南シナ海で中越対立 「そっちこそ出ていけ」
南シナ海に「自国ルールを押し付け」で非難される中国
2019 年 11 月 4 日 13:52 JST WSJ By Niharika Mandhana
ベトナム政府当局者によると、中国からの回答はこうだ。「ベトナムこそ掘削をやめるべきだ」。
この海域では5月に掘削リグ「Hakuryu-5」がロシアの国営石油企業ロスネフチとの契約に基づいて
操業を開始していた。ロスネフチはベトナムから認可を受けた海洋鉱区を運営している。
海上でのにらみ合いは3カ月以上続いた。その間、中国、ベトナム双方の法執行船は互いを尾行し
合ったり、複数の中国沿岸警備隊の船舶がベトナムの船舶めがけて放水砲を噴射したりした。
10月下旬、前出の掘削リグが任務を終え、同海域を離れると、中国の調査船も去った。
今回の出来事から、中国が南シナ海で自国の規範を守らせようとする動きを強めていることが分かる、
とベトナム政府関係者は話す。中国は南シナ海のほぼ全域に対して領有権を主張しており、ベトナムに
加え、フィリピン、マレーシア、ブルネイ、台湾も同じ海域に領有権を主張している。
2016年にはオランダ・ハーグの仲裁裁判所が中国の主張には法的根拠がないと裁定を下したが、
中国政府は受け入れなかった。米国は中国をけん制するため、「航行の自由作戦」として定期的に
同海域を巡回している。
今回の対立が始まって以降、ベトナムは自国の排他的経済水域と大陸棚に対して権利を主張している。
これらの海域には国連海洋法条約が適用され、沿岸国は天然資源を開発する権利がある。
中国もベトナムも同条約を批准している。
これに対し、中国政府は、中国が領有権を持つ海域では、企業であれ国であれ、許可なく石油や
ガスに関する活動を行うことはできないと主張。その中には、ベトナムと中国が争う鉱区など、
他国が以前から天然資源の探査を進めていた海域も含まれている。
掘削リグの操業開始から間もない6月、中国の沿岸警備隊の艦艇2隻が現場海域に到着した。
ベトナムはプロジェクトを守るため、同国の沿岸警備隊を配置した。ベトナム政府関係者によると、
中国側の乗組員は拡声器を使い、ベトナム語、中国語、英語の3カ国語で操業を停止するよう警告した。
米国はこうした中国の行動を繰り返し批判している。マイク・ペンス副大統領は先月行った演説で、
中国の沿岸警備隊が「力ずくでベトナムに自国の沿岸で石油と天然ガスの掘削をさせない」ように
しようとしたと述べた。8月には米国務省が、中国がベトナムに、非中国系の石油・ガス会社との
提携を解消させ、中国の国営企業とのみ提携するように強要しようとしていると指摘した。
米国防総省も声明を発表し、中国による違法な海洋領有権行使や、いじめ戦術を非難した。
中国は米国の主張を否定し、米国による「中国への理不尽かつ事実をわい曲する批判」を非難した。
中国外務省は同国の調査船「海洋地質8号」が7月以降活動していた海域は中国の管轄下にあり、
船は科学的調査の終了後に現場海域を離れたと述べた。ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)は
調査船や沿岸警備隊の船舶の活動について個別に質問したが、中国から回答はなかった。
ベトナム政府関係者やアナリストは、中国の活動に対し、石油や天然ガスの埋蔵量を手に入れる
ための戦術以上のものを感じているという。
「中国は南シナ海での意思決定を一手に引き受けたいと考えている」とベトナム外交アカデミー
南シナ海問題研究所のグエン・フン・ソン所長は話す。「中国には実施したい規則があり、その規則を
実施するために行動している」。ベトナム外交アカデミーはベトナム外務省が運営している。
この10年、中国は南シナ海での力の均衡を変えるため、活発な動きを見せている。領有権を争う
海域で強固な存在感を維持するため、海軍の近代化を進め、沿岸警備隊と海上民兵による世界最大の
艦隊を築いた。また、複数の人工島を建設し、飛行場やレーダーシステムを設置した。
中国は南シナ海の「リードバンク(南沙諸島の海域にある堆の一つ」についても領有権を主張し、
フィリピンに対しても以前から、同海域で石油とガスに関わる活動をさせないようにしてきた。
中国は資源の共同開発を迫り、両国は交渉中であることを明らかにしている。
ベトナム沖の状況は異なる。ベトナム政府と政府から認可を受けた企業が何年も前から、同国南部沖で
石油・天然ガスの開発を行っている。ロシアのロスネフチが運営しているのはそうしたプロジェクトの
一つだ。プロジェクトの一環として5月にリグが動き始めると、中国は激しく反発した。
ロスネフチは質問に回答を寄せ、「国際法の現行規則に厳格に従い」プロジェクトに参加していると
述べ、領有権争いに関する問題は同社の能力を超えているとの見解を示した。
中国の調査船は7月初旬から、ベトナム沖の広い海域で沿岸警備隊と海上民兵の船舶を伴い、
科学的調査とする活動を実施した。活動は中国がファイアリー・クロス礁に建設した人工島が支えていた。
調査船は3回にわたって現場を離れ、人工島で短期間の休憩をとると再び現場に戻った。人工島の
おかげで休憩や燃料補給、修理のためにわざわざ中国本土の港まで戻らずに済んだ。
中国が人工島を活用したことで、資源も船の数も少ないベトナムは対応に苦慮したとベトナム
政府関係者は話す。
ベトナム政府関係者によると、中国の調査船に随行した同国の船舶は沿岸警備隊の船舶と海上民兵の
船を合わせて一時、35隻に上った。その中には1万2000トンの巡視船も含まれていた。エスカレート
する中国の動きによって、ベトナム政府と国際社会は試されているというのがベトナム政府関係者の
見方だ。
ベトナム外交アカデミーのグエン氏は「われわれが立ち上がらなければ、深刻な結果を招く」と話す。
「世界秩序は少しずつ崩れるだろう」