猫がテレビにタックルした。
アナウンサーは読みかけの原稿を置いて、カメラを睨みつけた。
「もううんざりです。どのニュースも伝えるまでもない。今入ってきたニュースなんて、もうニュースでさえない。こんなものは昼下がりの公園で暇を持て余した貴方たちが、おしゃべりの種にでもすればいい。ふん、ニュースだと。こいつのどこが、いったいニュースだ? ふん、こいつは個人の日記に毛が生えたようなもんだ。私が伝えるべきことじゃない。電波への裏切りだ。こちらからは以上です」
とりつかれたように主人は四角い箱の中を見つめている。塩気の多いスナックと泡の入ったグラスを口にする以外は何もしない。ソファーの上でもう長い間固まって、魂を抜かれたように、絵空事を語る箱を向いている。遠い星からやってきた者たちは街に降りて、少しずつ少しずつ馴染みながら、少しずつ何かを奪い取っていく。選ぶ権利、恋する自由、奴らは少しずつ目の色を変えて、本性を見せ始める。
「もう、早くこっちを見て!」
猫は、テレビにタックルした。
どこか自分に似ているような、どこか自分とは離れているような存在を見つけた猫は、四角形の箱に釘付けになった。向こうからもこちらに興味を抱き、様子をうかがっている。初めて目にするものへの驚きと、どこか懐かしくもある容姿、猫は似て非なるものへ恋をしたのだった。向こうのものはどうだろう。確かめる手立てはいつも一つしかないことを、既に知っていた。猫は慎重に後ずさりした。それから十分に助走をつけて猛然とテレビにタックルした。そして一方的に傷ついた。住む世界が違うのだ、ということはまだ知らなかった。
後先も考えずに猫がぶつかっているというのに、黙って見ていていいのだろうか。触発されたようにみんながテレビにタックルを浴びせ始めた。時を持て余していたニートが、散歩から帰ってきた老人が、鎖につながれていた子犬が、今まで傍観を続けていたみんなが、次々とタックルを試みるのだった。
「猫がするんだから」
合い言葉を唱えながら、動物的な反撃が始まった。
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