眠れない夜の言葉遊び

折句、短歌、言葉遊び、アクロスティック、夢小説

できるかな(作業員の逆襲)

2020-09-24 04:47:00 | 短い話、短い歌
「これだけやって5円か」
 私たちの仕事は下請けだ。
 製品に欠かせないかけらの何かを作っている。
 それは何か? それを知る者はいなかった。
 発注に従って寸分の狂いもなくそれを作る。
(世界の大事な何かしらを作っている)
 私たちの手に自負はあった。
 私たちはいつも未来を作っているのだ。
「夢がある仕事ですね」
 響きのいい言葉。だけど、その目はどうも疑わしい。

「今を作ってみないか?」
 工場長は唐突に切り出した。
(一つの世界を作ってみよう)
 それは薄々皆が秘めていた想いだったが。
「そんなことはやったことがない!」
 心からの反対ではない。恐れからくる疑問だ。
「私たちにできるのでしょうか」
(神さまみたいに大きな仕事)

「できるに決まってんだろ!」
 工場長の言葉には寸分の疑いもなかった。
(自分たちの手をよく見ろよ)
 皆が我に返ったように自分たちの手を見た。
 これまでの作業はすべてここにくるためにあったのかもしれない。
「そうか……」
 あらゆる部品を作り、あらゆる部分を生み出す間に、それぞれの手の中に途方もない技術が培われていた。
「できないはずがない」
 確信の笑顔が工場の中に広がっていく。
(私たちの今がはじまる)

「我々は誰よりも先を行ってるんだから」


かみさまのかけらをつくる未来より
今に目覚めた下請工場

(折句「鏡石」短歌)

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