共 結 来 縁 ~ あるヴァイオリン&ヴィオラ講師の戯言 ~

山川異域、風月同天、寄諸仏子、共結来縁…山川の域異れど、風月は同天にあり、諸仏の縁に寄りたる者、来たれる縁を共に結ばむ

今日はドビュッシー《夜想曲》初演の日〜個人的に忘れ得ぬ名曲

2024年10月27日 15時55分51秒 | 音楽
昨日の運動会の疲れを引きずりまくって、今日は昼過ぎまで寝ていました。目覚めてからもそのままウダウダしていようかとも思ったのですが、今日が衆議院議員選挙の投票日なことを思い出して、渋々投票所まで行ってきました…。

ところで、今日10月27日はドビュッシーの《夜想曲(ノクチュルヌ)》が初演された日です。《夜想曲》は、



クロード・ドビュッシー(1862〜1918)が1897年から1899年にかけて作曲した管弦楽曲で『雲』『祭』『シレーヌ』の3曲からなる一種の組曲となっている作品です。

《夜想曲》というと、一般的にはショパンの《ノクターン》を想像する方が多いかと思います。一方、ドビュッシーはこの曲について

「《夜想曲》という題名は、ここではより一般的な、とりわけいっそう装飾的な意味で理解されるべきです。だから夜想曲という慣行の形式を意味するのではなく、さまざまな印象と光の特別な効果のすべてを意味します。」

と述べていて、音楽上の形式で捉えるのではなく、より広い意味で、且つより絵画的に説明しているものであることを示しています。

ドビュッシーが《夜想曲》完成に至るまでの道のりはかなり長いもので、前身的存在といえる作品が2つありました。

◎《3つの黄昏の情景》(Trois scènes au crépuscule )

初めて《夜想曲》の前身となるこの作品について言及が為されたのは1892年9月のことで、この当時ドビュッシーは手紙で

「《3つの夕暮れ(黄昏)の情景》がほぼ完成しました。」

としたためています。この《3つの夕暮れ(黄昏)の情景》は、20世紀フランスの最も重要な詩人の一人とされているアンリ・ド・レニエ(1864〜1936)の『古代ロマネスク詩集』から着想を得たものとされていますが、結局完成することはありませんでした。

◎《独奏ヴァイオリンと管弦楽のための『夜想曲』》

ドビュッシーは構想を練り直し、1894年8月に《ヴァイオリンと管弦楽のための『夜想曲(ノクチュルヌ)』》という題名を付けるとともに、同年9月にはヴァイオリニストのウジェーヌ・イザイ(1858〜1931)に宛てた手紙の中で、この構想について

「第1曲は弦楽器だけで、第2曲はフルート(複数)、4本のホルン、3本のトランペットと2台のハープで、第3曲はそれら2種類の楽器の組み合わせを結合した形で演奏されます。」

「これは実際のところ、実験です。絵画でなら、さしずめ灰色のエチュードといった、ただひとつの色のなかで可能なさまざまなコンビネーションを探求する実験です。」

と紹介しています。しかし、のちにイザイとの関係が悪化してしまったことから、この構想も立ち消えとなってしまいました。

そして1897年12月になって、ようやく現在の形での《夜想曲》の作曲に着手することになりました。因みにここに至るまでに、ドビュッシーは歌劇《ペレアスとメリザンド》(1893年)に着手していたり、《牧神の午後への前奏曲》(1894年)を完成させたりしています。

《夜想曲》は、先ず『雲』と『祭』の2曲を1900年12月9日にカミーユ・シュヴィヤールが指揮するラムルー管弦楽団の演奏でパリで初演されました。そして翌1901年の10月27日に、同じコンビで全3曲の初演が同じくパリで行われました。

1. 雲 (Nuages)

空の雲のゆっくり流れて消えていく様を描写した曲で、冒頭に「セーヌ河の上に垂れこめた雲」を表すクラリネットとファゴットの動機が現れます。4分の6拍子のリズムに「汽船のサイレン」を表すコーラングレの旋律が4分の4拍子のポリリズムで絡み、拍節感がぼやけさせられています。

ソロを除き常に弱音器がつけられた弦楽器は、ヴァイオリンは第1、第2がそれぞれ6分割、合計12分割もの分奏によって細分化されていて、弱音器をつけたホルン、低音域のフルートなどと共にこの曲独特の『灰色』の質感を作り上げています。中間部でハープを伴ったフルートが東洋的な五音音階の旋律を奏でますが、これは1889年のパリ万国博覧会でドビュッシーが聴いたジャワのガムランの影響であると考えられています。

2. 祭 (Fêtes)

祭の盛り上がりと祭の後の静けさが描かれている曲で、ff の空虚五度(ドとソだけの和音)によるリズムが弦楽器によって刻まれ、木管楽器がスケルツォ風の駆け巡るような主題を奏でます。強烈なハープのグリッサンドに導かれて、活発な3連符のリズムに乗って進行する祭りの音楽が唐突に中断すると、ティンパニとハープの弱奏にのって遠くから幻影のような管楽器の行列が近づいてきます。

やがて祭りの主題と行列の主題が同時進行し溶け合うクライマックスを迎え、その後、諸主題を回想しながら消え入るように終わります。終盤では、トランペットによって次の『シレーヌ』の序奏がさりげなく予告されます。

3. シレーヌ (Sirènes)

シレーヌとはセイレーンとも呼ばれていて、美しい歌声で船乗りたちを惑わし船を難破させてしまう伝説の人魚のことです。この曲ではトロンボーン、チューバ、ティンパニと打楽器は使われていない代わりに歌詞のない女声合唱(ヴォカリーズ)が加わられていて、月の光を映してきらめく波とシレーヌの神秘的な歌声が、精緻なオーケストレーションによって表現されています。

私も随分昔に演奏に参加したことがありますが、個人的にかなり印象深かったこともあって、今でもその時のことをよく覚えています。またいつか演奏する機会は…あるかな?

そんなわけで、今日はドビュッシーの《夜想曲》をお聴きいただきたいと思います。ミッコ・フランク指揮によるフランス放送交響楽団の演奏で、浮遊感が支配するドビュッシーの音世界をお楽しみください。



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