「幸せだと、盗みを働こうという気にならないのです」
心に開いた穴を埋めるのに盗みは良いのだと鼠小僧次郎吉。
文政八年、南町奉行所の同心、紅藤月也は妻の沙耶を小者にしていた。下っ端の助手である小者さえ、ぼんくら同心と揶揄されていた紅藤を見限っていたのだが、男装した沙耶を小者にして以来、不思議と仕事が巧くいくようになっていた。上司である奉行の筒井政憲はそんな紅藤に不思議な指示を出した。美味い深川飯を知りたいから、食べ歩いて美味い店を教えろというのだ。
わけの分からない指令が出るということはきっと「訳あり事件」に違いないと、軍資金として5両を与えられた紅藤は沙耶と二人で深川界隈を食べ歩いていたのだが、そこで庶民に盗んだ金の一部を与える「義賊」の情報が耳に入ってきた……。
夫婦同心の深川食べ歩き紀行。ちゃんと捕物帖になってオチがつきます。
食べ歩きながらも、ちゃんと深川飯の意味を考えながら注意を怠らず、砂糖漬けの花を売る(女装の美少年)牡丹や売れっ子芸者の音吉、そして行く先々の店の看板娘やら女将らの協力を得て情報網を組み上げていきます。
あれっと思ったのは、深川飯の材料がバカガイだったこと。今では深川飯といえばアサリですが、最初の頃はバカガイだったんですって。
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