「社員がイキイキ働くようになる」仕組みと研修を提供する人材育成社です。
「パワハラの定義やパワハラの6類型(厚労省)には該当しないと思うのですが、上司が部下に対してパワハラだと思われる行為をしていて困っています」
これは先日、弊社が公開セミナーを担当させていただいた際に、受講者A氏から聞いた言葉です。A氏は製造業(中小企業)の生産課の課長ですが、役員でもある上司のB部長がA氏の部下のC氏をターゲットに、執拗な行為を繰り返しているとのことでした。
具体的に聞いてみると、B部長はパワハラの定義やパワハラの6類型についての知識は持ち合わせているため、それを踏まえパワハラにはならないと考えられるぎりぎりの行為を繰り返しているようなのです。しかし、それは周囲から見ても明らかな嫌がらせではあるため、C氏も周囲も辟易しているとのことでした。
A氏はこれまで何度もB部長に対してC氏との間を取りなしたり、やんわりといさめたりしているほか、C氏に対してもフォローをしているのだそうです。しかし、B部長がC氏への行為を止める気持ちが全くないため、事態は一向に改善しないとのことです。B部長がA氏の上司でなければ、もっと毅然とした対応をとることもできるでしょうし、B部長が役員でなければ人事部への相談もできることでしょう。しかし、A氏が勤めるのは中小企業であり、人事部=役員という組織のため、それも叶わないようでした。
弊社では「パワハラ防止研修」を担当させていただく際には、パワハラ解消に向け対応してもなお改善しないときには、加害者の行為を撮影したり録音するなど、パワハラの事実を収集しておくことの重要性について話をしています。しかし、冒頭の例ではB部長はパワハラに関する知識を承知の上で、パワハラに抵触しないぎりぎりの行為を繰り返しているため、「事実の収集」は残念ながらあまり役には立たないように思えます。
このような状況をふまえると、そもそもこの会社はなぜB部長のような人を役員にしたのかという思いを持たざるをえません。
もちろん、人は誰しも「様々な顔」を持ち合わせています。B部長は、自分よりも上の立場でさらに権限を持つ人に対しては「好い顔」をするのではないかと思いますが、立場が下の人に対してパワハラ的な行為をする人は、人事権を持っているような上司に対しては良い顔を見せ、一方の部下に対しては別のマイナスの顔を見せることが少なくないのではないでしょうか。
以前、私はある組織で管理職昇格者をアセスメントする際の面接官を担当したことがあります。一次の筆記試験をクリアして管理職候補者として二次試験に臨んだ人の面接を担当したのですが、実はその人は日頃からパワハラを繰り返している人だったのです。しかし、面接においては質問に対し簡潔明瞭に受け答えをし、いかにもリーダーシップがありそうで管理職としての能力が高そうだと見受けられる人でした。面接の受け答えからだけでは、パワハラをしているとは想像もつかなかったのですが、後になってその話を聞き、改めて人間にはいろいろな顔があるものだと感じざるをえませんでした。
そのように考えると、ある人を人の上につける、例えば管理職に昇格させる際には、仕事の成果のみならず、同時にその人の「人間性」をも確認することが重要だと思わざるをえません。もちろん、その人の人間性を確認するということは決して簡単なものではありませんが、その結果として部下を傷つけるだけでなく、結果として組織にも損害を与えるような事態は絶対に避けなければなりません。人を傷つけることに疑問を持ったり、人の痛みを感じられない人間ではないか時間がかかってでも確認することが必要です。たとえ一般的にはパワハラにならないとしても、それに類する行為はされた人に必ず痛みを与えるものであり、その痛みを感じられないような人には権限を付与してはいけないとあらためて申し上げたいと思います。