そうです、この日の空は一部気流が速く、雲が走っている所がありました。彼が気付かない内に、空には新しい雲が現れ、太陽もそんな流れの速い雲の交錯する中で、現れたり隠れたりしていたのです。先程彼の視界が暗闇に落ちた時、彼は丁度雲の切れ目が作った日光の柱の中に入ったのでした。彼は突然スポットライトを浴びたようで、光の外側が闇に落ちたようになり、全く見えなくなってしまったのでした。彼はこの光の柱の中で、遮られる物無く太陽のみを見上げていたのでした。この時の彼にはそんな事は未だ分かりませんでしたが、雲のせいで夕日の光が差したり遮られたりするのだという事は分かりました。
なあんだ…、と彼は安堵しました。『夕日の作る影が出たり隠れたりしてるんだ。』正体が分かれば怖いことはありません。彼は従妹の方へ目を向けました。その後ろに映し出された彼女の影を確認してみます。塀に出来た影はまるで影の中心の頭の部分、一番暗い部分に如何にも瞳が有るように感じました。更に、不思議な事にその瞳は如何にもこちらにいる自分の目をじーっと真一文字に見詰めて来るかの様に彼には思えました。
『これは影だ。従妹の影なんだ。』
彼はそう自分に言い聞かせて、目の錯覚だと思ってみますが、内心には恐怖が忍び寄って来ます。何の異変も無く人の影だと分かっていても、彼にはその影が異様に赤く揺らめいて見え、影の暗い部分に目があり、その目が自分を睨んで見えて来るのです。
『もう止めだ!』彼はもう従妹の影を見る事を止める事にしました。真偽を見極めるより、自分にとって嫌な物を見る事を止めて、それ以上訳の分からない事に関わり合わない事にしたのでした。また、近付いて来る夕刻の闇も、彼の恐怖心に忍び寄って来ました。気温も低下して、彼はぶるっと身震いするとすっかり肝が冷えて仕舞いました。
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