中国史の名君と宰相 (宮崎市定 中公文庫)
日本の大学の東洋史の研究は、戦前から戦後の一時期まで大変優れたものだったように思う。キット戦前の日本政府がその研究を後押ししたのではないかと邪推している。その後押しがなくなったので最近はいい本が出ていないというのは考えすぎか。
この本では東洋史の流れを論じるのではなく個々人に焦点をあてて人物を描いている。あちらこちらに掲載されたのをまとめて一冊にしたので、かなり読みにくい。例えば「南宋末の宰相賈似道」では日本でいう講談調の文体で書かれているし、「鹿州公案 発端」では小説調になっている。(学者が講談調の七五調で書いても小説風に会話文を書いてもなにか調子が出ていない。)中身は博識で読者はついていけないし、各セクションの文体が異なるので読み終わって読者がなに事か賢くなったなーという爽快な読後感がない。司馬遷の史記のような本を期待していたのだけどかなりがっかりだった。
同じ宮崎市定さんのエッセイに自分は歴史を学んだので、お金儲けには自信があるというようなことをおっしゃっていた。(ただやらないだけであるらしい。)どうすれば儲かるかは歴史上の人物を観察すればよくわかるらしい。そういえばジム・ロジャーズさんもお金儲けしたければ歴史と哲学の本を読めとおっしゃっている。哲学はちょっとハードルが高いから辞退しているが歴史の本はだいぶん読んだ。しかし読みが足らないようで一向儲からない。今回の本も読みが足らないのか理解ができていないのかどうも参考にはならないようである。残念である。
この本に示された時代ではどうやら政治権力に近づくこと、これが(お金儲けの)鉄則のような書きっぷりである。それではたいていの人の参考にならないではないではありませんか。史記には、権力に近づかないで成功した人の話も載っていることだから、近づかないで儲けた人の話ばっかり集めて誰か書いてもらえないかな。