独裁国家カンボジア「もう援助いらない」の背後にあの独裁国家
フン・セン首相が中国から得た資金援助の恩恵は庶民に届いていない
<野党やメディアを弾圧するフン・セン首相が総選挙で圧勝したが、本当の勝者は中国だ>
7月29日にカンボジアで行われた下院総選挙は、与党・カンボジア人民党(CPP)がほぼ全ての議席を獲得する
圧勝に終わった。30年以上にわたって実権を握ってきたフン・セン首相の独裁体制が、さらに5年続くことになる。
フン・セン陣営の勝利はシナリオどおりだ。彼らは選挙前に最大野党のカンボジア救国党(CNRP)を解党に
追い込んだばかりか、巨大な経済力を持つ中国から全面的な支援を受けているのだから。
カンボジアはフン・セン体制下で中国から巨額の投資を受け、世界有数の急速な経済発展を遂げてきた。
中国はカンボジアの最大の貿易相手国で、2017年の両国間の貿易は前年比22%増の58億ドルに達した。
中国との関係が深まるにつれて、フン・センは西側諸国に対して「もう資金援助は必要ない」と露骨に
伝えるようになったと、人権団体グローバル・ウィットネスのアリス・ハリソンは指摘する。
「中国から莫大な資金を得て、フン・センはカンボジア経済が安全な水準に達したと感じている」
ただし、その恩恵は一般庶民にはほとんど届いていない。ダムや道路などのインフラ工事を請け負った中国企業は、
現地のカンボジア人ではなく自前で連れてきた労働者を使う。国民の家計債務は過去最高の30億ドル規模に達している。
欧米は選挙協力を停止
南シナ海における中国とASEAN諸国の領有権争いでも、フン・センはASEAN諸国と一線を画し、中国を公然と
支持している。
それも当然だろう。カンボジアでは内戦終結後の1993年、国連の指導下で初の民主選挙が行われた。
だがそれ以前から現在に至るまで首相の座に座り続けるフン・センは、国連が目指した民主主義から離れて独裁体制に
シフト。権力の一極集中が進むなか、中国からの投資も増え続けてきた。
独裁が加速した引き金は、13年の総選挙で野党のCNRPが躍進し、選挙の不正を訴える暴力的なデモが吹き荒れた
ことだった。フン・センは政権に批判的なメディアを次々に閉鎖。昨年にはCNRPのケム・ソカ党首を国家反逆罪で
投獄し、CNRPを解体に追い込んだ。残った野党指導者らは国外脱出を余儀なくされた。
こうした弾圧を非難するEUは、武器以外の全ての品目を関税なしでEUに輸出できる優遇措置の見直しを示唆。
アメリカもEUと共に、7月の総選挙向けの資金支援を停止した。
一方、その穴を埋めるかのように素早く動いたのが中国だ。中国は投票ブースやコンピューターなどの機器関連で
2000万ドル相当を提供した。
中国による太っ腹な援助の背景には、マレーシア情勢の再来への警戒がある。マレーシアでは、5月に行われた総選挙で
野党連合が勝利。マハティール首相は前政権が承認した中国出資の巨大プロジェクトの見直しを進めている。
カンボジア総選挙への中国の異例の協力ぶりは、周辺諸国の今後を示唆しているのかもしれない。アジアと欧州に
またがる巨大経済圏をつくる「一帯一路」構想の一環で、中国はアジア各国に対する投資を記録的な水準にまで
拡大させている。
「民主主義からの逆行が起きている国はカンボジアだけではない」と、カンボジアのシンクタンク、
フューチャー・フォーラムのウー・ビラク所長は言う。
「その共通項は中国だ」