アマゾン、高級スーパーのホールフーズ買収 1.5兆円
米アマゾン・ドット・コムは16日、米高級スーパーマーケットチェーンのホールフーズ・マーケットを137億ドル(約1兆
5200億円)で買収すると発表した。食品販売をさらに強化する。
アマゾンはホール・フーズの1株につき42ドルを支払う。これは15日の株価終値に27%上乗せした水準。
ホールフーズのジョン・マッケイ最高経営責任者(CEO)は続投する。店舗も名称を変えず営業を続け、サプライヤーも
維持する見通しだ。
ホールフーズでは2015年9月から既存店売上高の減少が続き、株価は13年のピークにから50%近く下落している。
アマゾン旋風、食品スーパーに到来
2017 年 6 月 17 日 11:01 JST THE WALL STREET JOURNAL
――WSJの人気コラム「ハード・オン・ザ・ストリート」
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オンライン販売の巨人アマゾン・ドット・コムにとって、自然食品チェーン大手ホールフーズ・マーケットの買収は微々た
る動きだ。だが、低迷する食品スーパー業界にとっては、買収は世紀の大転換となる。
アマゾンはすでに食料品販売を手掛けている。言うまでもなく、同社サイトで手に入らないものはほとんどない。だが、
同社が次々と小売業を飲み込み成長を続けても、懐疑的な向きは食品スーパーならほぼ安全だろうとみていた。16日
の買収発表は、懐疑派が間違っていたことを証明するかもしれない。
ホールフーズはアマゾンにとって、食品事業でこれまでになく大きな足掛かりとなる。ホールフーズが展開する約460
店舗に加え、配送網も手に入るためだ。アマゾンはこれにより、現在は一握りの都市に限られている食料品の宅配サー
ビスを多くの市場に急拡大できる。
さらに、ホールフーズの店舗は高所得層が多く人口密度の高い地域に集中しており、宅配サービスに最も適した市場
にある。健康意識の高いコロラドとコネティカットの両州では合計28店を展開している。一方、人口はほぼ同数だが所
得や教育水準、人口密度が低いケンタッキー州とアラバマ州では各都心部に出店しているが、合わせて6店舗しかな
い。
この出店傾向により、オランダの小売りロイヤル・ アホールド・デレーズ の「ピーポッド」や、ベンチャー企業が支援する
ブルーエプロン・ホールディングスのような食品宅配サービスの新興企業に対し、優位に立てる可能性がある。ホール
フーズは昨年、米フォーチュン誌で食品・ドラッグストア部門の最も称賛されるブランドに選ばれており、こうした評価も追
い風に宅配事業で手強い競争企業となりうる。
ホールフーズが取り扱う高級品の多くは利幅が大きいこともあり、同社の利益率は食品小売り競合に比べかなり高
い。ホールフーズの粗利益率は34%なのに対し、米食品スーパー最大手のクローガーは21%だ。アマゾンが小売り事
業と同様に食品スーパー事業でも低い利益率で成功できれば、業界の収益性は急速に圧迫されかねない。
アマゾンの買収タイミングは非の打ち所がない。1株当たり42ドルという提示額は、ホールフーズの15日終値に27%
上乗せした水準。その前日終値に対してはわずか18%の上乗せとなる。15日にはクローガーが利益見通しを引き下げ
たことを手掛かりに売り込まれ、食品スーパー関連銘柄は全面安となっていた。
買収プレミアムを考慮しても、負債引き受けを含めて137億ドルでの買収は、ホールフーズの店舗数が今より2割少な
かった5年前の負債調整済み時価総額の230億ドルと比べ、手堅い買い物だ。
買収額はアマゾンの時価総額の3%にも満たない。実際、買収が報じられた直後に株式市場の取引が始まり、同社
株は前日の下げから反転したが、その上昇幅だけで時価総額は買収額に相当する増加となった。
アマゾンにとって微々たる動きかどうかはともかく、買収額は同社にとって過去最大で、食品業界への影響は甚大
だ。アマゾンが新事に参入すれば、その業界では誰もが恐るべきニュースと受け止めるが、投資家の反応は今回もそ
の例に漏れないことを示している。
クローガーの株価を見るといい。15日に急落したのに続いて、強力な競合の出現に反応して16日の朝方には15%
安となった。また、米国最大の食品小売業者で、実店舗ではアマゾンの競合として本命扱いされる小売業最大手のウォ
ルマート・ストアーズは、同日朝に時価総額が140億ドル吹き飛んだ。
アマゾン旋風がついに、大きな音を立てて食品スーパーに到来したことになる。
アマゾンのホールフーズ買収:識者はこうみる
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[16日 ロイター] - オンライン小売の米アマゾン・ドットコム(AMZN.O)は、自然・有機食品小売り大手の米ホールフーズ・マーケット
(WFM.O)を債務を含め137億ドルで買収すると発表した。
市場関係者のコメントは以下の通り。
●アマゾンが先鞭、他のスーパーマーケット追随
<ACSIファンズの最高経営責任者(CEO)、フィル・バク氏>
アマゾンがホールフーズをどこまで発展させられるか、限界はない。
アマゾンはこれまで、顧客が何を望んでいるのか、何を評価して何度も買い物をしたくなるのかを、購入体験につなげるノウハウを持っ
ていることを示してきた。
今回もアマゾンが先鞭をつけ、他のスーパーマーケットが追随する格好となった。今後、顧客の買い物行動にどのようにテクノロジーを
利用していくのか、見守りたい。
●食品配送時短可能に、自社ブランド確立が戦略
<ソラリス・アセット・インベストメントの最高投資責任者(CIO)、ティム・グリスキー氏>
うわさはあったが、全く信じていなかった。アマゾンは好きに投資でき、収益化する必要もない。投資家はそれに慣れている。買収額
は137億ドルだが、会社全体の規模からしたら小さい。
実店舗の小売り企業を取得するのは奇妙にも見えるが、一方で、実店舗を取得することで配送時間の短縮も可能になる。生鮮食品の
配送はフェデックスが最善とは限らない。
またアマゾンは消費者が商品を実際に見る場所として実店舗の活用を検討しており、ホールフーズ店舗は他の目的でも活用できるか
もしれない。
アマゾンはホールフーズや(スマートスピーカーの)エコーなどを組み合わせて今後も商品を広げ、小売りで自社ブランドの確立を目指
す戦略なのだろう。
●独占禁止問題でない、手続き順調に進む
<法律事務所グッドウィン・プロクターの反トラスト専門家、アンドレア・ムリノ氏>
今回の買収は、従来の独占禁止問題と捉えられない。ホールフーズに足を運んで農産物に触れ、最も新鮮なアスパラガスを買い求め
る客が、アマゾンで購入することは無いだろう。
両社は直接競合しておらず、手続きは順調に進むとみている。
●小売業界全体の変革引き起こす
<ムーディーズ・インベスターズ・サービスの首席小売アナリスト、チャールズ・オシア氏>
オンライン小売の米アマゾン・ドットコムによる自然・有機食品小売り大手の米ホールフーズ・マーケットの約140億ドルでの買収は、
食品小売だけでなく小売業界全体の変革を引き起こす案件だ。
影響は食品部門のはるか先まで及ぶ。食品部門で支配的な地位を占めているウォルマート・ストアーズ、クローガー、コストコ・ホール
セール、ターゲットなどは、アマゾンの勢力が自分たちの方に向かっていると認識を新たにする必要がある。
ただ、マルチ・チャンネルの可能性も開かれる。アマゾンはこれまでこうしたことには控えめだった。
●生鮮食品を強化、双方の思惑一致
<グローバルデータ・リテールのマネジングディレクター、ニール・ソーンダース氏>
突然のニュースで驚きだ。様々な面でアマゾン、ホールフーズ双方の思惑が一致したのだと思う。アマゾンにとっては、長年目指してい
た食品市場での足場を固められる。自力で達成するのは極めて困難だが、買収により生鮮食品市場におけるアマゾンの存在感を大き
く高めることができる。
ホールフーズにとっても、アマゾンの傘下に入ることで、デジタル化などのテクノロジーを業務に活かし、効率を高めることが可能にな
る。営業利益率が低下しているホールフーズには必要不可欠なことだ。アマゾンは得意とする技術と物流をホールフーズに提供するこ
とで、経営立て直しを支援できる。そういった意味で、アマゾンは不振のホールフーズを救ったと言える。