とりわけ彫刻のジャンルで一般に美の象徴として知られているのは「ミロのヴィーナス」だろう。
けれど私は「サモトラケのニケ」の方が美しいと思う。
体に張り付く布の繊細な表現ももちろん素敵で、力強い雰囲気も気に入っているが、
私は"あの頭部と両腕が失われている"サモトラケのニケが好きだ。
頭部がないから、その表情はヒトの想像の中でより柔軟に変わりうるし、
両腕がないから、その手はヒトの想像の中で力強くも、優しくも動きうる。
"ないもの"が現実世界を超えて、彼女を女神たらしめていると感じる。
"ないもの"は時に"あるもの"よりも強く存在しているのではないだろうか。