせて「星虫年代記」として合本で出ているので、そちらで読むのが分かりやすいかも。宇宙開発の拠点となる未来都市から一転して昭和の香り漂う故郷の町、さらには時間を跳躍して戦国時代に放り込まれるという二転三転。過去へタイムスリップした人間が未来の知識で無双するとか、「実は誰それの正体は何某であった」といった王道パターンてんこ盛りのジュブナイル宇宙/時間SF。

『昨日は彼女も恋してた』 入間人間
 小さな離島に住む少年と少女は、道ですれ違うのもイヤなくらいに仲が悪い。そんな2人が、失敗ばかりの科学者の松平さんの助手として、何番目かのタイムマシンの実験につきあうはめになった。
 オンボロ軽トラを改造したタイムマシンに、今度もやっぱり失敗だと確信した2人だが、予想外に実験は成功。気がつけば2人は9年間前の世界にいた……。
 続編『明日も彼女は恋をする』と合わせて一対の物語。

『鬼切り夜鳥子』 桝田省治  
 平安時代の陰陽師・夜鳥子の霊に憑依され、妖怪退治をすることになった女子高生・駒子が主役の学園伝奇小説。1巻だけ読むと分からないけれど、3巻まで一気に読むと「ああ、こういう因縁だったんだな」と納得。とにかく駒子が走って戦って脱いで脱がされて、それを平凡なスーパーマン久遠がフォローし、さらにケモスキーな知性派委員長の三ツ橋さんが予想外の角度から突っ込んで解決する話です。

『ホルモー六景』 万城目学
 一般には知られていないことだが、京都の各大学には古より伝わるホルモーなる競技のサークルがあり、日々競い合っている。立命館大学のホルモーサークル「白虎隊」に所属する細川珠実は、バイト先の料亭の蔵で「なべ丸」という文字の書かれた古い「長持」を発見する。その長持ちに入っていた木片を使い、彼女はどこの誰ともしれぬ相手と文通することになるのだが……という『鴨川ホルモー』の外伝短編集に収録された「長持の恋」がフィニィ・タイプの超遠距離恋愛譚です。

『3分間のボーイ・ミーツ・ガール』 綾里けい他
 ボーイ・ミーツ・ガールをテーマにしたアンソロジー集で、オーソドックスな青春ストーリーもあれば、アンドロイドやAIとの恋あり、時間や空間を超えた出会いと別れありと、バラエティ豊富な短編集。とにかくいろいろあって、甘ったるいのもあれば、「確かにボーイ・ミーツ・ガールではあるけれど……」と斜め上な展開に首をかしげるものもあり、飽きさせない1冊。

『未来のおもいで』 梶尾真治
 世間の喧騒を逃れて登った白鳥山で滝水浩一は、雨に降られて見知らぬ女性と雨宿りをする。
 一緒に雨宿りをしてコーヒーを飲んだだけの相手が忘れられなくなっていることに気づいた滝水は、彼女の忘れものの手帳を手がかりに自宅を訪ねてみるが、そこで知ったのは彼女がまだ生まれていないらしいと言うことだった……。
 これはちょっと珍しい未来話。

『タイム・リープ あしたはきのう』 高畑京一郎
 月曜日だと思って登校した鹿島翔香は、いつの間にか火曜日になっていることを知るが、友人たちは皆、翔香は昨日も普通に学校に来ていたというのだ。彼女の月曜日の記憶はどこへ行ってしまったのか……。
 『時をかける少女』のように読後感さわやかで少し不思議な時間の物語。


 ざっと目にとまるのはこのくらい。
 ちょっと毛色は異なるけれど、北村薫の『ターン』『スキップ』『リセット』の時間小説3部作に手を出しても良いかな。
 ここでロバート・ネイサンの名作『ジェニーの肖像』を筆頭に挙げようかとも思ったけれど、よく考えたらこれって、『君の名は。』の前半部分でぶった切った様な話なんだよね。いちばん雰囲気が近いのは、『この胸いっぱいの愛を』かな。
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★あえて悪役

2016-03-05 | ランキング・カテゴリー
 本当はそんなに悪い人ではないはずなのに、あえて悪役とか黒幕とかを演じ、真に仕える存在のために敵対勢力をまとめ上げ、自分を道連れに葬ろうとする人の話がときどき出てきます。
 あまり詳しく書くとネタバレになりかねないので、自分の覚え書きとして。

『装甲騎兵ボトムズ』 サンライズ
 大規模な星間戦争が終わった後も小競り合いが続く世界で、星々を彷徨う流浪のAT乗りの数奇な運命を描いた戦記アニメ。

『薬屋のひとりごと』 日向夏
 毒薬マニアの薬屋の娘が後宮に引きずり込まれ、毒味役として活躍する後宮ミステリ。


 もっといっぱいあったはずなのに、あえて数えてみれば思い出すのは2作品。ぼつぼつ思い出していきましょう。
 劇場版『銀河鉄道999』もそういう話だった気がするけれど……。
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私的年間ベスト2015

2015-12-31 | ランキング・カテゴリー
 今年の初夢は、あちこちのレーベルが次々に廃刊になり、ウェブの方でも連載中断が激増する……というものでしたが、確かにカドカワの進出で関連レーベルが統廃合されちゃいましたね。そして統廃合がらみでウェブ版では連載中でも切られたのが『遅咲き冒険者』『男なら一国一城の主を目指さなきゃね』。それ以外だと『カボチャ頭のランタン』『やり直してもサッカー小僧』『異世界から帰ったら江戸なのである』と、真っ当に面白くて、ウェブでは先に続いているものが続々とスッパリと。
 そういう意味でイヤな年でした……。

『男なら一国一城の主を目指さなきゃね』  三度傘
 ウェブ発の異世界転生もの。田舎領主の末っ子として転生した元サラリーマンが、両親や兄姉を助けて領地開発を手がけながら、どうせファンタジーな異世界に転生したのなら一国一城の主を目指さなきゃと、同じく転生した元日本人を探しながら成長していく、立身出世な冒険譚。
 中世風な異世界は転生者でも厳しくて、奴隷階級に転生した者もいれば、チートな能力を発揮できるほど成長するまでに餓えたり魔物に襲われたりして死んでいく者も少なくないというシビアさも特色の1つ。

『本好きの下克上』  香月美夜
 ウェブ発の異世界転生もの。司書をめざしていたビブリオマニアな女子大生が、本に埋もれて死んだ果てに異世界で貧しい庶民階級の兵士の娘として転生。本が読みたくてたまらないのに、本どころか紙も文字も日常では目にすることすらできず、「本がなければ本を作れば良いのよ」と奮闘する話。
 目的がはっきりしていて前向きなヒロインが、女だから庶民だから病弱だから端から無理だと周囲が諭す声にも耳を貸さず、失敗を繰り返しながらも一歩ずつ目標を実現に向けて歩んでいく年代記。朝ドラのフォーマットなんだと思いました。病弱にして虚弱で日常生活すらままならない主人公が、本に関することだけは暴走してチートになるギャップが燃えどころです。

『やり直してもサッカー小僧』  黒須可雲太
 ウェブ発の人生やり直しスポーツもの。試合中の怪我によりサッカー選手としての道を絶たれた青年が、交通事故にあって目を覚ますと、小学3年生に戻っていた。「もう一度サッカーができる」喜びに、彼は手に入れた俯瞰でコートを見る力や将来身につけるはずのテクニックを武器にサッカー人生をやり直すことになる。
 サッカー馬鹿が全力でサッカーに打ち込む青春小説。書籍化にあたって文章にも手が加わり、さらに面白くなりましたが、2巻の小学生編にて終了。残念。

『紅霞後宮物語』 雪村花菜
 33歳独身にして武勇でも知略でも名を馳せた女将軍の後宮入り……。
 「彩雲国物語」のヒロインは文官でしたが、こちらは武官。バリバリの体育会系(脳筋とはいえないくらいには頭が切れる)ヒロインが女の園に乱入し、後宮の常識知らずでさまざまな障害をはねのけ打ち砕いていきます。
 とりあえず2巻まで。続刊に期待です。

『くまクマ熊ベアー』 くまなの
 ウェブ発の異世界召喚もの。VRMMOゲーム三昧のひきこもり美少女が異世界に招待。ところが与えられた装備はクマの着ぐるみ一式。それが譲渡不能な上にやたら強くて便利。レベルを上げてもプレイヤー自身は強くならずに、クマのぬいぐるみばかりが強化されていくので手放せず、恥ずかしさを我慢しているうちに周囲がだんだん慣れてきて……という話。
 ストーリーは単純明快で凝った伏線もない、王道の異世界転移のチート主人公の冒険譚だけれど、軽妙なテンポとキャラクターでぐいぐい読ませます。

『三田一族の意地を見よ』 三田弾正
 ウェブ発のご先祖転生ものの、戦国武将の奔走記。戦国時代の関東に転生してしまった現代人の主人公が、自らのご先祖である「三田余四郎」として上杉・武田・北條に包囲され滅亡寸前の一族を救おうと、現代知識を活用して生き残りを図ります。
 武勇とか知謀というよりテクノクラートとしてどこまでやれるかという話で、現代知識といってもせいぜい数年程度の誤差で他の誰かが思いつくようなものを、少しばかり先んじた事による優位性と量と運用でカバーしていく話です。トウェインの『アーサー王宮廷のヤンキー』以来の、過去に飛ばされた現代人の英雄譚としては正統派な作品です。

『リーングラードの学び舎より』 いえこけい
 ウェブ発の異世界転生ものっぽい教育ドラマ。内乱から立ち直りつつある王国が、10年先20年先を見据えて着手したのは「義務教育推進計画」。貴族も平民も同じくして教育を与え、次世代の国民として育てようというものだが、この常識外れの計画には反対も多い。その折衷案として1年間の試験運用が実施されることとなり、その教師の1人として選ばれたのは、内乱平定の影の功労者でもある術式師ヨシュアン・グラムだった……という、ドタバタ学園ファンタジーながら正統派の教師物語。

『異世界修学旅行』  岡本タクヤ
 落雷のショックで異世界に飛ばされてしまった修学旅行の高校生の一団。異世界転移と言ってもチートな能力が授かったわけでもなく、魔王はつい先週に死んだばかり。3ヶ月先に起きる日蝕のときに儀式をすれば帰れるというので、それまで修学旅行の続きを異世界で……。
 チートに頼らず普通に真っ当な人間がいちばん強い!というと何やらハードボイルドだけれど、これは隠し芸はチートに勝るという話なのです。

『グリモワール×リバース』 
 ウェブ発の異世界転生もの。気がついたら昔やりこんでいたRPGの世界で、ダンジョンの中ボスの鬼になっていた主人公。このままではいずれ登場する勇者一行にやられてしまうので、さっさと自分が守っていた宝箱の中身をいただいてボスキャラを一撃粉砕すると、憧れのゲーム世界の観光に飛び出した……。
 チートキャラの異世界漫遊記。本人はほとんど何も考えておらず、ただそのときの気分とか思いつきで行動しているだけなのに、それだからか、緻密に計略を企む周囲が翻弄されるような活劇になっています。

『ドラゴンさんは友達が欲しい!』  道草家守
 ウェブ発の異世界転生もの。ぼっちの女子大生が事故で死んで、今度は異世界のドラゴンに転生。
 ところがそもそもドラゴンというのは世界の魔力の流れを制御する存在であり、何十年何百年単位で黙々と作業を続ける、まさにぼっち種族。それでも友達が欲しいとあれこれ考えてはみるけれど、他の種族は自分を見るなり逃げ出すか戦いを仕掛けてくるばかり……。
 きれいに1巻完結した、ファンタジー世界のガール・ミーツ・ボーイ。外伝とか後日談も始まっているけれど、このほどよい長さの面白さが心地よいです。


 多少前後していますが、このあたりが「今年新刊で読んだ面白い話」10本です。『火輪を抱いた少女』も面白いけど、読み切れなかったので次回。
 あいかわらずウェブ先行(というか「なろう系」)作品が多いですが、そもそもライトノベル系新刊の半分くらいは「なろう系」で、残り半分はシリーズものの続刊じゃないかというこの頃ですから仕方がありません。試し読みもできるし、むしろハズレを引く確率は低くなってます。
 ただ、ウェブ版にあれこれ書き足しするのが、逆にマイナスになっている作品もあります。
 映画DVDの特典映像などを観ていると、「シナリオにはあったけれど撮影されなかったシーン」「撮影されたけれど公開時にはカットされたシーン」が多いことに気づかされます。取捨選択してブラッシュアップして完成度を上げているわけですが、小説だとついつい「ウェブの読者にも書籍版を喜んでもらおう」と増補改訂することが多く、それが蛇足になるケースがときどきあります。あれがもったいないなあと思います。
 もったいないといえばイラストレイターの選定。
 せっかくの面白い話なのに、どの作品のどんなシーンにもあてはまりそうな美少女ポーズ絵ばかり挿入されて、それがイラストですと言われても困ります。その作品のどこが面白く、それをイラストによってどうイメージを膨らませていくか、そんな配慮ができない作品はたいてい文章の方も読者への配慮が欠けたものになります。いかにも流れ作業でパッケージしましたという雰囲気です。
 イラストはあってもなくてもいいけれど、話に合わないイラストが付いてしまうと、もったいないなあと思います。

『乙女ゲーム世界で戦闘職を極めます』  笹の葉粟餅
 おまけにもう1本、妻のお気に入り。
 もはや定番パターンとなった「乙女ゲーム世界の悪役への転生」ものですが、ここが乙女ゲーム世界と気づいた瞬間に逃げだしを図り、ゲームキャラとしてのチートと、前世でのリアル戦闘チートによってナントカに刃物状態に磨きをかけていく物語。表紙に登場する人物がみんな人相ワルイよね。
 すごく面白いんだけれど、ウェブ掲載が1冊分になったかならずかで書籍化されたため、次がいつになるか、この先も面白いままなのか不安ということで次点となりました。


 それでは皆様、よいお年をお迎えください。

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★異世界交易

2015-12-21 | ランキング・カテゴリー
 現代社会に住んでいる主人公が、別の世界と行き来する力を手に入れる話のうち、商売に手を染めたものだけピックアップしてみます。

『ほこりまみれのゼブラ』 クリフォード・D・シマック(1960)
 机の上に置いていた切手がいつの間にか別の用途不明なアイテムと入れ替わっていたことから始まった、正体不明の別次元との物々交換。用途の判明したものを売り飛ばすことで大もうけする主人公とその友人家族だが……。
 主人公の息子ビルの不誠実な商売がトラブルの発端ともいえるけれど、物語の構造としては抜けた乳歯をコインに交換してくれるトゥース・フェアリーなどの妖精譚に近いかな。『神の眼の小さな塵』のウォッチメイカーの原点。短編集「愚者の聖戦」収録。

『ネトオク男の楽しい異世界貿易』 星崎崑(2013)
 蔵から見つけた古い姿見鏡を通じて異世界と行き来できるようになったアヤセ・ジロウ。こちらの量販店で購入した布や毛糸を異世界の市場で売り、あちらで購入した衣類や装飾品などをアンティーク風とネットオークションで売り払い。それを繰り返して小さいながらも店舗をかまえ、森の結界に守られた屋敷も購入。奴隷を購入したりと結構順風満帆なのだが、日本の家族にしてみればふらふらしてはどこかからこづかいを手に入れてくる、無職ニートにすぎなくて……。

『アウトブレイク・カンパニー~萌える侵略者』 榊一郎
 異世界への門が開いてしまった日本からは、テクノロジーレベルとか動力源とか問題が起こらないようオタクな映像作品や書籍等が輸出され、それで資源確保しようという文化侵略。

『ゲート』 柳内たくみ
 一応戦争状態だけれども、難民の市場が拡大して部分的に交易状態に。異世界の通貨は現代日本へは持ち込まず、政府予算で美術品を購入した形にして調略用としてまたあちらの世界へ還元するというサイクル。こういうシステムを確立する話は意外に珍しいかも。

『反逆の勇者と道具袋』 大沢雅紀
 異世界に無理矢理に連れて行かれ、なんとか成功の足場を築いたかと思えばまた元の世界に送還され……という展開で、あっちの世界で手に入れた金貨を換金して銀行入金という、けっこう所得捕捉の視点ではアブナイ橋を渡ってます。

 犬塚惇平の『異世界食堂』あたりになると、異世界のお金は異世界の食材を購入するのに使われていて、食堂が異世界と現代日本の交点となるだけで人も物も行き来しないのでスルーできますが、杜間とまとの『無職独身アラフォー女子の異世界奮闘記』は身体の一部は元の世界の自分の部屋に入れるので、ネットオークションで異世界の小物や装備品をアンティークとして売りさばいて資金確保してますし、他にも100均ショップと質屋を有効活用している話がちらほら。
 最近は国税局も電子商取引専門調査チームを設置してますので、個人がたまにネットオークションを利用するくらいなら無視されるでしょうが、定期的にインターネット取引をしていて20万円50万円という利益を上げていると「こりゃあ目を付けられるなあ」と思います。そのあたりが自分にとってのリアル。
 ただ、こういう話を読んでいると、オランダ人がインディアンからマンハッタン島を24ドル相当のガラス玉やナイフで買い上げた逸話を思い出します。つまりは異世界ものってのは、一攫千金話としては古典的正統派なのです。
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★現代知識で無双する

2015-11-28 | ランキング・カテゴリー
★タイムスリップして現代知識で無双なるか!?

「アーサー王宮廷のヤンキー」 マーク・トウェイン
 現代アメリカの兵器技師ハンク・モーガンが、部下に殴られた弾みでタイム・スリップ。アーサー王時代の中世イングランド社会に紛れ込み、国民の教育や科学技術の導入を試みるも反動的な教会勢力が介入。鉄条網と地雷原に守られた陣地で騎士団を迎え撃つも最終的にはすべて水泡に帰して歴史は変わらない。

「過去へ来た男」 ポール・アンダースン
 第二次大戦期からバイキング時代のアイスランドにタイムスリップしたジェラルド軍曹は、現地人とのコミュニケーションがうまくいかず、銃を使ってみたものの殺されてしまい歴史は変わらない。短編。

「闇よ落ちるなかれ」 L・スプレイグ・ディ・キャンプ
 落雷で西ローマ帝国の滅亡後のイタリアにタイムスリップしたアメリカ人考古学者マーチン・パッドウェイが、中世暗黒期の到来を阻止すべく、蒸留酒製造で資金を集め、活版印刷を発明して知識を残そうと四苦八苦。

「戦国自衛隊」 半村良
 演習中の自衛隊が時振によって戦国時代にタイムスリップ。近代兵器と戦術を駆使して弓矢や刀で武装した戦国武将と戦い、勝ち進んでいく。

 こういう話って、歴史の修復機能というか、タイムパラドックスを修正する力が働く話が多いのです。

★文明レベルが下の異世界に転移して現代知識で無双できるか!?

「異世界の帝王」 H・ビーム・パイパー
 朝鮮戦争帰りの警官モリスンが平行時間警察の事故に巻き込まれて異世界に転移。そこで火薬技術や戦争の技術を導入して成り上がっていく話。第五列とか憲兵隊は組織しても食事には何の改良も加えてません。

「ゲート」 柳内たくみ
 異世界との門が東京銀座にが現れ、異世界から侵攻してきたファンタジー世界の軍勢によって街は阿鼻叫喚。警察と陸上自衛隊によって事態を収拾した日本政府は、治安維持のために自衛隊をゲートの向こうへと送り出す。
 補給も滞りなく、現代軍隊ほぼ無双。なによりの障害は日本国内外の政治勢力なのです。
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★ビーストテイマーの系譜

2015-11-11 | ランキング・カテゴリー
 アニメ『少年ケニヤ』で大蛇のダーナが遮る敵を蹂躙する光景がふいに脳裏をよぎり、魔物や野獣を飼い慣らし、主の代わりに、あるいは主と共に戦わせるビーストテイマーとかビーストマスター、これってどこから始まってどういう風に流れているんだろうと思うときがあります。
 素直に考えれば、猟師と猟犬でクマやイノシシを退治するというような、人間とイヌの歴史と同じということになるのだろうけれど、光前寺の早太郎伝説(「信州信濃の早太郎には知らせるな」という狒狒退治のやつ)は別にテイムもしていないしマスターでもない。坊さんがイヌを見つけて連れて行ったら勝手に戦って勝ったら消えていったというだけなので、ちと違います。
 やはりイヌとかオオカミが原点なのかな。
 でも、ロムルスとレムスはオオカミに育てられたけれど、オオカミを使役したわけじゃなくて兄弟ゲンカで殺し合っただけで、これはぜんぜん違う。他に野生の動物に育てられた物語を考えると、ざっと思いつくのは『ジャングルブック』、『ターザン』、『狼少年ケン』あたりですが、これらの場合、仲間だったりはするけれど、使役して戦うというのとは違いますよね。まず獣に育てられたので獣並みに強いという属性になるわけで。
 難しい。

 悪役が手下として動物を使うのはあたりまえなんですよね。アニメ『太陽の王子ホルスの大冒険』で悪魔グルンワルドが銀色狼などを使っているのが印象的でした。
 そもそも、いつの間にか悪魔や魔女や吸血鬼がコウモリやネズミやオオカミを使役するのがあたりまえになっていましたが、これもそもそもはどうなっていたんだ?と考え出すと民間伝承や神話に小説やら映画やらの創作が加わって支離滅裂になっていく過程を追わなくてはいけないのできりがありません。
 思いっきり神話の時代に遡れば、神様が動物の姿をとったり、稲荷のキツネとか、弁天のシロヘビとか、アテネのフクロウとか、オーディンのワタリガラスとか、神使(しんし)として動物を神の使者・代行者とするのは普通のこと。

 それをあえて普通の人間でも使えるというあたりがポイントなんでしょう。何のポイントかと問われれば、ビーストテイマーというスキルだか職業が格好良く思えるためのポイント。『桃太郎』あたりがド定番ですか?
 
『宇宙の漂流者』 トム・ゴドウィン(1958)
 着の身着のままで過酷な環境の星に島流しに遭った地球人たちは、決死の思いで文明を維持し続けながら、原住生物であるオオカミドラやモノマネリスなどを飼い慣らしつつ復仇の時を待ち望んでいた……という宇宙漂流譚。

『ビーストマスター』 アンドレ・ノートン(1959)
 動物と交感できる調獣士ビースト・マスターとして異星人との戦争を戦った主人公ストームが、戦後、ワシと砂漠猫とミーアキャットを相棒にして復讐の旅に出るSF小説。

『猫と狐と洗い熊』 アンドレ・ノートン(1961)
 大宇宙の冷戦下、地球産の動物と交感できる能力に気づいた主人公ホーランが、猫と狐と洗い熊を相棒に自由の天地を求めて逃走するSF小説。

『ウルトラセブン』 円谷プロ(1967)
 宇宙の侵略者から地球を守るウルトラセブンの活躍を描いた特撮テレビ番組。ウルトラセブンが変身できない時などには、カプセルに収納した怪獣やロボットを召喚して代わりに戦わせた。カプセル怪獣の元祖。

『パーンの竜騎士』 アン・マキャフリー(1968)
 竜と心をつなぎ、共に飛び戦う竜騎士の物語。ドラゴンライダーものの古典。

『バビル2世』 横山光輝(1971)
 正義の超能力者であるバビル2世は、ロプロス・ロデム・ポセイドンの3つのしもべを従えて、世界征服をたくらむ悪の超能力者ヨミの軍団と戦う……というSFコミック。1973にはアニメ化。西遊記の三蔵法師一行がイメージの元らしいが、組み合わせ的には桃太郎である。

『ミラクルマスター』 原案:アンドレ・ノートン(1982)
 動物とシンクロできる能力を身につけた主人公が、ワシと黒トラと2匹のフェレットを相棒に復讐の旅に出るファンタジー映画。

『デジタル・デビル・ストーリー 女神転生』 西谷史(1986)
 高校生が悪魔召喚プログラムをコンピュータで起動させ、悪魔を使役し始めたことから始まる悪魔と人類の戦いの物語。OVAやファミコンRPG等でマルチメディア展開している。

『ファイナルファンタジーII』 エニックス(1988)
 ファミコン用RPGとしてスタート。飛竜と心を通わせられる「竜騎士」ジョブが登場するが、竜を使役する機能はゲームにはない。

『ドラゴンクエストV 天空の花嫁』 エニックス(1992)
 主人公がモンスターを倒すと一定の確率で仲間に加わる、スーパーファミコン用RPG。

『タクティクスオウガ』 クエスト(1995)
 架空の世界ゼテギネアの争乱をテーマにした、スーパーファミコン用RPG。グリフォンを使役するビーストテイマーが参戦。

『ポケットモンスター』 ゲームフリーク(1996)
 全プレイヤーはポケモンマスターとなって、捕獲したモンスターをパートナーとしてカプセルに詰めて持ち歩き、互いに戦わせ競い合うRPG。

『デジタルモンスター』 ウィズ(1996)
 人工知能を植えつけられたコンピュータウィルスが進化して誕生したデジタル生命体を捕獲し、育成していくRPG。育成ゲームとしてヒットした「たまごっち」にバトル要素を加えた、携帯ゲームとしてスタート。各種ゲーム機やアニメとして展開。


 昔話や神話に野獣使い的な英雄や神がいて、それが60年代あたりからSFやファンタジーで再話されるようになり、それがファミコンゲームなどのRPGの普及によって定番化していく……という流れでしょうか?
 要検討。
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