この家の裏庭では、この屋の若旦那であるらしい男性が焦ったく思いながら苛々していた。彼は一旦は彼の親に虚勢を張ってみた物の、その結果酷い目に遭うだろう事も予想していた。なので彼は直後から、内心ハラハラとその場を動かずに狼狽えていた。が、彼が恐れる様な親の反応は、彼に対して一向に起こって来無かった。彼の親がこの庭に現れ出た気配も無い。ましてや彼を咎める声さえも無かった。
『出たは出たんだろうか。』
彼は親が庭に姿を現す事だけはしているのかと考えた。しかし彼の背後ではこそりとも音はし無かった。その割には後方が静か過ぎるなと考えた彼は、『黙って睨み付けられているんだろうか?。』とも思った。
裏口に背を向けていた彼には、自分ではその様子が把握出来無い事から、彼の前方で自分の方を向いている彼の子供の顔付きから、自分の背中の様子を知ろうと計った。そこで彼は自分の頭を極力動かさずにそれと無く彼の目だけで子供の視線の先等窺ってみる。子の視線や顔色に何かしらの動きがあれば、誰かこの裏庭に現れ、何かをしていると言う予想が付くと言う物だった。しかも後方で動きがあれば、その相手の顔付きが子供の顔色にもそれなりに反映するものだ。
『この子は気持ちがよく顔に出る子だからな。』
当てになると、彼は子の顔色の変化をそれと無く盗み見て自身の後方の情勢を鑑みていた。
少し経った。が、子供の顔は俯き加減の儘だった。子はずうっと下方の草を見ている気配だ。やはり庭には音も無く静寂な儘、何の変化も起こってい無い様子だ。
『如何やら…。』
彼は思った。子に変化が無いのはこの裏庭にも変化が無いのだ。と。
彼はそれ迄彼の注意を向けていたこの裏庭から彼の意識の範囲を広げた。この家の勝手口、炭や薪の置き場になっている、一見、この庭に母家から続いて立てた掘立て小屋の様に見える小屋の内、そこから続く彼の家の母家へと彼の聞き耳を立てた。何やらボソボソと彼の耳に話し声が聞こえて来た。屋内では彼の両親が話しをしている様子だ。『何を言い合っているのだろう?。』彼は屈み越しで伏せていた彼の身を起こすと、顔を上げて彼の後方に頭を反らせた。そうして彼は自身の耳を母家の裏口方向に向けた。彼は屋内の話し声がより鮮明に聞き取れる様になった。
「私は嫌です。」
あれは母の声だ。あの様子では、母さんは父さんを引き留めているんだろうか。彼は思わずホッと安堵して吐息を洩らした。ボソボソと、声は途絶えた様だ。如何なっているのだろうか?、耳を澄ませてみるが、それっ切りうんともすんとも聞こえて来無い。彼はせっせと耳を澄ませた。