中国当局による技術移転の強要、「組織的かつ手際よく」=英紙
米中貿易戦の激化で、中国当局による外国企業に対する技術移転の強要が批判の的となっている。
米企業は、中国当局の技術移転の強要、企業の競争力が低下し、イノベーションの原動力が失ったと
訴えている。ホワイトハウスの試算では、強制技術移転によって米企業は毎年500億ドルの損失を被っている。
米紙ウォールストリート・ジャーナル(WSJ)が28日伝えた。(WSJの記事は下記)
中国当局は現在、化学製品、コンピューター用半導体チップ、電気自動車など各分野の外国企業の
技術を狙い、様々な方法を使っている。なかには、脅迫などの強制手段を用いることもある。
WSJの報道によると、米化学大手デュポンは昨年、提携先の中国企業が同社の技術を盗もうしているとして、
技術漏えいを回避するために仲裁を申し立てた。しかし昨年12月、中国独占禁止当局の捜査員20人が
デュポンの上海事務所に踏み込み、同社の世界的研究ネットワークのパスワードを要求し、
コンピューターを押収した。当局の捜査員らは、同社の担当者に対して、提携関係にあった中国企業への
申し立てを取り下げるよう命じたという。
米中両政府と企業の関係者数十人の話と規制に関する文書に基づいて、WSJは中国当局が「組織的かつ
手際よく技術を入手しようとして」との見方を示した。
その手法について、「米企業に圧力をかけて技術を手放させること、裁判所を利用して米企業の特許や
使用許諾契約を無効にすること、独占禁止当局などの捜査員を出動させること、専門家を当局の規制委員会に
送り込ませ、中国の競争相手企業に企業機密を漏らさせること」などがあるという。
同紙は、外国企業の中国市場への進出を認可する代わりに、その技術の移転を求めることは、党最高指導者
だった鄧小平が考案した戦略だと指摘した。
また、報道によると、上海にある米商工会議所が今春に行った調査では、5分の1の会員企業が中国当局に
技術移転を強要されたことがあると答えた。
いっぽう、欧州企業も同様に、中国当局による強制技術移転を訴えている。今月18日に公表された中国の
EU商工会議所2018年年度報告書によれば、中国に進出した1600社の欧州企業のうち、約2割が中国当局に
技術移転を迫られた。
EU商工会議所が3カ月前に、532社の欧州企業を対象に行った調査では、同じく2割の会社が中国当局から
技術移転を強要されたと訴えたことが分かった。
25日、トランプ米大統領は国連総会の演説で、中国当局が米企業の知的財産権を侵害していると
批判したうえ、中国による貿易・経済面における乱用を容認できないと述べた。同時に、国際貿易体制の
改革も呼び掛けた。
同日米ニューヨークで、日本、EU、米国の貿易担当閣僚による第4回三極貿易大臣会合が開催された。
3閣僚は、中国を念頭にした強制技術移転や政府補助金問題に懸念を示し、世界貿易機関(WTO)の
ルール見直しについて協議した。
経済産業省によると、世耕経済産業大臣が議長を務めた同会合では、日米欧は強制技術移転や
市場志向条件の2つの分野について、第三国による市場歪曲的措置の分析などの情報交換を実施することで
合意した。第三国は中国当局とみられる。
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中国は米企業技術をこうして入手する
デュポンの事例に見る、技術移転「強要」の手口とは
2018 年 9 月 28 日 10:54 JST THE WALL STREET JOURNAL By Lingling Wei in Beijing and Bob Davis in Washington
かつて提携していた中国企業が貴重な技術を奪おうとしている――。疑いを抱いた米デュポンはこれを
阻止するため仲裁を申し立てて1年以上争った。
その後、中国独占禁止当局の捜査官20人がやってきた。
捜索は昨年12月、上海にあるデュポンの複数のオフィスで4日間にわたって行われた。捜索について
説明を受けた複数の人物によると、捜査官は同社の世界的な研究ネットワークへのパスワードを要求した。
文書を印刷し、コンピューターを押収し、社員を脅した。一部の社員がトイレに行くときは捜査官が同行した。
米国の企業や政府によると、中国政府はさまざまな手段を駆使して米企業から技術を入手しようとしている。
強制的な手段を取ることもある。
ウォール・ストリート・ジャーナルが米中両国の企業・政府の関係者数十人から話を聞き、
規制に関するものなどさまざまな文書を精査したところ、中国が組織的かつ手際よく技術を入手している
様子が浮かび上がった。中国当局は米国からの批判を不公平と受け止めている。
関係者の話や文書によると、中国は、国内企業と合弁を組む米国企業に圧力をかけて技術を手放させる、
裁判所を使って米国企業の特許や使用許諾契約を無効にする、独禁当局などの捜査官を派遣する、
国内の競争相手に企業秘密を漏らす可能性のある専門家を規制委員会に送り込む、などの手法を採用している。
デュポンの件で争いの種となったのは、トウモロコシから柔軟性のある繊維を生産するプロセスだった。
この素材の2017年の事業規模は4億ドル(約450億円)に上った。中国の独禁当局はデュポンに対し、
提携先だった中国企業に対する申し立てを取り下げるよう命じたという。
米国の企業は以前から、知的財産を引き渡すよう中国政府から圧力を受けていると不満を訴えていた。
特に最近は中国が化学製品、半導体、電気自動車などさまざまな産業で力を付けており、米国企業は
懸念を強めている。
中国による技術移転の強要は今や、激化する米中貿易戦争の核心の一つとなっている。
ホワイトハウスの推計では中国が米国企業に与えている損害額は年間で500億ドルに上る。
米国企業の幹部は強制的な技術移転が競争力の低下を招き、イノベーションへの意欲をそぐと繰り返し
訴えている。
中国当局は取材に対し、国務院(内閣)が24日に公表した文書に言及。そこには「中国の米国企業は
技術移転やライセンス契約を通じて多大な利益を得ており、技術協力の最大の受益者である」と記されている。
さらに、米国企業は自主的に協力関係を結んできたとある。
「世界に対する中国のオファーは明快だ」。ある当局者はこう話した。「外国企業は中国市場への
アクセスを許されているが、その見返りとして何かで貢献する必要がある。それは技術だ」
米企業はほとんどの場合、十分警戒しながら中国に進出している。不満を公言することにも多くは慎重だ。
米企業が中国に合弁事業というアイデアを持ち込んだのは、人口14億という中国市場と低賃金の労働力への
アクセスを得るためだった。中国企業の技術向上を支援することも合弁の条件に含まれていた。
首都ワシントンで今年1月に開催された米商工会議所の夕食会で、企業幹部らはテリー・ブランスタッド
駐中国大使に対し、技術問題に関して中国に打撃を与え過ぎないよう強く求めたという。
出席者らによると、IBMのバイスプレジデント、クリストファー・パディラ氏は、中国は多くの
報復手段を持っていると述べた。IBMは中国企業に技術をライセンス供与している。
パディラ氏は夕食会でこう話した。「暗い路地で誰かがナイフで刺されても、翌朝になるまで誰が
やったのか分からない。それでも殺人はすでに起こってしまっている」
デュポンは米当局者に自社の案件を説明した。だが事情に詳しい関係者によると、貿易協議のなかで
その件を持ち出してほしくないと述べた。同社のかつての中国パートナー、張家港美景栄化学は
繊維を作るために使われる化学製品を販売し続けている。その製品の技術はデュポンから盗まれたものだと
同社は確信している。両社の幹部からコメントを得ようとしたが、両社とも応じなかった。
中国の独禁当局は「まだ調査中だ」とし、詳細については明らかにしなかった。
「著しい圧力」
上海の米商工会議所が今春実施した調査では、会員企業の約5社に1社が中国当局から技術移転を
迫られたことがあると回答した。そのうち航空宇宙関連の44%、化学関連の41%が「著しい圧力」を
受けたと報告している。中国は両業種を戦略的に重要な分野だととらえている。
市場へのアクセスの見返りに技術移転を迫るやり方が始まったのは、市場寄りの政策にかじを切った
鄧小平氏の時代だ。この政策はのちに中国の繁栄につながった。ゼネラル・モーターズ(GM)の幹部は
1978年の予備調査的な訪中で現地企業との合弁を提案した。中国政府関係者や歴史家、自動車業界の
幹部らの話で分かった。
この合弁案は、西側の技術は欲しいが西側の影響力は制限したいという鄧氏の望みと合致した。
同氏は1984年に「(中国は)われわれが必要とする進んだ技術と引き換えに国内市場の一部を手放す
必要がある」と述べている。コロラド大学、香港大学、ノッティンガム大学の経済学者らが今年3月に
発表した論文によると、この政策は成功した。論文には、外国の技術が「合弁事業の範囲を超えて拡散」し、
競合他社の技術向上を促進したとある。
中国と外国企業の合弁では、外国企業は現金や技術、経営に関する知識といった知的財産を提供し、
中国企業は土地使用権や資金調達、政治的な人脈、市場の知識を提供することが多い。米国企業との
合弁が増えるにつれ、歴代の米政権は技術提供に関する要件の緩和を求めて中国に圧力をかけてきたが、
大きな成果は出ていない。トランプ政権は中国に関税をかけて「枠組みを変え」たいとの意向を示している。
中国は35の分野について、外国企業による新規参入や事業拡大は合弁企業を通じて行うよう
義務付けている。ただ今年4月には、外国の自動車メーカーに工場の所有権と利益を中国企業と
分け合うよう義務付ける規則を、2022年までに段階的に廃止する計画を発表した。
中国指導部にとって革新的な技術とは、中国の各業界を高度化させ、豊かな国に仲間入りするための力だ。
外国企業に最高の技術を提供させるため、規制委員会が外国企業の投資を詳細に調査し、政府の目標と
一致するかを確認する。
外国の自動車メーカーにとって、規制委員会は今や、電気自動車(EV)関連の技術をめぐる
戦いの場となっている。外国メーカーによると、新車を大量生産するには政府の許可を得なければならず、
必須の技術監査は数日かけて行われる。
ある外国自動車メーカーの社員は今年の監査で、監査チームと中国の自動車メーカーが
「共謀している明確な証拠」に気付いた。この社員によると、監査で調査員から提出を求められたのは、
このメーカーが中国の合弁相手から守ろうとしていたEVの部品の設計図だけだった。
社員は「(調査員は)どういうわけか調べるべき分野を正確に知っていた」「その他の非常に複雑な
システムについての質問は一切なかった」と語った。
デュポンは「人質」か
デュポンは2006年、提携先の中国企業である張家港美景栄化学にトウモロコシを原料とする
繊維用のポリマー「ソロナ」の製造販売を許可した。デュポンの社内では、美景栄との提携は中国市場に
参入するための通行料のようなもの、という認識だった。同社は、ソロナの生産と繊維への加工のための
工場設置に向けて美景栄を教育した。
事情に詳しい関係者によると、デュポンは美景栄がソロナに類似した製品を販売するためにデュポンの
知的財産を奪おうとしているとの疑いを抱き、美景栄のライセンスを更新しなかった。
2013年頃のことで、当時、ソロナは中国で7000万ドル規模の事業に成長していた。デュポンは特許が
侵害されたとして2件の仲裁を申し立てた。審問は2017年まで続いた。
この頃、中国国家発展改革委員会の独禁法部門の関係者がこの問題に関心を持ち、デュポンと会合を
持ち始めた。12月、委員会はデュポンが計画していたダウ・ケミカルとの合併について独禁法に基づく
調査を開始したが、合併計画にはほとんど関心を示さなかった。合併は昨年、完了した。
この問題について説明を受けた関係者によると、中国の当局者が注目していたのはむしろデュポンと
美景栄の対立だった。12月に3日間にわたって会合を開くうちに、デュポンは強制捜査が入るのではと
心配になり、強制捜査への対応について社員研修を計画したが、捜査官が来るほうが早かった。
捜査官はデュポンに対し、中国企業に技術の使用許諾を認めることに消極的であることなど独禁法に
反する行為と、美景栄をめぐる仲裁の申し立てについて調査していると説明した。
中国政府は米国との貿易戦争で人質を欲しがっている可能性があり、デュポンは申し立てを取り下げた
だけでは中国政府は満足しないだろうと考えているという。
トランプ政権高官はこうした案件を中国の経済侵略の証拠と受け止めている。
対中強硬派のピーター・ナバロ大統領補佐官(通商担当)は「中国市場への参入に意欲的な米国企業が
世間知らずで傲慢(ごうまん)だったことに加えて、中国が手の込んだやり方で技術を入手しようとした。
命取りの組み合わせだ」と話した。
先月の米中通商協議で米国は技術移転の強要をめぐり中国に迫った。米国が例に挙げたのが
半導体メーカーのマイクロン・テクノロジーだ。同社は12月、中国の福建省晋華集成電路が技術を
盗んだとして、カリフォルニア州の連邦地方裁判所に提訴していた。
福建晋華は1月、マイクロンを相手取って福建省の裁判所で訴訟を起こした(福建晋華の経営には
福建省政府が関わっている)。福建晋華は両者が特許権を主張している製品について、マイクロンの
一部子会社による中国での販売を差し止める仮処分を勝ち取った。
福建晋華はコメントを差し控えた。同社が7月に公表した声明では、マイクロンが「無謀にも」特許を
侵害したと述べた。マイクロンは「あらゆる手段を通じて自社の知的財産および事業利益を積極的に保護する」
意向を示した。
米中協議に詳しい関係者によると、中国側の交渉担当者の王受文商務次官は8月の協議で米国側の懸念を
一蹴した。王氏は、マイクロンと福建晋華は「兄弟のようなもの」で、「兄弟はけんかをするものだ」と
言ったという。