春の江戸絵画まつり
へそまがり日本美術
禅画からヘタウマまで
2019年3月16日~5月12日
府中市美術館
毎春恒例の府中市美術館の「春の江戸絵画まつり」。今年は、去年の今頃から既に宣伝を始めていた「へそまがり日本美術」展。会期初日に訪問する。
前期:〜4/14、後期:4/16〜
観覧券には2度目は半額となる割引券付き。
出品総数:137点(1点出品中止)
通期34、前期51、後期52
第1章 別世界への案内役 禅画
第2章 何かを超える
・ 俳画と南画
・ 稚拙みと「ヘタウマ」
・ お殿様の絵の謎
第3章 突拍子もない造形
第4章 苦みとおとぼけ
・ 苦み
・ おとぼけ感覚
1 お殿様の絵
徳川三代将軍家光の作品は突き抜けている。
通期の《兎図》《木兎図》のゆるさ。でも可愛いのは確か。
前期の《鳳凰図》は、ネット世界でつけられた名前は「ピヨピヨ鳳凰」であるらしい。比較として正統派の鳳凰図(伝 呂健《百鳥図》)を隣に参考展示する企画者のご丁寧さにも微笑む。
絵は御用絵師の狩野探幽に学んだとされる家光。絵の上手い・下手は承知した上で、このゆるい絵を制作し下賜した意図は何だったのか。それは永遠に謎である。
家光の子で徳川四代将軍家綱の作品も展示。
前期はニワトリ絵2点。
相当なニワトリ好きであったらしく、描いた絵の半分以上がニワトリ絵だという。まあ単なる下手で済ませても良いかも。
家光、家綱とも、本展ではとりわけインパクトの強い作品を集めたとのことであるが、普通に下手な作品も存在するのだろうか。
2 江戸絵画だけではない展示品
西洋美術のアンリ・ルソー、その影響を受けた三岸好太郎、倉田三郎。
俳画・南画の流れから、冨田渓仙、小川芋銭、何故かアマチュア絵師の夏目漱石。
突拍子もない造形の流れから、村山槐多、児島善三郎、小出樽重。
おとぼけ感覚の流れから、萬鉄五郎。
そのように江戸絵画以外の絵画が色々展示されるなか、とりわけ異色な展示品は、湯村輝彦(←初めて聞く名前)および蛭子能収のヘタウマ/不条理漫画。蛭子氏の漫画を見るのは初めて。見開き2頁では何ともコメントできないけど。
なお、蛭子氏コーナーの次の展示は徳川将軍コーナーである。
3 気になる江戸絵画
仙厓義梵(1750〜1837)
《豊干禅師・寒山拾得図屏風》
福岡市・幻住庵
本展のトップバッターを担う屏風は、人物が変顔。
雪村周継(1500頃〜不詳)
《あくび布袋・紅梅・白梅図》
茨城県立歴史館
東京芸大美の雪村展で見た記憶あり。三幅の掛軸、梅の二幅に挟まれると欠伸も出る。
狩野山雪(1589〜1651)
《松に小禽・梟図》
摘水軒記念文化振興財団(府中市美術館寄託)
素直に可愛い梟、小鳥たちにとってはその姿は異様に見えるらしい。
惟精宗磬(1871〜1940)
《断臂図》
早稲田大学會津八一記念博物館
右手に刀を持ち左手を切らんとするが、決意こそ揺るがねど、その痛さを想像してしまった慧可。
風外本高(1779〜1847)
《南泉斬猫図》
豊田市・香積寺
真っ二つにされてしまった猫。
仙厓義梵(1750〜1837)
《十六羅漢図》
個人蔵
展覧会初出品作。頭のみ描かれる羅漢はまるで熾天使・智天使。「目立たない頭もあるので、しっかり数えないと14〜15人になったりします」と解説に脅されつつ数えるが、13人にしかならない。これもカウントしていいのかなあ、ならば16人になる。
長沢芦雪(1754〜1799)
《寒山拾得図》
個人蔵
なぜか芦雪の子犬も登場する寒山拾得図。
与謝蕪村(1716〜1783)
《白箸翁図》
逸翁美術館
姿は枯れ木のような老人、白い箸を売るが誰も買う人がいない。そんな老人がそんな感じで描かれる。
長沢芦雪(1754〜1799)
《郭子儀図》
個人蔵(府中市美術館寄託)
武将として頂点を極め、八子七婿も皆出世し、何十人もの孫にも恵まれた男。本主題は、数人程度の孫に囲まれて寛ぐ姿が描かれることが多いらしいが、芦雪は、一幅に男、もう一幅に適当に数えても50人超の数の孫たちを描く。史実どおり? でも皆同じくらいの年齢。実は孫ではなく、例えば自ら経営する幼稚園の園児たちなのではないか。
岸礼(1816〜1883)
《百福図》
敦賀市立博物館
数えていないが百人のお多福が大型画面いっぱいに描かれる。皆それぞれの遊びにそれぞれ楽しんでいる。それぞれ感が濃厚。
岸駒(1749/56〜1838)
《寒山拾得図》
敦賀市立博物館
容貌はさておき、二人の履く赤サンダルと青靴がオシャレ、と女性に評判?
長沢芦雪(1754〜1799)
《老子図》
敦賀市立博物館
なんだかもの哀しい雰囲気が漂う、後ろ向きに描かれた驢馬の背に乗る老人の図。
4 その他
1)多数の新発見・展覧会初公開作品
本展公式サイトによると、「新発見」あるいは展覧会「初公開」作品が44点もあるとのこと。
2)忙しい長沢芦雪作品
東京都美術館にて4/7まで開催中の「奇想の系譜展」への出品作、どうやら本展の後期(4/16〜)に引き続き出品されるようである。
長沢芦雪《猿喉弄柿図》
長沢芦雪《なめくじ図》
前者は「奇想の系譜展」で新出と紹介されている作品。さて、上記44点にカウントされているのだろうか。
3)来年の春の江戸絵画まつりのテーマは
?
【美術館サイトより】
人は、見事な美しさや完璧な美しさに、大きな感動を覚えます。しかしその一方で、きれいとは言いがたいもの、不格好で不完全なものに心惹かれることもあるでしょう。「へそまがりの心の働き」とでも言ったらよいでしょうか。
例えば、禅画に描かれた寒山拾得の二人は、不可解さで見る者を引きつけます。また、江戸時代の文人画には、思わず「ヘタウマ?」と言いたくなるような作品があります。文人画の世界では、あえて朴訥に描くことで、汚れのない無垢な心を表現できると考えられていたのです。
あるいは、徳川家光が描いた《兎図》はどうでしょうか。将軍や殿様が描いた絵には、ときおり見た人が「???」となるような、何と言い表せばよいか困ってしまうような「立派な」作品があります。描き手が超越した存在であることと、関係があるのかもしれません。更に近代にも、子供が描いた絵を手本にして「素朴」にのめり込む画家たちがいました。
この展覧会では、 中世の禅画から現代のヘタウマまで、 日本の美術史に点在する「へそまがりの心の働き」の成果をご覧いただきます。へそまがりの感性が生んだ、輝かしくも悩ましい作品の数々を眺めれば、日本美術のもう一つの何かが見えてくるかもしれません。