「やっぱりそうだったわね、お姉さん誤解してたわね。」
この母の言葉に、先刻から自分に同意を求める様に目や仕草で合図していた母に、彼女の次女は神妙な顔付きでコクリと頷いた。
母は上機嫌で次女に話し掛け、上の子の失態を下の子と笑い合おうとしたが、妹の方は何やら慎重な状態で笑顔を見せて来ない。如何したのだろうと彼女は思った。ちらっと上の子に目を遣って彼女は次女に問い掛けた。如何したの?何かあったのかと。
次女は視線を落としつつ、チラチラと姉の様子を伺っていたが、隙を見て「うん、一寸。」と言うと、間を置いて「後が怖いんや。」等、言葉を発した。姉の方はその間自分の考えに没頭している様子で、自分の母の顔と中空に向けてその視線を泳がせていた。この姉妹の様子に、母である彼女は徐にうんざりとした顔付きに変わると、ハーっと溜息をついた。彼女は舅の話が離縁話では無い事を姉娘に語り出した。
「よく目を開いて物事を見たり、耳を澄ませて人の話を最後まで聞きなさい。」
よく言って来ただろうと彼女は言った。この娘が祖父の家を出てから可なり経つ事を考えると、この癖が直らないのは元々の性分なんだろうか、そうも考えてみる彼女だった。
「三子の魂百までか…。」
彼女は呟いた。鶏が先か、卵が先か、そんな言葉も彼女は口にしたが、目の前の年嵩の子はさっぱり要領を得ない様子だ。彼女は離れた所で立ち止まってこちらの様子を窺う下の子に、お前の方の事情は分かったよと真面目な目付きをして頷いて見せるのだった。
「本当に、言わなくても分かる子もいると言うのに、」
お前は言っても分からないと溢すと、彼女は不満気に言った。
「お前よりもっと年下の子でも、言わなくても分かる子は沢山いる。」
お前にはもう何度も、昔から言っているのに未だに分からないなんて。聞かなくても、その場にいなくても、ちゃんと物事判じる子もいると言うのに。
「その子がお前と同じ歳になったなら、お前はその子に抜かれるよ。」
そんな事になったら、お前如何するんだいと、彼女は不機嫌な顔付きで言葉を苛つかせて長女に言ってみるのだった。
「お母さんたら、冗談ばっかりなんだから。」
ハハハ、ここで長女はさも可笑し気に笑った。