「人的投資を拡大して、育成等を通じて企業価値を高める動きが高まっていることは承知していますが、実際のところ、これ以上は無理です」
これは、先日来年度に向けて研修等の打ち合わせをしていたB組織の育成の担当者からお聞きした言葉です
先日本ブログでも取り上げましたが、人材への投資に向けた取組への関心が近年急速に高まってきています。
しかし、様々な企業で今後の取り組みについて改めてお聞きしてみると、マスコミ等で報道されているほどには人材への投資は進んでいないのではないかと感じることが少なくないのです。
B組織では既に若手から管理職に至るまで研修はある程度行ってきているため、これ以上育成予算を増やすことはできない。研修で足りないところは、現場のOJTで補強するとのことでした。
厚生労働省が毎年行っている能力開発基本調査において、OFF-JT(研修)や自己啓発支援に費用を支出した企業は、直近(令和3⦅2021⦆年度)の調査結果では45.9%となっていますが、3年移動平均でみると、前年の調査と同様に数字は低下してきているようです。
このことからも、報道と実態との間には大きな乖離があり、人材投資への必要性は認識されつつあるものの、現実はまだまだ投資は進んではいないのが実態のようです。
また、B組織では「OJTで補強する」とのことでしたが、同調査ではOJTに関しても調査しています。その結果、正社員に対して計画的なOJTを実施した事業所は59.1%と、前回と比べて2.2ポイント増加(3年移動平均の推移では低下)しているとのことです。このことからも、人材育成の中心的な手段はOJTであることは変わらないようです。
さらに、同調査では能力開発や人材育成に関しての問題についても質問していますが、何らかの問題があるとした事業所は76.4%と、4分の3以上の事業所が能力開発や人材育成に関する問題があるとしています。具体的な問題点の内訳は、「指導する人材が不足している」(60.5%)が最も高く、「人材育成を行う時間がない」(48.2%)、「人材を育成しても辞めてしまう」(44.0%)と続いています。
今後、人材育成への投資に対する注目はますます高まっていくとは思いますが、様々な問題を抱えつつ、当面はその手段はこれまでと大きく変わらずOJTが中心となると考えられます。であればこそ、「指導する人材を育てる」こと、まずはそこから力を入れていく必要があるのではないでしょうか。
実際、人的資源への投資と労働生産性は密接に関連しており、内閣府の経済財政報告(経済財政白書)2018年度版によれば、社員教育や社会人の「学び直し」などによる人的資本投資が1%増加すると労働生産性は0.6%上昇すると試算するなど、人材育成の重要性が指摘されています。
そのように考えると、すぐに人材投資へ大きく舵をきることは難しいとしても、長期的なスパンでは人的資源への投資を増やすなどの取組みを進めていく必要性は続いていくと考えられます。ぜひ、少しずつでも人材育成への投資を増やす方向で進めえていただきたいと考えます。そのためには、まず、どういう人材が必要なのかを言語化し、どのように育成するのかをしっかりと考えることから始めていただきたいと思います。