中国の消費者新世代、高級ブランドを救うか
ニッチなブランドを求める新たな客層
【パリ】中国人客の消費の冷え込みにここ2年ほど影響を受けていた高級ブランド各社の売り上げが、急速に回復している。
支えているのは、新たな世代の中国人消費者とその巨大な購買力だ。
好調な株式市場に後押しされ、これら消費者は国内だけでなく訪問先の欧州、そして最近はオンラインでも大枚をはたいている。
中国での汚職取り締まりや欧州でテロ攻撃が相次いだことで昨年は高級ブランド品の売り上げが低迷していたが、ここへきて
高級時計やブランドものの衣類、ハンドバッグ、高級酒などへの需要が盛り返しつつある。
コンサルティング会社ベイン・アンド・カンパニーによれば、中国人消費者による高級品消費額は昨年21%増加し、840億ユーロ
(約9.1兆円)に達した。これら消費額が世界の高級品消費額に占める割合は2016年の30%から昨年は32%に増えた。アナリストらは
今年はさらに消費が伸びると予測する。
フランスの高級ブランドグループ、 LVMHモエヘネシー・ルイヴィトン の最高経営責任者(CEO)で同社支配株主でもある
フランス一の富豪ベルナール・アルノー氏は、「中国は極めて活発になりつつある」と話す。
業界をリードする高級コングロマリットであるLVMHは25日、中国人客の消費急増を受けて昨年は通期売上高と純利益が過去最高を
達成したと発表。2017年の売上高は前年比13%増の426億ユーロで、純利益も同じく29%増えた。
中国人客の間では依然、ルイ・ヴィトンやグッチのようなメガブランドが人気だが、セリーヌやデレク・ラムといった
よりニッチなレーベルへの関心も高まっている。
セリーヌ人気の背景に新たな客層
北京にある製薬会社で働くモン・シンさんは最近、パリにある百貨店ギャラリー・ラファイエットを訪れた。
セリーヌのブティックで1250ユーロのハンドバッグを購入することが目的だった。LVMH傘下の同ブランドはパリ発祥のルーツを
感じさせる控えめなデザインで知られる。中国では最近まであまり人気はなかったものの、モンさんはブランドのシンプルな
スタイルが気に入ったと話した。
新たなブランドを求める姿勢は、中国人の客層の変化を物語っていると専門家や小売店は指摘する。数年前と比較すると顧客は
若返り、女性の割合が増え、ファッションのトレンドにも敏感になっているという。
ギャラリー・ラファイエットのファッション・エディター、アリックス・モラビト氏は、「中国人は主にロゴのためにブランド品を
購入していた」と指摘。「今は、トレンドを追ってロゴを購入する傾向が見られる」という。
需要が再び高まっていることを受け、ギャラリー・ラファイエットはパリ中心部の本店から道を挟んだ反対側に新店舗を開設。
ツアーバスで訪れる中国人買い物客のため、店内の表示はすべてフランス語と中国語を併記した。新たな店舗を設けたことで、
本店では少人数で旅行し、商品選びに時間を掛けたいと考える中国からの買い物客に対応できるとモラビト氏は話す。
中国の人口動態の変化も、堅調な消費を支えている要因だ。一人っ子政策が打ち出された1979年以降に生まれた世代が今、
消費者層のより大きな割合を占めるようになった。彼らは仕事に就いている上、両親にも頼れるため、これまでの消費者たちよりも
多くの可処分所得を手にしている。
ベイン・アンド・カンパニーで中国の小売りコンサルティング部門のトップを務めるブルーノ・ラネス氏は、「これら消費者は
一人っ子政策のたまものだ」とし、「彼らはそれほど貯蓄をせず、今の瞬間を楽しむ生き方をし、より衝動的に買い物をする傾向が
見られる」と続ける。
これまで高級品は官僚や政治家に便宜を求めるための「贈答品」として個人が購入していた。だが2012年にそうした慣習を阻止する
目的で、習近平国家主席が汚職取り締まりを打ち出した。政府は海外で高級品を購入して国内に密輸する業者も摘発した。
さらにパリなど欧州の商業中心地での相次ぐテロ事件や元安が重なり、中国人旅行者の高級ブランド品消費に水を差した。
2016年には2008年の金融危機以来で初めて世界の高級品支出が減少した。
だが1年ほど前から高級品を求める中国の消費者たちが、新たな現状に順応し始めた。テロの脅威が収まり、株価や不動産価格が
上昇したことが消費者心理を後押しした。新たな需要が生まれ、化粧品や宝飾類、ブランドものの衣類などが市場をけん引していると
ベイン・アンド・キャピタルは指摘する。
「ミレニアル世代が自分たちや友人、そして家族のために消費することが多くなっている。これは新たな中国の姿だ」とラネス氏は
話す。「中国ではファッションの時代が到来している」