想い出を再三現実の世界へ。タクシーからの窓から眺めやる光景は不思議な程多くの過去を忘れさせ、まるで恰も初めて見る様な気分に浸る事さえある。みるみるうちに外窓の世界が移り変って行く。僅かな時間、僅かな距離ではあるのに、膨大な時間を要して町から山間地へ向っている様に感じる程、心の中では楽しみの極地に立っていた。
石垣に出る…と計画を立てた時に、川平とバラビドーには絶対に行こう…と思いを巡らし熱望していたのである。車の中から窓の外を見詰める明美の瞳、そしてあれこれと話し出す弾んだ口調。
帰りに迎えに来てもらう時間を運転手と話し合っているうちに、どうやらお目当てのパイン農園に到着した。文字通りパイン農園の真ん中にデコラの長いテーブルと、籘を折り曲げた様なイス、頭の上にはワラの様なものを軽く葺いただけの簡素な屋根。辺りには一面、農園を取り囲む緑の山々と蒼い空。超自然の極地の一つを眺めている様だ。
込み上げてくる懐しさが私に一つの言葉を弾み出させる。
「こんにちは」
明美も後について言う。
「こんにちは」
車から降りて近付いたほんの2〜3mの間に、おばさんは思い出してくれていた。
「あなたは前によく来てくれた…」
記憶の中に留めてくれていた。年賀状が二年連続して届けられた事のお礼をしてから腰を掛けた。
目の前に次から次へと出されるパインを食べ、楽しみ、「ちょっとお休み」と言っては煙草を吹かしたり写真を撮ったりして、何やかや騒ぎながらも楽しみの中に時は過ぎて行く。
「ウ〜ン、もうダメ。私、お腹一杯。こんなの一人で8個も食べた人って、どんな娘かしらね?」
「知らない。でも、本当に浪速っ子って感じ。その連れの、10個も食た彼氏っていうのも、如何にも関西人らしいね」
「そうねェ、ホントね」
何を話しの種に取り沙汰しても、興じる事に尽きる事は無かった。迎えに来るタクシーの時間も迫ったので、例によりスケッチブックの寄せ書き帳に二人の想い出を書き連ねた。バラビドー在る限り、あの一頁はずっと残されるだろう。若き日の或る一日の想い出として。
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