Jun日記(さと さとみの世界)

趣味の日記&作品のブログ

うの華4 47

2022-06-10 11:03:24 | 日記

 この家の裏庭では、この屋の若旦那であるらしい男性が焦ったく思いながら苛々していた。彼は一旦は彼の親に虚勢を張ってみた物の、その結果酷い目に遭うだろう事も予想していた。なので彼は直後から、内心ハラハラとその場を動かずに狼狽えていた。が、彼が恐れる様な親の反応は、彼に対して一向に起こって来無かった。彼の親がこの庭に現れ出た気配も無い。ましてや彼を咎める声さえも無かった。

『出たは出たんだろうか。』

彼は親が庭に姿を現す事だけはしているのかと考えた。しかし彼の背後ではこそりとも音はし無かった。その割には後方が静か過ぎるなと考えた彼は、『黙って睨み付けられているんだろうか?。』とも思った。

 裏口に背を向けていた彼には、自分ではその様子が把握出来無い事から、彼の前方で自分の方を向いている彼の子供の顔付きから、自分の背中の様子を知ろうと計った。そこで彼は自分の頭を極力動かさずにそれと無く彼の目だけで子供の視線の先等窺ってみる。子の視線や顔色に何かしらの動きがあれば、誰かこの裏庭に現れ、何かをしていると言う予想が付くと言う物だった。しかも後方で動きがあれば、その相手の顔付きが子供の顔色にもそれなりに反映するものだ。

『この子は気持ちがよく顔に出る子だからな。』

当てになると、彼は子の顔色の変化をそれと無く盗み見て自身の後方の情勢を鑑みていた。

 少し経った。が、子供の顔は俯き加減の儘だった。子はずうっと下方の草を見ている気配だ。やはり庭には音も無く静寂な儘、何の変化も起こってい無い様子だ。

『如何やら…。』

彼は思った。子に変化が無いのはこの裏庭にも変化が無いのだ。と。

 彼はそれ迄彼の注意を向けていたこの裏庭から彼の意識の範囲を広げた。この家の勝手口、炭や薪の置き場になっている、一見、この庭に母家から続いて立てた掘立て小屋の様に見える小屋の内、そこから続く彼の家の母家へと彼の聞き耳を立てた。何やらボソボソと彼の耳に話し声が聞こえて来た。屋内では彼の両親が話しをしている様子だ。『何を言い合っているのだろう?。』彼は屈み越しで伏せていた彼の身を起こすと、顔を上げて彼の後方に頭を反らせた。そうして彼は自身の耳を母家の裏口方向に向けた。彼は屋内の話し声がより鮮明に聞き取れる様になった。

「私は嫌です。」

あれは母の声だ。あの様子では、母さんは父さんを引き留めているんだろうか。彼は思わずホッと安堵して吐息を洩らした。ボソボソと、声は途絶えた様だ。如何なっているのだろうか?、耳を澄ませてみるが、それっ切りうんともすんとも聞こえて来無い。彼はせっせと耳を澄ませた。


うの華4 46

2022-06-08 16:29:54 | 日記

 「また以前の失敗を繰り返すんですか。」

一郎の時に懲りたでしょう。幼い子の前でその親を怒鳴ったり、乱暴したりと、お父さんの怒った姿を見せたら、あの子はその後如何なりました。妻は夫に切々と訴えた。それ迄はよく慣れた、とても可愛い子だったのに…。

「それっ切り。お父さんは勿論、お父さんの連れ合いの私に迄、それはもう、他所他所しくなって…、あの子あれ以来変わりました。始終気を張って、遠慮して…。

「ここを出てからは、今じゃ寄り付きもしない。」

あの子はあれ以降、親に付いた切りだったんですよ。お父さん、今もあの時と同じ、酷く怖い顔してますよ。もしそんな怖い顔で今出ていけば、お父さん、本当にあの子もそれっ切りですよ。あの子も親にくっ付いて、あの孫同様私達祖父母にはもう慣れてもくれ無くなりますよ。…。

「今から思えばあれが境目だったんですよ。親か祖父母か。」

妻は切々と小声で夫に語り掛け、夫の今から行うだろう無分別を諭すのだった。

 「一郎の時はして遣られましたが、」

彼女は白髪が増え、顳顬の後退がめっきりと目立つ様になった彼女の夫に訴えた。

「あの盆暗の、お父さんの言葉で言うとですが、四郎に迄、して遣られてしまうんですか。」

「お父さん。」

彼女の語調には、過去の夫の不始末を咎める様な棘が含まれていた。それ迄沈黙を続けていた彼女の夫からは、未だ彼女の言葉に対する返事が無かった。彼は裏庭にいる彼等の息子親子からは自身の姿が見えない位置に注意深く彼の身を置くと、彼の片手を戸口の垂直な材に持たせ掛けた。彼の妻の言葉が彼の心情に相当な影響を与えたのは確実と言えた。

 「盆暗、四郎…、四郎が。」

夫が我知らず口にすると、彼女はうんと、ここぞとばかりにキッパリ夫にダメ押しをした。

「私は嫌です!。」

「あの孫に迄愛想尽かしされるのは。私は嫌ですよ、お父さん。」

今庭にいる、…この家に今いる孫に迄。…お父さんも…。妻は淡々と言葉を続けようとしたが、ここで彼女は感極まった。次の言葉を続ける事が出来ず彼女は涙ぐんだ。

 「好きにしなさい。」

ややあって、夫は普段通りの声で彼の妻にそう言うと、やおら土間に下りていた彼の両の足を高々と上げて母家の廊下へと戻った。彼はその儘その足で勝手口を離れ、スタスタと台所の廊下を進み家の座敷へと戻って行ったのだろう。廊下から彼の姿が消えた。家の勝手口には老いを迎えた妻が1人ひっそりと取り残されていた。

 やれやれ、感傷的になった自らの気持ちを引き立たせる様に彼女は口にした。未だ頬を伝う涙を着物の袖で拭うと、彼女は矍鑠として両手で着物の乱れを整えた。気を取り直し、サバサバとして顔を引き締めると、彼女はよいせと高い敷居から彼女の足を勝手口の土間へと下ろした。庭の様子は如何なっているのだろうか?。彼女は注意深く外の様子を窺った。


「平日」

2022-06-08 13:01:26 | 日記

    平日は日常

一寸好い物

御馳走と言う人も

実際、食もある、衣食住

 

気付いたら良い場所

人も声も歌もある、相和す合奏

実際、営みがある、喜怒哀楽

 

目覚めると善い所だった

今はそう感じる

町並み、通り、抜けて行くと

開けた場所から望む、山、また山の連なり

実際、草花が見え、緑に青、

群青と藍青色が帯を引き広大

遥かに山、峰、頂き、中腹に木立の影、窪み

 

蒼天は紺碧に上空

空色と青、白、通常の天空

日常は平日

…    囃子詞    …

                         

 

 

                2022年    母の誕生日によせて 祝

 

 


うの華4 45

2022-06-03 15:05:36 | 日記

 子供の父の方は自分の両親がいる場所、彼の後方に向いて意識が向いていた。彼はフンという態度で以って屋内にいる自分の父の言葉を受け流した。

「何も分かってない年端の、子供を育てている真っ只中の、文字通りに親の気持ちが、君達なんかに分かるもんか。」

彼は腕組みなどして、この庭に向けて開いている母家の入り口には背を向けた儘、如何にも大層に言ってのけた。

「共に無学な人間のくせに、私は大学と名の付くところを出た人間なんだ。」

 もう勘弁ならん!。お父さん堪えて、孫の、小さい子供の前ですよ。と、屋内は何だかバタバタと騒々しくなった。庭にいた子の父である彼も、その家内の騒動の様子に内心穏やかでは無かった。彼の親に、否、目の前の自分の子供の手前だろう、かもしれないが、彼は一旦虚勢を張ってみた物の、その実この横柄な言葉を口にした瞬間からもうドキドキと肝を冷やしていた。

 彼は肩を窄め自分の後方を気にした。やはり彼自身人の子という立場に勝てず一瞬怯んでいた。彼は腕を上げて両手で頭など庇う仕草迄したが、家の裏口、彼の子が自分の父と喧騒の様子から注意を向けて見詰めていたこの庭に向けて開いている母家の入り口からは、一切誰の姿も現れなかった。

 「お父さん、子供の挑発に乗って如何するんです。」

妻が夫に小声で忠告した。「孫に嫌われたいんですか。」「未だ小さい子ですよ。」妻は重ねて細々と言った。「何も分からないですよ。」と。すると夫は彼の動きをピタリと止めて沈黙した。

 開いた勝手口から裏庭へと、今しも出ようと土間へ下りていた夫の足は、身動きせずにその場に留まっていた。彼はそこで今掛けられた妻の言葉を黙って考えていた。妻は落ち着いて彼女の夫に言葉を掛け続けていた。