分別の底たたきけり年の昏 芭蕉 元禄六年
岩波文庫『芭蕉俳句集』には元禄6年に詠まれたものとして載せられている。
芭蕉が生きた元禄時代は貨幣経済が普及していた。貨幣経済は商品経済社会が定着していたことを意味している。商品経済社会が成立していたから芭蕉の江戸深川での生活が成り立った。定期的に収入のある生活ではなかったが、俳諧の宗匠としての収入があったので生活が成り立った。食料も水も買って芭蕉は生活していた。衣類も生活用具もすべて自分で作ることなく購入するか、援助を受けることによって芭蕉の生活は成り立っていた。それを一切清算するのが年の瀬だった。
元禄時代、江戸下町に住む町人たちにとっと年を越すことの大変さを芭蕉は自分の生活を顧みて詠んでいる。
「分別の底」を叩くことなく年が越せたのは武士身分の者と農民だった。農民はほぼ自給自足に近い生活をしていたので町人ほど厳しい年の瀬ではなかったのかもしれない。しかし武士身分の者の生活も商品経済社会の普及によって貧困化を生んでいた。商品・貨幣経済社会の普及発展は貧富の差を拡大していた。一方に豊かな少数者が生れることは他方に貧しい多数者が生れることを意味している。
芭蕉の俳諧を受け入れたのは年の暮の厳しさを身に沁みて分かる人々だった。