付け焼き刃の覚え書き

 本や映画についての感想とかゲームの覚え書きとかあれこれ。(無記名コメントはご遠慮ください)

「ホルモー六景」 万城目学

2009-06-12 | 日常の不思議・エブリデイ・マジック
 『鴨川ホルモー』の続編ではなく、外伝集。

 プロローグで安倍がきしめんを食べていて、高村の実家から錦松梅が送られてきて……という話から、あれ? 安倍も高村も名古屋出身だっけ?と思ったのは、名古屋駅前のデパートで錦松梅を大量購入したことがあったから。でも、調べてみたら錦松梅は東京が本社でした。
 錦松梅というのは鰹節やきくらげとか松の実などいろいろ入った高級ふりかけ。といっても、100g500円くらいでむちゃくちゃ高くもないのだけれど、有田焼の容器入りを売っていて、それが有田焼のランクで3000円でも3万円にもなってしまうというもの。食べて美味しく、容器がそれ単体でも使えて立派ということで、結婚式の引き出物に重宝しました。

 さて、今回は『鴨川ホルモー』のメインキャラから名前も出てこなかったような脇役の人たちまでが主役となって裏話や前日譚や枝編を展開する恋愛短編集。
 京都産業大学玄武組の主力となって暴れ回る二人静こと定子と彰子の『鴨川(小)ホルモー』はモテない女の友情話、楠木さんてどんな人?という『ローマ風の休日』、ラブレターをめぐるトラブルの顛末を描いた『もっちゃん』、芦屋満のふたまたが原因となった『同志社大学黄竜陣』の経緯、ホルモーでは敵同士だったOB2人が東京の合コンで再会する『丸の内サミット』、そして立命館白虎隊の会長が主人公となる『長持の恋』の6編。

 『鴨川ホルモー』で伏線っぽくちりばめていた小ネタを回収しつつ、別角度で物語世界を広げていくような1冊でした。『長持の恋』はジャック・フィニィの「愛の手紙」を彷彿とさせる良い話でしたが、いちばん好きなのは『ローマ風の休日』。何を考えているかよく判らなかった楠木さんがきちんと物事を考えていて、しかも女の子だというのがちゃんと伝わってくる話でした。

【ホルモー六景】【万城目学】【織田信長】【首塚】【数学】【狐のは】
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「戦え!お総菜たんズ」 割烹百珍

2009-06-11 | 食・料理
 差し入れで持ち込まれたレトルトお総菜3点は、「疾風!!畑の焼き肉99式」「閃光!!明太エリンギZ」「炸裂!!カリーれんこんGTX」。最近、米だのキムチだの萌え美少女食品が目立ってますが、そのはしりですね。発売当時から、嫁の従兄の家の近所に工場がある!と注目していたもの。
 それぞれ大豆肉の甘煮、カレーれんこん、エリンギの明太風味でそれなりに美味しいおかずですが、『M☆Cあくしず』などで活躍しているイラストレイター重戦車工房のパッケージとトレカがなければ、若者は買いそうにありませんね……トレ……? そうかっ! トレーディングカードだけ回収して中身を置いていったな!?

【戦え!お総菜たんズ】【割烹百珍】【重戦車工房】【大豆肉】【エリンギ】【レンコン】 
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「勝負の終り~ベルガリアード物語(5)」 デイヴィッド・エディングス

2009-06-11 | ヒロイックファンタジー・ハイファンタジー
「たしかにわたしたちは卑劣な人間です。だが生き延びるのはわたしたちです。2つの強大な国にはさまれた弱小国に、礼儀作法など無意味です」
 日和見であることを認めつつ恩を着せ、じつに卑劣だと思いませんかと自画自賛する宦官長サディの言葉。こんな国に大使や特使として派遣されたくないなあ……。

 リヴァの女王の軍勢が通った後には五体満足な成人男性は1人も残っていない。男は戦場に向かい、女たちは男たちのいない場所を掌握する。
 世界を2つに分けた戦争が始まるのだ。
 戦争とは外交だ。ニーサの宦官サディが、ナドラク王ドロスタが、生き残りのための交渉を開始する。
 戦争とは補給だ。何事も成り行き任せにしないセンダー人のフルラク王が取り仕切り、輸送部隊が編成され、物資集積所が建設されていく。
 だが、真の戦いは世界の別の場所で起きようとしていた……。

 この巻もベルガリオンは「なぜ、ぼくが?」とぼやきつつ覚悟を決めます。やるときゃやるぞ、男の子。この作品を通じて最大の教訓は、男は最低でも1日1回、できれば1時間に1回は恋人に「愛しているよ」とささやきかけねばならないということでしょうか。
 セ・ネドラは享楽的なドリュアドの血をひき、わがまま放題に育った王女であり、遊びたいさかりの少女であり、失敗失態は数知れず。それでも自分のしでかした事の大きさに恐怖しつつも直視して、大事なものを守るための戦いに臨みます。
 多くの犠牲の上に築かれた平和ですし、細かな疑問や問題は残っていますが、なにはともあれ大団円。預言書や神話が錯綜する壮大な戦いの物語というと、ついつい堅苦しく重苦しいものになりがちですが、こんな分厚い本がすいすい読めてしまうのは、軽妙な会話をやりとりする活き活きとしたキャラクターたちが活躍するからであり、「男と女のラブゲーム」というか強くたくましく狡猾な女性たちに翻弄される頭の固い男たちの物語になっているからかもしれません。

【ベルガリアード物語】【デイヴィッド・エディングス】【勝負の終り】【おおやちき】【HACCAN】【砂金掘り】【結婚式】【神を屠るもの】【補給】【戦力分断】
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「魔術師の城塞~ベルガリアード物語(4)」 デイヴィッド・エディングス

2009-06-10 | ヒロイックファンタジー・ハイファンタジー
「いかなる戦いにおいても複数の指導者に導かれた軍隊が成功したためしはないわ。軍隊が成功するか否かはそれを構成する兵士たちの戦意によるところが大きいのよ。そしてかれらはただ一人の指導者を必要としているの。--かれらの想像力を駆り立てる誰かをね」
 それは愚かな虚栄心による行動ではなかった。

 魔法使いクトゥーチクによって奪われた「珠」は再びリヴァの玉座へと戻り、予言は成就されたかと思われた。しかし、同じ予言によってそれが終わりの始まりに過ぎないことを教えられる。
 リヴァの女王は西方諸国を糾合して挙兵する。それは何万何十万という軍勢がぶつかり合う戦いの始まりであり、多くの者が戦場に血を流し還らぬ者となること意味していた。それでも西方軍は、侵攻する竜神トラクの勢力を迎え撃たねばならない。たとえ、それが単なる陽動に過ぎないとわかっていても……。

 最後の冒険が始まり、新たな戦いの軍が興るところまで。
 感情の起伏の激しい王女セ・ネドラが、単なるわがまま娘ではないことが明らかになり、女性キャラの強すぎるエディングス作品というイメージをますます強化していきます。

「一国の政治を取りしきるのは、家庭を取りしきるのとたいした違いはないのよ」
 魔女ポルガラの言葉。男たちの留守を守る女性たちも、男たちが考えるほど愚かではありませんでした。
 男尊女卑のキャラクターはいくらでも登場しますが、世界そのものは男尊女卑ではなく、男でも愚かな者は愚かだし、女でも愚かな者は愚かで、恋に落ちた途端にわずかばかりの知性が吹き飛んでしまうのは男女いっしょ。そういう話ですね。ジェンダー論的に分析してどうこういうのがいたら金切り声をあげちゃうぞ。

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「竜神の高僧~ベルガリアード物語(3)」 デイヴィッド・エディングス

2009-06-09 | ヒロイックファンタジー・ハイファンタジー
「わたしはただの男です。凡人というのは、常に何かを畏れているものですよ。知らなかったんですか? われわれは天気を恐れ、力ある人を恐れ、夜を恐れ、暗闇を徘徊する怪物を恐れているんです。年をとることも死んでいくこともこわい。時には生きていくことすらこわくなるんです。普通の人間というのは、心の安まる時がないんです」
 恐怖は人生の一部だと騎士マンドラレンに語る善人ダーニク。

 <二つの命を持つ者>、<案内人>、<恐ろしい熊>、<馬の首長>、<護衛の騎士>、<世界の女王>……。ガリオンたちの旅に加わってくる仲間は、本人たちは意識していないけれど遙か太古に、この世界が生まれたときに分裂した2つの運命を巡る争いに決着をつけるための冒険に加わる者として予言されていたのだ。
 そして盗まれた「珠」を取り返すべく、竜神トラクの高僧クトゥーチクの城塞へと向かうのだが……。

 旧ハヤカワFTで表紙イラストを描いていたのは元マンガ家でイラストレイターのおおやちき。70年代に「りぼん」でデビューし、作品数は多くはないけれど強烈なインパクトを残してくれました。デザイン的にも美しく、いかにもエピック・ファンタジーというイメージが伝わってきます。ただ、典型的な少女マンガ系の絵なので苦手な人は苦手かも。
 一方、新ハヤカワFTの表紙イラストはHACCAN。ゲームやライトノベル方面で作品を発表していますが、色鮮やかにして派手すぎず、人物も自然物も建造物もしっかり描き込むタイプの絵は大好き。眼福、眼福☆ 1巻の表紙はレイアウトの都合か、人物と背景が合っていないけれど良いでしょう。

 醜くて不潔な小男の魔術師ベルディンも、この間で初登場。今回の出番は多くありませんが、強力なインパクトを読者に与えて去っていきます。下品で口は悪いし臭いしマナーとは無縁のキャラだけれども、1人で500年もじっと見張り番をしていたってだけで充分に真面目で良い奴ですよね。
 ナドラクの商人ヤーブレクとか、これからちょくちょく登場する脇役も顔をそろえ始め、いよいよ愉しくなってきました……。

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「蛇神の女王~ベルガリアード物語(2)」 デイヴィッド・エディングス

2009-06-08 | ヒロイックファンタジー・ハイファンタジー
「あなた、自分の抱えている問題がどんなことかわかっている? あなたは大人になりたくないのよ。永遠に子供のままでいたいのよ。でも、それは不可能だわ。そんなことは誰にもできないわ。どんなすごい力を持っていようと……皇帝だろうと魔術師だろうと……時の流れを止めることはできないのよ」
 トルネドラの王女セ・ネドラの言葉。
 どんなにわがままで世間知らずのお姫さまであろうと、エディングスの作品に登場する女性キャラは、常に真実を容赦なく突いてきます。

 語り部の老人ウルフが語った物語、太古の昔に莫大な力を秘めた《珠》をめぐって神々が争い、偉大なる魔術師ベルガラスが邪神トラクを倒したという神話は事実だったのだ。しかも、その永遠なるベルガラスが、こんな呑んだくれのスケベ爺だったなんて……。
 少年ガリオンと鍛冶屋のダーニクが加わった魔術師ベルガラスと魔女ポルガラの一行には、ドラスニア人のシルクやチェレク人の巨漢バラク、ミンブレイド人の騎士マンドラレンらが合流し、追っ手をかわしながら商業国家トルネドラを経由して蛇神の国ニーサへと向かうのだが……。

 この物語世界には木の精霊ドリュアドはいるけれど、エルフもドワーフもゴブリンも存在しません。ただ、それぞれのいただく神が異なる民が存在するだけです。でも、この各民族や国家の個性が極端なので、同じ人間と言いつつエルフとドワーフ以上に差異があり、仲が良かったり悪かったり。そのあたりもポイントです。
 基本的に単純で物事をあまり深く考えずに行動する傾向のあるアローン人。その中でもチェレクは戦と酒を何より愛する船乗りの国、ドラスニアは商業も盛んだけれど国民皆密偵と思って間違いが無く、アルガリアは馬と共に生きる遊牧民国家。建国の王が兄弟であった国ですらこれだけ違いますから、他は言うに及ばず。
 今回は、次期皇帝の座を巡って公然と買収と暗殺がおこなわれているトルネドラ帝国を経由して、密林に覆われた蛇神の国ニーサへとやってきます。蛇神イサの巫女サルミスラが強大な権力をふるうニーサは疫病と毒蛇と暗殺者の国。そのサルミスラに目をつけられてしまったガリオンの運命やいかに。
 それまでエルフだドワーフだといっても身長と得意技が違うだけじゃん!というような話ばかりをよく見ていただけに、同じ人間でもこれだけ違うんだというキャラクター的な国民性には意表を突かれたもんです。

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「予言の守護者~ベルガリアード物語(1)」 デイヴィッド・エディングス

2009-06-07 | ヒロイックファンタジー・ハイファンタジー
「(政治とは)必要悪なのさ、バラク。とるにたらぬ仕事にはとるにたらぬ人間が必要だし、一国を動かし続けるのはとるにたらぬ仕事なんだ」
 詐欺師、軽業師、泥棒、密偵でもある旅商人シルクの言葉。その他にとるにたらぬ肩書きがいくつか。

 そんなに力説するほどのことではないのだけれど、『ハリー・ポッター』や『ロード・オブ・ザ・リング』でファンタジーの面白さに気づいた人に薦めたいシリーズと言えば、まずこれなのですね。拳をふるって主張したくなるくらい。
 壮大な神話と冒険の物語が読みたい気がする。でも思わずクスクスと笑ってしまうようなユーモラスな部分もあると良い。そんなリクエストに応えられるのがエディングスの諸作品であり、順序としてまずこれから……というのがこの『予言の守護者』から始まるベルガリアード物語(全5巻)と続編のマロリオン物語(全5巻)です。

 話の筋立てそのものは単純です。

 世界の始まりのときから続く神々の戦いがあり、その顛末について告げる予言があった。けれども多くの人々はそれを単なる物語と思っていた。

「人生を無事にきりぬけられる善人は自分で見てさわれるものしか信じない。しかし、われわれが見たりさわったりできない世界があるのだ。その世界はそれ自身の掟によって生きている。このごくあたりまえの世界では不可能なことも、そこでは可能なのだ」

 ガリオンは平凡な農場の少年だった。農場の台所で鍋を磨きながら友だちと遊び、可愛い女の子に心ときめかせ、そうしてやがては平凡な農夫として一生を終えるはずだった。
 しかし、ガリオンは、ある夜、農場で料理をしている“ポルおばさん”と、旅の語り部ウルフ老人に訳の分からぬまま問答無用で連れ出されてしまう。なぜ彼は連れ出されねばならなかったのか、そして彼らはどこへ行くのか?
 分けの分からないまま、怪しげな男たちと合流した“ポルおばさん”は、もう2度と農園には戻らないと宣言した。
 それは長い旅の始まりであり、予言を成就するための旅路だったのだ……。

 この物語の面白さは第一にキャラクターの魅力です。もちろんストーリーそのものも面白いけれど、まず何が一番かといえばキャラクター。どんな苦境も笑い飛ばし、切り抜けていく仲間たち、そして恐ろしく狡猾な敵、恐ろしい怪物。
 毎巻の巻頭に掲載されている神話や預言書は最初は分けが分からないから読み飛ばせばいいんです。すべて読み終えて面白いと思えば、あらためて最初から読んで預言書に書かれている内容の真相を推測し、「こいつらはこんな解釈をしてやがる」と笑い飛ばせばいいんじゃないでしょうか。

【ベルガリアード物語】【デイヴィッド・エディングス】【予言の守護者】【おおやちき】【HACCAN】【金貨】【キス】【カブとキャベツ】
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「波のむこうのかくれ島」 椎名誠

2009-06-06 | 冒険小説・旅行記・秘境探検
 宝島、小笠原諸島、対馬、硫黄島、竹島、水納島、水納島、天売島と椎名誠が旅した8つの島での出来事を、垂見健吾の写真を添えて綴った1冊。愉しそうにあちらこちら旅する光景には少し羨ましくなりましたが、実際に自分が旅してもそれほど愉しめないんだろうなあと思いました。そういう人間、アウトドアはあまり好きじゃないんです。
 ただ、人が愉しそうに旅する話を読むのは好きです。イカスミカレーが失敗し、波に洗われながら温泉につかってビールを呑み、みんなで三角ベースボールをして、ウニクラ丼を満喫して……ああ、いいなあ。
 この中の三角ベースボールについては、別に『海浜棒球始末記』としてまとまっているけれど、今はどんなんかなーと思ってさっと検索してみたら、浮き球三角ベースボールのリーグはまだ続いていて2009年で10周年なんだとか。それはめでたいことでありますね。

【波のむこうのかくれ島】【椎名誠】【垂見健吾】【離島】【三角ベース】【オロロン鳥】
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「スター・トレック4~故郷への長い道」 ヴォンダ・マッキンタイア

2009-06-05 | 宇宙探検・宇宙開発・土木
「可能性が二つあったらつねに、美しいほうを、審美的に好ましいほうを選びなさい」
 ある女性教授のことば。

 虚空より地球に接近する正体不明の巨大探査船は宇宙連邦からの呼びかけを無視し、周囲すべての動力を停止させると同時に地上に異常気象をもたらす。このままでは地球は大洪水によって滅亡してしまう。
 探査機の信号を分析したスポックは信号がザトウクジラへの呼びかけだと分析、探査機を生み出した文明はクジラ類のみを地球の支配種族として認識していると結論づけた。だが、地球の大型海棲ほ乳類はすべて死滅している。
 そこでカークたちは23世紀から20世紀にタイム・トラベルしてクジラを連れてこようとするのだが……。

劇場版スタートレックの4作目の原作というかノヴェライズで、好きな作品の1つ。まあ、クジラ大好きのレナード・ニモイが監督なだけあって反捕鯨色が強くて日本人には複雑なんだけれど、『スター・トレック』だから仕方がないよね。
 つまり、『スター・トレック』というのはジーン・ロッデンベリーの楽観的な理想主義によって作られた作品であり、人種差別や男女差別も根強く冷戦真っ直中の1960年代の話なのに宇宙船エンタープライズ号のブリッジには黒人女性やロシア人、アジア人もいれば異星人だっています。男だ女だとか民族どころか種族も関係ない人々が1つの船で平和のために航海するという話なのですね。同じくロッデンベリーが手がけた『ザ・ネクスト・ジェネレーション』においては仇敵クリンゴン人ですら迎え入れてしまう。ならば、クジラの問題くらい気にしていても仕方がない。
 本編のタイムワープで20世紀のサンフランシスコにやってきた未来人たちの珍道中を楽しみましょう。

『ジリアンは不思議な思いで、あたりをじろじろ見回した。自分はいま、星から星へと旅のできる宇宙船の中にいるのだ。人種や性別を気にせず、仕事と生活を共にしている人たちの中に……』

 たぶん、このシーンが小説版のクライマックス。

 訳者の斎藤伯好という方は、テレビシリーズのノベライズから担当しているベテランではあるけれど、テレビシリーズの日本語台本を意識しないで訳されているのでそこのところが惜しい。やたら丁寧口調のボーンズなんて、ドクターじゃないやい! テレビシリーズで「ドクター」と呼ばれているのに馴染んだ身には、いくら俗語でも(辞書をひいた)「bones」と呼ばれてもピンときません……。(2009/06/05)



 リマスターのDVD版も購入。このDVDには「『カーンの逆襲』における設定矛盾の謎」を解明する証言も収録されているし、面白いことは面白いけれど反捕鯨色の強いグリーンピースの広報ビデオ的な構成にはやっぱり辟易しますね。小説版より強調されているので、辛いわ。付録の特典映像にまでグリーンピースを出しなさんなって。
 口直しに同人漫画『あとりえラナ作品集2』を引っ張り出して、収録の『まんが宇宙大作戦~危険な過去への旅』を再読。こちらは「一方的倫理観を押しつけ、他民族の食習慣に干渉する行為は非論理的です」という話なのです。(2009/07/20)

【宇宙大作戦】【スター・トレック】【故郷への長い道】【ヴォンダ・マッキンタイア】【斎藤伯好】【捕鯨船】【原子力空母エンタープライズ】【ヒッピー】【ザトウクジラ】【透明アルミニウム】
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「エレニア記」 ディヴィッド&リー・エディングス

2009-06-04 | ヒロイックファンタジー・ハイファンタジー
 ファンタジー作家、ディヴィッド・エディングスが亡くなったと、6月3日の「Fiction Matters」が伝えました。享年77歳。共著者である妻リー・エディングスと2007年春に死別して2年後でした。
 日本でも『ベルガリアード物語』『マロリオン物語』や『エレニア記』『タムール記』でお馴染みの作家であり、骨太のストーリーに、人生の機微を味わい尽くしたウィットに富んだユーモア、揺らがない正義の心と友情そして愛情がたっぷりのエディングス作品は、我が家でもお気に入りでした。
 ご冥福をお祈りします。

 『指輪物語』を彷彿とさせる壮大な善と悪の物語に、やたら人間くさい神々、思いもよらず読者をニヤつかせるユーモア、不屈の闘志を抱く英雄たちとその男たちを尻に敷く女たち。そんなところがエディングスの作品の特徴だったように思います。

 エレニア国の幼き女王エレナが暗殺者の毒によって倒れる。
 その必殺の毒を消すことができるのは伝説の宝石ベーリオンのみだが、世界を創ることも滅ぼすことも思いのままという伝説の宝石ベーリオンは遙か太古の戦いの際に失われたままであった。
 エラナの守護者である騎士スパーホークは4つの騎士団から選りすぐられた勇者らとともに、ベーリオン探索の旅に出る。だが、その行く手には悪しき神アザシュの罠が待ち受けていた……。

 これだけ読むとありきたりの話で戦いは幾らでもあるけれど殺伐としていそう……と思うかも知れませんが、ここに彼らの周りをちょこまかと動き回る小さき女神アフラエルとか、盗賊の少年タレンなどが絡むとたちまち雰囲気が変わってしまいます。
 エディングスの作品に登場する女性はいずれも美人で聡明で強く、3人そろえば帝国の1つや2つ簡単に転覆させられそうな者ばかりで、この作品も例外ではありません。毒を盛られて死の淵を彷徨った幼き女王エラナでさえ、続編の『タムール記』などで復活してからの言動をみるとひっくり返ってしまいます。
 

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「スター・トレック」 アラン・D・フォスター

2009-06-04 | 宇宙探検・宇宙開発・土木
 あまりにもシンプルなタイトルで過去作品との識別が困難ですが、09年5月公開の劇場版『スター・トレック』のノヴェライズです。突如出現し星々に災厄をふりまく巨大宇宙船がヴァルカン星を襲撃。救援に赴いた惑星連邦の艦隊は壊滅し、残るはパイク艦長以下の士官候補生たちが乗り込んだ航宙艦エンタープライズ号だけとなったのだが……というストーリーを軸に繰り広げられる若者たちの葛藤と成長の物語。
 冒頭から量子宇宙論に引っかけて多次元宇宙に言及してますし、宇宙歴と西暦の違いをわざわざ指摘するなど、今までのシリーズとは別世界の話ですよという断り書きが伝わってきます。

「論理も理屈もまったく助かる余地がないと示していてもチャンスをつかむため、ひと思いに本能に従い行動する--勝つために必要な資質とは、そういったものだ」
 クリストファー・パイク大佐の言葉。

 今回の新作で何が嬉しかったかというと、理想的な士官として活躍しているパイク艦長の姿を観られたということでしょうか。パイロット版の主役でありながら見るも無惨な姿でしか登場できなかったクリストファー・パイク大佐に喝采したのです。これこそ最大のIFですね。ゲイリー・ミッチェルがどこかに存在していたのかという点については見て見ぬフリをしましょう。

 3月にオリジナル原稿が届いて3人で手分けして1ヶ月後に入稿というスケジュールで翻訳作業がおこなわれたようですが、読んでいて違和感があまりなかったのは訳者が3人とも原作ファンだったからでしょうか。それでも気になるところが1箇所。
 ドクター・マッコイが登場シーンにて離婚の際に何もかもむしり取られて骸骨だけになってしまったとぼやいていますが、その後のマッコイとカークが並んで登場するシーンでは「マッコイ」と書いて「ボーンズ」と読ませています。
 小説版ではボーンズがドクターの愛称というのは旧作以来のお約束ですが、「骸骨」にも「ボーンズ」とフリガナをつけるか、慣用表現で船医や外科医のことを「ボーンズ」と呼ぶこともあると注釈を付けないと、なんのことだか読者に伝わらないんじゃないでしょうか? そのあたりは映画字幕の方が親切でした。(2009/06/04)



 あちらこちらの映画評やブログを読んでいて感じたこと。なまじSFをかじっているのに『スタートレック』を知らない人が真っ先に感じるのは「なんかお手軽に時間移動しすぎてない?」というもの。仕方がないよ。『スタートレック』においてはタイムスリップ話がけっこう多く、またワープ速度が艦体強度限界のワープ10を超えると時間曲線がループするというのは定番の設定なので、あまり気にしないのですね。観客的に。
 なんというか、「ワープという航法を使うと光の速度を超えて宇宙を移動できる」というのと同じくらい「高重力によるワープの異常加速などでタイムスリップすることがある」というのはあたりまえ、前提条件の基本設定なのですね。SFマガジンも知らなかったようなので、一般の観客が知らなくても当然ですが。(2009/06/12)

【スター・トレック】【アラン・D・フォスター】【カーク艦長】【平行世界】【ブラックホール】【トランスワープ】【氷の惑星】【砂漠の惑星】
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「ブック×マーク!」 桧山直樹

2009-06-03 | 本屋・図書館・愛書家
「ぶっちゃけて言うとね、受験勉強の大半は、いい大学、いい就職のために必要だけれど、いったん社会に出ちゃえば、実は何の役にも立たないわ。若いうちに本当にしておくべきなのは、受験勉強よりも、いい本を読んでおくことなのよ」
 現国教師の弓削美幸先生の言葉。
 確かに研究職にでも就くか教師にでもならない限り、勉強の内容よりも、指示に従い作業することができるというスキルの方が重要な気がします。自分の場合は、大学に入ってから身につけた「論文を書くテクニック」が実社会に出てから重宝した気がします。

 なんの取り柄もない高校生の菅原真だが、その読解力の無さにあきれ果てた教師から高校2年にもなって読書感想文の宿題を与えられてしまう。だが、やる気のないままふらふらと帰宅の途についていた真は、いつの間にか奇妙な図書館に紛れ込んでいた……。

 本を通じて別世界に行くというと、『マジック・ツリーハウス』みたいな話かと思ったら少し違いました。
 1冊の本はそれ自体が1つの世界。それぞれが異世界のようなものだけれど、中には現実世界を浸食してしまうような強い力を持つ本「異界本」というものが存在する。そこで異界図書館に選ばれた4人の美少女が司書として、異界本の回収やそれによって混乱した世界の修復にあたっているが、5人目のメンバーに選ばれたのは、本を読まない少年だったという話。
 本は読まないヤツなんか野蛮人といわれているけれど、仕方がないよねえ。主人公が本を読まなくなった理由を思い出すあたりの展開はちょっと唐突かな。

【ブック×マーク!】【桧山直樹】【メタフィクション】【新撰組】【異世界】【メイルゲーム】【図書館】
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「STAR FLEET TECHNICAL MANUAL」 FRANZ JOSEPH

2009-06-02 | 宇宙探検・宇宙開発・土木
 『スター・トレック』というより『宇宙大作戦』、TOSにおける宇宙艦隊アカデミーのテキストという設定で、登場する宇宙船の三面図やスペック、組織図、地図・星図、惑星連邦とクリンゴンやロミュランとの条約、記章など図面から文章からぎっしり。誰かからダンボールでまとめてもらった気がする。自分では買ってないもんなあ。
 これがマニアックな同人向けだと思うのは、制服の型紙とか使用される文字のデザインまで寸法付きで載っているあたり。絶対、コスチュームやモデルの自作のための資料だよね。本文白黒の本なのに、セクションカラーのページだけフルカラー印刷だし。
 で、最初はこういう本を使うことはないと思っていたけれど、意外にあちこちで重宝しました。
 条約をでっちあげないといけなくなればクリンゴンとの講和条約を引っ張り出し、宇宙船や基地の配置図を考えないといけなくなるとコンスティテューション級や艦隊司令部の資料を引っ張り出し、そうして丸写しにするのではなく必要な要素に何があり、それらがどういう関係で配置されているかチェックするのに使っていたのです。
 ところで、エンタープライズ号のブリッジは進行方向に対して斜めを向いており、ブリッジのトイレは艦長席の左後方、ブリッジの真後ろにあるって知ってました?

【宇宙艦隊テクニカルマニュアル】【フランツ・ジョゼフ】【スター・トレック】【三面図】【タイムワープ関数】
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「スタートレック完全ガイド」「スター・トレック ビギンズ」

2009-06-01 | 宇宙探検・宇宙開発・土木
 5月の末にふらりと本屋に寄ったら珍しくもスタートレックのムックが書棚に並んでいて、劇場版の新しいのがやるんだったよなあと思いつつ手にとってみました。

 別冊宝島である『スタートレック完全ガイド』の方はオールカラーでこれまでのテレビ版・劇場版について時系列を整理した上でメインキャラクターやメカニック、異星人を紹介し、巻末に全713エピソードのリストもついた手堅い作り。過去作品をおさらいするには最適で、たとえば「ドミニオン戦争ってなんだっけ?」というときにすぐ判る。サービック大尉の写真でカースティ・アレイの写真の方が大きいのはこだわりなんだろうか?

 『スター・トレック ビギンズ』の方は、「別冊映画秘宝 海外ドラマ・マニアックス」の1冊で、1/4くらいは『バトルスター・ギャラクティカ』など海外ドラマの特集が入っているし、カラー図版は巻頭にしかないし、TNG以後の作品は紹介程度しか記事がない。でもその分TOSについてはマニアックな記事が多く、ジェームス・T・カークの声を演じた矢島正明やセブン・オブ・ナインを演じた沢海陽子の回想、ジーン・ロッデンベリーの足跡など読み物としてはこちらの方が面白い。作品紹介も、TOSのみ全話しっかり(内容紹介ではなく)作品解説し、それぞれのシーズンごとに反響はどうでその結果として次のシーズンがどうなったかを事細かに解説していきます。作品評価もけっこう厳しくて「ラジー賞が」とか「ファンなら愉しめる」とか歯に衣着せぬコメントが面白い。

 全シリーズ(ただし「まんが宇宙大作戦」は除く)を網羅してビジュアル的に充実している『完全ガイド』か、それとも読み込める『ビギンズ』か、どちらを買おうかしばし悩んだ末に「別に買うのは1冊である必要はない」とあたりまえの結論に達したのでした。
 そのまま翌日には前日まで行く気のなかった劇場最新作まで観に行ってしまったのは勢いってやつです。
 映画の方は、「スタートレックよりスターウォーズの方が好き」という監督が、トレッキーなスタッフとそうでないスタッフを上手く使って、元ネタを知っている人も知らない人もそれなりに愉しめる正統派ハリウッドSF映画に仕上げてました。スターウォーズ・ネタとかジャイアントロボっぽいネタに見える箇所があったけれど、あれはたまたま似てしまったのか承知でやっているのか……。

【スタートレック完全ガイド】【舟見恭子】【スター・トレック ビギンズ】【岸川靖】
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