没後50年 藤田嗣治展
2018年7月31日~10月8日
東京都美術館
藤田嗣治の回顧展の鑑賞は、2006年の東京国立近代美術館で生誕120年、2016年の府中市美術館で生誕130年、そして没後50年の本展と、3回目である。
2006年の回顧展は、美術展界の事件であったようで、マスコミにもやたら取り上げられていた印象がある。何を見たかもすっかり忘れたが、超絶混雑であったことだけは記憶に残っている。確認すると、入場者数は31万人強、1日あたり6,300人ほど。
2016年の回顧展は、東京郊外での開催だからか、10年を経て希少性が減じたからか、落ち着いた状態。初期から晩年まで各時代の作品を時系列に沿ってじっくりと味わった。
さて、2018年の回顧展は「質・量ともに史上最大級」と謳っている。時系列の展示は、過去2回と同様。2016年の回顧展を思い浮かべながら鑑賞する。
1 海外からの出品
2016年の回顧展は110点強の出品で、ランス美術館所蔵と国内所蔵の作品からなっていた。
本展は「これまでにないほどのスケールで、欧米の主要な美術館から作品が来日します」と謳っている。
〈フランス〉
ポンピドゥー・センター 4点
パリ市立近代美術館 4点
カルナヴァレ美術館 3点
ランス市立美術館 2点
ニーム美術館 1点
〈スイス〉
プティ・パレ美術館 3点
〈ベルギー〉
ベルギー王立美術館 2点
〈アメリカ〉
シカゴ美術館 1点
個人蔵(アメリカ)1点
〈その他〉
個人蔵(香港)1点
この分布を見る限り、藤田はフランス語圏なら知られている存在といえそうだ。
なお、「ジャポニスム2018」の一企画として、来年(2019年)1〜3月、パリで藤田の回顧展が開催される予定。
2 「作戦記録画」
2006年の回顧展は5点。
《シンガポール最後の日(ブキ・テマ高地)》
《アッツ島玉砕》
《神兵の救出到る》
《血戦ガダルカナル》
《サイパン島同胞臣節を全うす》
2016年の回顧展は3点。
3点を横に並べる展示。その様は、まるで 「三連祭壇画」のよう。
左翼《アッツ島玉砕》
中央《ソロモン海域に於ける米兵の末路》
右翼《サイパン島同胞臣節を全うす》
本展は、2点。
《アッツ島玉砕》
《サイパン島同胞臣節を全うす》
出品数は、縮小傾向。
少なくとも首都圏では東近美の常設展や2015年「藤田嗣治、全所蔵作品展示」など作戦記録画の鑑賞機会があり、出品自体の話題性、あるいは、回顧展のなかでの重要性が減じてきている、ということだろうか。本展での展示も、大画面だけに見逃すことはないが、会場の隅っこの方に追いやられているかのような印象がある。
一方、東京藝術大学大学美術館では、関連企画「1940's フジタ・トリビュート」(2018年7月28日〜8月15日、既に終了)が開催されており、作戦記録画制作を含む1940年代の藤田への関心自体は高いようだ。
なお、3回顧展とも、《アッツ島玉砕》《サイパン島同胞臣節を全うす》は共通、この2点は外せない作品。
3 印象に残る作品
本展出品作のうち国内所蔵作品は既視感ある作品が多い。2016年の回顧展などで見たらしい。
ので、海外所蔵作品から3選。
《モンパルナスの娼家》
1930年頃、110×176cm
プティ・パレ美術館(ジュネーヴ)
パリ滞在期における「乳白色の裸婦」から「原色の娼婦」への変化、その激変に戸惑う。
《ビストロ》
1958年、97.5×156cm
カルナヴァレ美術館(パリ)
16:42の軽食堂。店内には3組のカップル。右端に赤の上着・茶のスカートの背を丸めて手紙を書く1人の女性、そのテーブルにはコーヒー。カウンターにマスター、男が2人店に入ってくる。
《ジャン・ロスタンの肖像》
1955年、82×66cm
カルナヴァレ美術館(パリ)
骸骨、頭蓋骨、貝がらやカエルやオタマジャクシなどが入った標本瓶などを背景に、両手にカエルを持って腰かける、後頭部のみ髪が残る60歳過ぎの男性。
「偉大な学者の知性と善良な人柄への敬意を描写し尽くすため、像主の髪や肌に触れてまでしてその質感を確かめ、再現に努めた」70歳前の藤田。
ジャン・ロスタン(1894-1977)は、高明な生物学者であるらしいが、文筆家としても知られているようだ。父エドモンは劇作家(戯曲『シラノ・ド・ベルジュラック』の作者)、兄も劇作家。
『一人殺せば殺人者だが何百万人殺せば征服者になれる。全滅させれば神だ』
4 ミュージアム・ショップ
藤田がその瓶を顔料入れに使ったという理由で、『桃屋の花らっきょう』400円也が販売。
マスコット・キャラ人形『フジタ画伯とねこ』1,296円也は、しりあがり寿の描き下ろし。
この時代の作品群も気になる。
《二人の少女》
1918年、81×65cm
プティ・パレ美術館