「これだけやって5円か」
私たちの仕事は下請けだ。
製品に欠かせないかけらの何かを作っている。
それは何か? それを知る者はいなかった。
発注に従って寸分の狂いもなくそれを作る。
(世界の大事な何かしらを作っている)
私たちの手に自負はあった。
私たちはいつも未来を作っているのだ。
「夢がある仕事ですね」
響きのいい言葉。だけど、その目はどうも疑わしい。
「今を作ってみないか?」
工場長は唐突に切り出した。
(一つの世界を作ってみよう)
それは薄々皆が秘めていた想いだったが。
「そんなことはやったことがない!」
心からの反対ではない。恐れからくる疑問だ。
「私たちにできるのでしょうか」
(神さまみたいに大きな仕事)
「できるに決まってんだろ!」
工場長の言葉には寸分の疑いもなかった。
(自分たちの手をよく見ろよ)
皆が我に返ったように自分たちの手を見た。
これまでの作業はすべてここにくるためにあったのかもしれない。
「そうか……」
あらゆる部品を作り、あらゆる部分を生み出す間に、それぞれの手の中に途方もない技術が培われていた。
「できないはずがない」
確信の笑顔が工場の中に広がっていく。
(私たちの今がはじまる)
「我々は誰よりも先を行ってるんだから」
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かみさまのかけらをつくる未来より
今に目覚めた下請工場
(折句「鏡石」短歌)
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