新型肺炎、ついに中国国内で習近平主席の稚拙な対応への批判高まる…共産党内部や国民から
2020.02.06 Business Journal 協力=石平/評論家
1月23日、中国共産党の祝賀会に出席する習近平氏(新華社/アフロ)
新型肺炎への対応の不備を中国共産党指導部が初めて認めた。共同通信は3日、
『習近平指導部、対応の誤り認める 新型肺炎で初動に遅れ』と題する記事を配信。
「中国共産党の習近平総書記(国家主席)ら党最高指導部が新型コロナウイルスに
よる肺炎に関する会議を開き、感染症対応に誤りがあったことを認めた」と伝えた。
中国の国家指導部が誤りを認めるのは非常に異例だ。共産党一党支配体制の揺らぎなのか、
2日にはYouTube上に感染源となった武漢市に「臨時政府樹立」を訴える動画が
アップロードされるなど、中国国内の混乱に拍車がかかっている。
「武漢臨時政府樹立」?
動画は『緊急直播:武漢臨時政府湖北獨立宣言 605』と題し、2日にアップロード
された。4日正午現在でも視聴可能できた。動画では中国人男性が「武漢でSARSに
似たウイルスの情報をネット上に流した医学生8名が警察に逮捕された」などと述べ、
新型肺炎に対する中国当局の対応を批判。救援物資の公平な分配、感染予防策の
適切な実施など5項目を中央政府に要求した。合わせて、普通選挙の実施、直接選挙に
よる大統領の選出の必要性や、香港、チベットの独立を訴えた。
突然登場。武漢臨時政府樹立を訴える
この動画が武漢市の市民が作成したのか、語られている内容が事実なのか確認は
取れていない。一方で、中国では当局への批判や、共産党の支配体制に対する批判、
そして分離主義と呼ばれる「一つの中国」を否定する言論が厳しく統制されてきた。
そもそも中国政府は「金盾」というインターネット上の検閲システムを使って、
中国国内でのYouTubeやグーグルの利用を制限している。ウィーチャットやウェイボー
など中国国内で普及しているSNSではなく、YouTubeという媒体を使って動画が投稿
されているため、この動画の信ぴょう性に難はある。一方で政府が動かずに、こうした
習近平指導体制を真っ向から批判する動画が2日以上も野放しになっていること自体が
異常な感を受ける。
習近平の身に何かが起きている
中国情勢に詳しい評論家の石平氏は4日、Twitterに以下のように投稿した。
「習近平の身に何か起きているのではないかという観測が出ている。先月28日に彼が
WHO事務局長と会談して以来公の場に姿をいっさい現していない。
昨日、習が政治局会議を主宰したと報じられるが、テレビ局は会議の映像をいっさい
流さないし、今日の人民日報も関連写真を掲載していない。何か変である」
「昨日の中共政治局常務委員会議にかんし、日本の一部報道に『中央指導部誤り認める』
が出ている。確かに、会議の公式発表には『疫情対策における欠点と不足』を認めた
個所があるが、それが中央政府の問題か地方政府の問題かを明確にせず、中央指導部が
自分自身の誤りを認めたことになっていない」
石平氏「習氏の強力な指導者の虚像が崩壊」
当サイトでは、石平氏に今回の投稿と新型肺炎の対処失敗に伴う習近平指導体制への
影響に関して聞いた。
【石平氏の見解】
今回の新型肺炎拡大の対処失敗で、習近平氏が就任以来7年間、宣伝機関などを
フル活用して描いてきた「強力な指導者」の虚像が完全に崩れたと思います。
初動対応の遅れや情報の隠蔽などは明らかで、「深刻な状況になってやっと動き出した」
というイメージは拭えません。
1月25日、新型肺炎の対策のための指導小組(対策本部)が立ち上がりました。
本来であれば国家主席であり党総書記の習氏がトップになるべきところを、トップに
就任したのは李克強首相でした。
<新型コロナウイルス>リカちゃん(リ・クーチャン)登場。中国・李首相が武漢訪問、新型ウイルス対策の陣頭指揮に
共産党にはさまざまな小組がありますが、習はすべての小組のトップに就任し、
権力を集中させてきました。伝統的に本来、首相の李氏が就任するポストの中央財経
指導小組ですら、習氏が就任したほどです。
ところが、国民の生命がかかるまさに国家存亡の事態に際して、その対策の責任者に
つかないというのは明らかにおかしいです。少なくともこれまで、自然災害や疫病が
発生した際、中国共産党のトップは必ず現地に入って最前線で激励してきました。
江沢民も胡錦濤もそうでした。ところが、今回はその役目を李氏に押し付け、責任を
放棄しました。
こうした行動に対して、今まで国家主席の任期延長など、習氏の指導に疑問が
あった共産党幹部や国民の不満が暴発しつつあります。先日、中国中央電視台の
生放送で取材を受けた武漢市幹部が党指導部の隠蔽工作を批判しました。
また精華大の教授が党の対応を批判する文書を公表するなど、習近平指導部に対する
批判の声が高まっています。
一方で、李氏の評判は高まるばかりです。習氏は7年間、李氏の台頭を押さえつけて
いましたが、これでそれも終わりです。李氏の仕事ぶりは毎日、報道で伝えられています。
この状況が続けば、習氏の権威体制に変化が生じてくるでしょう。新型肺炎が
小康状態になるまで、共産党内には今回の失態に関して責任を追及する余裕はない
でしょうが、ある程度、収まった時期に責任を問う声は上がると思います。
少なくとも、習氏の個人独裁体制が崩れる可能性はあると思います。