すでに、Facebookでは少し感想を書かせていただきましたが、
先月23日、滋賀県のびわ湖ホールに観に行ってきた、高谷史郎「ST/LL」について、非常に遅くなりましたがあらためて感想を書かせていただきます。
事前に、あまり情報を取得せずに、とは言っても冒頭に掲載した動画は見てしまったのですが、
なので、舞台のセッティングを見て、
後ろにある縦型のスクリーンは、現代人の象徴としてのスマートフォンの縦型ディスプレイを連想させ、
舞台の水面は、2014年に観た高嶺格氏の2011年の震災以後の日本の社会を訴求していた作品「ジャパン・シンドローム~ step3. “球の外側”」を連想させ、
そこに必然的に何らかの社会性をはらんでいるのでは?と、僕には期待させるものがありました。
タイトルも「ST/LL」と、過去の「S/N」と字面がダブり何かこれも社会性を感じさせるようでしたが…。
会場に入ると舞台にはすでにセッティングされた状態で、動画で見たようにテーブルが並べられ、そのテーブルの上には皿やグラス、ナイフやフォークが並べられていました。
開演された舞台上には、鶴田真由さんが最初に現れます。そのあとに平井優子さん。
二人の動きは同じような動きを左右対称で行っているように見えてそうでもない。いや、そうなのか。
よく見ると、そもそもテーブルの上には食物などなく、二人も食べているような動きをしているだけです。でも、りんごだけが唯一の食物としてあるだけ。
舞台の後ろにあるスクリーンにはテーブル上に並べられた皿やグラスなどが、これも開演直後から舞台天井から降りてきたスパイダーカメラによって撮影された映像でもって映し出されます。
何か抽象的でありながらも美しい舞台空間。
鶴田さんと平井さんの動き、実際のテーブル上の物とカメラで撮影されたスクリーンの映像とがそれぞれ対称する関係となっており、ここに「虚」と「実」の関係性を表現しようとしているのだろうと感じました。
ここで、今回の主題がほとんど出ていたことを後で、会場で配られていたパンフと後日公開された浅田彰さんのレビューで知ります。
この後も美しいシーンは続きます。
浅田さんも言っていた「夢のような」はまさしくその通り。今でも頭の中で夢のように美しく思い出されます。特に、薮内美佐子さんの文字を形取った紙吹雪のシーンはその場で感動して泣きそうになりました。
ほかのシーンもひとつひとつ細やかで奥が深い。
平井さんの身のこなしは相変わらず美しく、僕はこの安定した美しさを観に来たといっても過言ではないです。
薮内さんのユーモアなシーンは今回も健在であり、ダムタイプ特有とも言える(少なくとも僕はそう感じている)途中で突然出ては消えてゆくスキャニング・ラインも何回か出てきました。
一方では、高谷さんの作品ではおそらく初めてだったと思う坂本龍一氏の音楽での参加。また冒頭から説明している鶴田真由さんの参加で、これまでとは違う高谷さんの作品を感じる部分がいくつかあったことも確かです。
Facebookでの感想では「ダムタイプ度」という稚拙な言葉で表現してしまいましたが、「ダムタイプ度」が低かった今回の作品かもしれませんが、これまでとは違う新しい何かへ向かう過渡期の始まりのような感触を受けたということです。
これは今回受けた感想の中で重要なことだと思っています。
次の作品で、鶴田さんや坂本龍一氏がどのような役割を果たされるのかわかりませんが、今後も新しい作品が生み出されることを強く感じさせるものです。
高谷さんの作品はいつもそうだと思いますが、最初から社会訴求を狙って作品作りをしているわけではないですが、しかしながらそこに結果として社会訴求が出てしまうことを拒絶していないことは重要で、またそこが僕が高谷さんの作品に興味をいただく源泉であり、今回公演後のトークイベントでも少し触れられていて、僕が注目した言葉は、「(社会性を訴える作品を作ることは)今後はわからないですが…」と、まったく否定しなかったのは、少し心強かったです。
また、いつも観客に物事の何か新しい視点や考え方を提示してくれます。それこそ高谷さんの言葉で言えばその新しい視点や考え方を「共有できればいいな」という感じ、その姿勢がとても好きなのです。
今後も高谷さんの作品を拝見し続けたいと思いました。
「ST/LL」は現在のところ東京での公演は予定されていませんが、前作の「CHROMA」は新国立劇場での今年5月の公演が予定されています。
公演のたびに改良が加えられ進化していますから、この「CHROMA」も、2012年に僕がびわ湖ホールで観た時よりも進化していると思います。
高谷史郎(ダムタイプ)「CHROMA(クロマ)」@新国立劇場(東京・初台)
2016年5月21日(土曜日)14:00 / 22日(日曜日)14:00
チケット料金(税込):A席 5,400円 / B席 3,240円
前売開始 2016年4月9日(土曜日)
新国立劇場ボックスオフィス:03-5352-9999
WEBボックスオフィス:http://pia.jp/nntt/(PC & 携帯)
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