期待を裏切れぬのは蛇の性だろうか。呼ばれる度に誰かが出かけねばならない。それにしても「忙しい夜だこと」息を切らしながら姉蛇が戻ってくるとまたどこかで口笛が鳴った。「今度はおまえが出ていくかい?」婆蛇が言うより早く孫蛇は這い出ている。ジャズフェスティバルの夜だった。#twnovel
光ある方を目指して歩くと徐々に陰が濃くなってゆくようだった。集合住宅のような形をしているが、一つも明かりが漏れるところもなく、古い遺跡かよくできた模型のようだった。歩くほどに道は狭まり、真っ直ぐ前を向いて歩くこともできないほどだった。狭く仕切られた場所を壁伝いに歩いていく。けれども、これ以上行っても大きな道にたどり着ける見込みはなくなった。いつの間にか、学校のベランダの中に迷い込んでいたのだった。倒れ込んだ植木鉢を飛び越えて、最も可能性が大きく残っている分岐点まで戻り、次の選択に賭けた。
お茶の店から一瞬だけ夜の中に緑色の気配が流れ込んで、その前を一台のトラックが走り去っていった。それが最大の明かりで、徐々に道は夜の深さにはまり込んでゆくのだった。
人の気配が遠のくにつれて空には星の姿が目に付き始めた。あそこに見えるのは、名のある星座……。そうだあれは、確かに。
ノックの音がして意識がよみがえった。
「眠っていたの?」
「眠っていた」
「だったら音は聞こえないはず」
「でもちゃんと聞こえた」
「だったら眠っていなかった?」
「確かに眠っていた」
「だったら音はうそだった」
「確かな音を聞いた」
「眠っていたのはうそだった?」
「何がうそなの?」
どこにもドアはなく、頭上には枝々に括り付けられた無数のおみくじが覆い被さっていた。そこは神社で歩いていくとすぐに行き止まりになった。来た道を戻り始めるとどこかから人が仕事をするような音がして、近づいていくと竹箒を手にした袴姿の男が立っていた。男は風を支配して、その足元に無数の落ち葉を寄せ集め、引き寄せていた。近づいていくと男は背中を向ける。
「一つ教えてください」
男は落ち葉を引き連れながら振り返った。
「僕は走り抜けたいのです」立ち止まることなく。
「虹の橋を渡らないとどこにも行けない」
そうか。そういうことだったのだ。橋を渡らない限り、道は内側の世界だけで完結しており、結局どこに行っても必ず行き止まりになってしまうのだった。きいてよかった。話は終わったが、何となく話を続けた。「今日の試合は延長でも決着がつかなくてね」話していると、なんだかずっと昔から知っている人のように思え、もしかしたら父の友達だったかもしれない。ありがとうございます。
「明日から、前に進めそうです」
家に着いてテレビをつけるとPK戦は続いていた。けれども、すぐに画面は真っ暗になり、ノイズに交じった気配だけが、遠い国から伝わってきた。
お茶の店から一瞬だけ夜の中に緑色の気配が流れ込んで、その前を一台のトラックが走り去っていった。それが最大の明かりで、徐々に道は夜の深さにはまり込んでゆくのだった。
人の気配が遠のくにつれて空には星の姿が目に付き始めた。あそこに見えるのは、名のある星座……。そうだあれは、確かに。
ノックの音がして意識がよみがえった。
「眠っていたの?」
「眠っていた」
「だったら音は聞こえないはず」
「でもちゃんと聞こえた」
「だったら眠っていなかった?」
「確かに眠っていた」
「だったら音はうそだった」
「確かな音を聞いた」
「眠っていたのはうそだった?」
「何がうそなの?」
どこにもドアはなく、頭上には枝々に括り付けられた無数のおみくじが覆い被さっていた。そこは神社で歩いていくとすぐに行き止まりになった。来た道を戻り始めるとどこかから人が仕事をするような音がして、近づいていくと竹箒を手にした袴姿の男が立っていた。男は風を支配して、その足元に無数の落ち葉を寄せ集め、引き寄せていた。近づいていくと男は背中を向ける。
「一つ教えてください」
男は落ち葉を引き連れながら振り返った。
「僕は走り抜けたいのです」立ち止まることなく。
「虹の橋を渡らないとどこにも行けない」
そうか。そういうことだったのだ。橋を渡らない限り、道は内側の世界だけで完結しており、結局どこに行っても必ず行き止まりになってしまうのだった。きいてよかった。話は終わったが、何となく話を続けた。「今日の試合は延長でも決着がつかなくてね」話していると、なんだかずっと昔から知っている人のように思え、もしかしたら父の友達だったかもしれない。ありがとうございます。
「明日から、前に進めそうです」
家に着いてテレビをつけるとPK戦は続いていた。けれども、すぐに画面は真っ暗になり、ノイズに交じった気配だけが、遠い国から伝わってきた。