女の後についていって、そのままドアの向こうに消えようとすると先生に呼び止められた。安全圏に到達する僅か3秒前だった。そのドアさえ完全に越えれば、どんな声が届いたとしてもすべて無視して階段を駆け下りることに決めていたのだ。
「おまえはまだだ!」
女の後についてそのまま帰るつもりだったな。すべてお見通しというように先生は言った。「だって先生、寝てない上にNHKなんです」それに、木琴の音から始まるなんて、とても無理です。僕はみんなの標的にされています。みんなが寄り集まって、輪をかけて輪をかけて、僕はどんどんその中に埋まってゆくのです。救助信号は届きません。幾重もの色彩の中で無口になったコケシの声を聞き届ける、そんな手の平はどこにもないのだから……。
「98点」
それが僕の呼び名であるように一瞬教壇に歩み寄ろうとしたが、その本当の持ち主が一足先にその美しい答案用紙を受け取る。それはそうとたどり着いた自分の机の上には、53点が恥ずかしげもなく置かれていた。(真実を見よ)
(どこがどう間違えているというのか)
腐り果てて危なげな橋を渡れなくなった犬たちをみんな助けるには?
正解は、土に埋もれて死んでみせること。危険を知らせ自らを与えみんなを救う。
(死んだら意味ないだろ!)助かってないぞ。
「犬笛を吹いたらどうですか?」
「犬笛は駄目と最初に書いてありますね」
(どうして駄目だ? どうして最初から決め付ける?)
「スーパー犬笛はどうですか?」
先生は聞こえない振りをした。絶望的な疑問符を詩のないチャイムが粉々に砕いてしまった。
隣の教室では真面目に勉強しているので、叩いて音を出してはいけないと先生は言った。みんなの手に灰色の粉が配られ、それを木琴の上から落として奏でなければならない。さらさら……。
(秋が泣いているようだ)
誰かが、窓を開ける音が教室の隅々まで響き渡った。
「おまえはまだだ!」
女の後についてそのまま帰るつもりだったな。すべてお見通しというように先生は言った。「だって先生、寝てない上にNHKなんです」それに、木琴の音から始まるなんて、とても無理です。僕はみんなの標的にされています。みんなが寄り集まって、輪をかけて輪をかけて、僕はどんどんその中に埋まってゆくのです。救助信号は届きません。幾重もの色彩の中で無口になったコケシの声を聞き届ける、そんな手の平はどこにもないのだから……。
「98点」
それが僕の呼び名であるように一瞬教壇に歩み寄ろうとしたが、その本当の持ち主が一足先にその美しい答案用紙を受け取る。それはそうとたどり着いた自分の机の上には、53点が恥ずかしげもなく置かれていた。(真実を見よ)
(どこがどう間違えているというのか)
腐り果てて危なげな橋を渡れなくなった犬たちをみんな助けるには?
正解は、土に埋もれて死んでみせること。危険を知らせ自らを与えみんなを救う。
(死んだら意味ないだろ!)助かってないぞ。
「犬笛を吹いたらどうですか?」
「犬笛は駄目と最初に書いてありますね」
(どうして駄目だ? どうして最初から決め付ける?)
「スーパー犬笛はどうですか?」
先生は聞こえない振りをした。絶望的な疑問符を詩のないチャイムが粉々に砕いてしまった。
隣の教室では真面目に勉強しているので、叩いて音を出してはいけないと先生は言った。みんなの手に灰色の粉が配られ、それを木琴の上から落として奏でなければならない。さらさら……。
(秋が泣いているようだ)
誰かが、窓を開ける音が教室の隅々まで響き渡った。