「お父さんは私が居るから1人じゃないわ。」
蛍さんは父に言ったように、祖母の前でこう言葉を漏らすのでした。
ここ迄、公園の回想をしていた蛍さんは、所々父の言葉や自分の言葉を興味深く孫の言葉に聞き入っていた祖母に我知らずの内に披露していたのでした。
『成る程ねえ。』祖母には茜さんが何故スルメを持ち出したのかが分かりました。感情を噛みしめるというような難しい表現を、幼い子供が分かる訳が無いのでした。噛みしめると聞けば、思うのは食べ物の事ばかりです。この時代、噛みしめる食べ物と言えば真っ先に思い浮かぶのはスルメでした。
「それでスルメが出て来たんだ。」
と祖母は感慨深げでした。子供の単純な発想というものに改めて感じ入ると、蛍さんの顔を見詰めて、彼女の父である自分の息子の事を蛍さんに尋ね始めました。
「それで、何時も行く公園で、あんたのお父さんはよく、その、孤独とやら言う物を噛みしめているのかい?」
ああ、と祖母にそう言われて蛍さんはハッとしました。父からはこの事はあまり誰にでも言わないようにと口留めされていたのです。言いにくそうに「うん」と言葉を濁す蛍さんでした。祖母にしても、蛍さんの父は自分の息子の事、あれは孫に口止めしているのだなとピン!と来ました。そこで、この話題は置いておいて、例の難題、「諸行無常」の件に先に移ろうと決めました。