アガサ・クリスティー最後の作品にしてミス・マープル最後の事件。これが「Sleeping Murder」(1976)のキャッチコピー(slogan or catchword)。それは、そして、必ずしも間違いではない。Wiki 曰く、
The book features Miss Marple. Released posthumously, it was the last published Christie novel, although not the last Miss Marple novel in order of writing. The story is explicitly set in 1944 but the first draft of the novel had been written even earlier than this during the Second World War.
(本書は――著者【↖1890 - 1976】と遺言執行代理オフィスおよび出版社との間で取り決められていた契約に基づき――著者の死後に「アガサ・クリスティー先生の最後の小説」として粛々と出版されました。しかし、ご存知の向きも多いように本書は1944年の【↖❎この1944年は疑問、鴨】英国【コーンウォールよりのデボンシャーはDillmouth 界隈のヒルサイド荘】を舞台にしており、他方、先生の執筆順から言えば本書「Sleeping Murder」は「クリスティー最後の作品」でも「ミス・マープル最後の事件」でもない。そう、本書は第二次大戦中【1939 - 1945】でも1944年よりももっと早い時期に【↖1943年に🍎】書かれた作品ですから)
*「Sleeping Murder」はもちろん動名詞の「睡眠用殺人事件」(眠れない夜に便利な推理小説☀)ではなくて、現在分詞の方の「眠れる殺人事件=誰にも知られていないとある殺人事件」の意味ですよ、多分。
英米人の英語講師が嫌がる質問≒「このV-ingは動名詞ですか現在分詞ですか❤」
https://blog.goo.ne.jp/kabu2kaiba/e/c9711f156b8dba8498a175d7582e8803
Sleeping Murder (Wiki)
https://en.m.wikipedia.org/wiki/Sleeping_Murder
而して、畢竟、わたしたちは記事タイトルのとおり、「スリーピングマダーにはクリスティWORLDの基盤が眠っている」と思います。
ELEMENTARY My DEAR WATSON ❗
そう、「The Mysterious Affairs at Styles:スタイルズ荘の怪事件」(1920)でクリスティー先生ははからずも――その後、多くの推理小説作家が用いることになる――謂わば「ミステリーノベル」のテンプレート=「灰色の脳細胞系統ノベル」の雛型(Grey Matter Template, Little Grey Cells Template)を作られたのでしょう。
それに対して、本書には「クリスティーノベル」(マープルものの「セント・メアリ・ミード系統」、「タペンス冒険商会系統」あるいは「ウェストマコット名義で書かれた作品」・・・)を形成する基盤、よって、読者にとっては、逆に、「灰色の脳細胞系統ノベル」を別の角度から読み返す上でも――例えば、「The Hollow:ホロー荘の殺人」(1946)にポアロを登場させたことをクリスティー先生が反省しておられた経緯を考えるためにも――、そう、「クリスティーノベル」全体を理解する上で必須かつ便利な基盤・プラットフォーム(Platform of Christie Genuine)がうめこまれている。
蓋し、「Sleeping Murder」(1943⤵1976)は、1944年以降のクリスティー先生の作品群を<借景>とするときそこにクリスティーノベルのプラットフォームが逆照射されて具現されている。と、そうわたしたちは考えます。
🐙スタイルズ荘の怪事件(1920)➡ミステリーノベルのテンプレート確立
❤牧師館の殺人(1930)➡クリスティーノベルのテンプレート確立
🍎スリーピングマダー(1943⤴1976)➡クリスティーWORLDのプラットフォーム確立
戦前に書かれた作品なのに❗ はい、少なくともクリスティー先生だけは本書の内容を知っていた。ですよね。ならば、クリスティー先生は本書を念頭に、――クリスティーWORLDの消尽点、というかクリスティーWORLDを形成する作業のための、頭の中のストライクゾーンとして――その後30年以上クリスティーノベルを書き続けられたのでしょうから。ご一読をお薦めいたします。英国社会をもっと身近に感じられるようになるためにも。英国らしさを感じ理解するにも。
はい、例えば、トータルでは上下左右から圧倒的な熱烈な支持を受け続けている「階級制度」に向けて、その英国社会の底辺というか、実は、中の下から下の上といったところからのルサンチマン風味の異議ありをレポートされた、蓋し、しかし、美容院談義というべきでしょうかの、
新井潤美「不機嫌なメアリー・ポピンズ イギリス小説と映画から読む「階級」」(平凡社新書・2005年5月)、「パブリック・スクール イギリス的紳士・淑女のつくられかた」(岩波新書・2016年11月)等に比べればクリスティー先生の作品は遥かに「階級」を支えてきたこの国の階級を貫く社会意識の本線の美意識は理解できると思いますから。
だって、クリスティー先生の作品みてもメアリー・ポピンズシリーズみても、「上流階級―アッパーミドルを巡るゴシップ」こそ上下左右を問わず英国の大好物にして無形文化財。なら、パブリックスクールの苛めや体罰の横行、ガバネス・コンパニオン残酷物語なども英国社会の常識のゴシップネタですもの。
本書の日本語訳も出ています🌺
訳者は綾川梓さん。綾川さんとは面識はありません。
ただ、中村妙子さん羽田詩津子さん深町眞理子さん
山本やよいさん矢沢聖子さん宇佐川晶子さんではなくて
本書の訳の依頼をあの天下の早川書房さんが出したのだから安心というもの。
機会があれば、KABU も是非読んでみたいです。
なに? 読まずに評価するのですか? ですか?
キッパリ。(^_^)v
https://www.hayakawa-online.co.jp/shopdetail/000000011137/pc_detail/
🍎スリーピングマダー関連作品出版順🍎
*クリスティー先生が書かれたミステリーノベル「灰色の脳細胞系統」は除外
象は忘れない (1972)↖ポアロものの中で唯一「灰色の脳細胞系統」ではない作品
運命の裏木戸 (1973)↖KABU 家贔屓同着筆頭の Mrs Blenkensop, or タペンスさんの作品
カーテン (1975)↖「ポアロ廃棄処分」の手続きのためにだけ書かれた楽しめる作品
スリーピング・マダー (1976)
🍎スリーピングマダー関連作品執筆順🍎
*クリスティー先生が書かれたミステリーノベル「灰色の脳細胞系統」は除外
NかMか (1941)↖舞台も作品空間と同じ、the Blitze ロンドン大空襲に
向かう波状空襲に耐える1940 - 1941の戦時下英国
書斎の死体 (1942)
カーテン (1943)↖「ポアロ廃棄処分」の手続きのためにだけ書かれた楽しめる作品
スリーピング・マダー (1943)↖KABU 家ではクリスティー先生が漠然と念頭に置かれたであろう舞台を1951 - 1953 の英国と確信をもって推定します。エリザベス女王はエリザベス王女表記(chap.14)だけど。そして、「セント・メアリ・ミード村」が「牧師館の殺人」(1930)とだけ関連づけて説明されているし(chap.3)、なにより、全編を通してマープルの姿が行動的に描かれている。
けれども、先生が念頭に置かれた世相は、漠然としかし英国社会への希望を捨てずに10年くらい先の英国だったのであろう、と。クリスティー先生は「洞察力:perspicacious」の方であり「千里眼系統:clairvoyant」ではない。降霊術とかに関心がおありだったとしてもクリスティー先生は占い師ではないから、だから、漠然と❤ 要は、①クリスティー先生がそうあらまほしけれと設定した1953年に、②1943年の「マープルファミリー」が③時空をこえて活躍する作品。それが「スリーピング・マダー」なの鴨と。
動く指 (1943)
春にして君を離れ (1944)↖舞台は第二次大戦直前の1935-1936と推定します
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予告殺人 (1950)↖舞台は作品空間と同じ戦後間もない英国
娘は娘 (1952)
アガサ・クリスティ「予告殺人」はかめばかむほどの、あの<スルメ>さんです❗
https://blog.goo.ne.jp/kabu2kaiba/e/a308c8c5758f4e21273f1102011c9122
アガサ・クリスティ「春にして君を離れ:Absent in the Spring」の<最終勝者>はJoanですから
https://blog.goo.ne.jp/kabu2kaiba/e/856f2b352e7642b40ae5dc1ceb796f09
書評:ネイティブが教える イギリス英語フレーズ 1000↖️素晴らしい出来映え、お薦めです
https://blog.goo.ne.jp/kabu2kaiba/e/2e53a40a8a381679619c82031470b46c
イギリス英語の入門書紹介――役に立つのにお洒落で楽しい「イギリス英語」の招待状のようなもの
https://blog.goo.ne.jp/kabu2kaiba/e/2387050ede4ca0a2947e1c5783157128
高橋裕子:「津田梅子」(岩波ジュニア新書)
https://blog.goo.ne.jp/kabu2kaiba/e/a9dc47c477901942b600176b5098786d
書評☆古木宜志子「津田梅子」
https://blog.goo.ne.jp/kabu2kaiba/e/b321120a98e4219e5e52525d85d35097
松任谷由実 - 翳りゆく部屋 LIVE Ver.
https://youtu.be/51RskF-PHH4
【附録:KABUお気に入りの
Dameアガサ・クリスティー(DBE)の作品】
🍎なんと言っても、ミス・マープルものとタペンスもの
+ミセス・オリヴァ登場もの🍎
・覚書★アガサ・クリスティーという愉悦
https://blog.goo.ne.jp/kabu2kaiba/e/a70ff39c23a027bd8166d9b911af7045い
実は、コロナくんと一緒にのこの期間読み返したら、はい。
⤴ランキング変更あります❗
1)予告殺人
2)動く指
3)スリーピングマダー
4)鏡は横にひび割れて
5)牧師舘の殺人
6)NかMか?
7)象は忘れない
8)運命の裏木戸↖「灰色の脳細胞」好きからは退屈な作品。でも、タペンス好きにとってはタペンスもの全体に向けられた著者による後書き❤ 楽しいです。
次点)なぜ、エヴァンズに頼まなかったのか?
次点)秘密機関
次点)茶色の服の男
次点)ひらいたトランプ
番外佳作)ハロウィンパーティ
番外佳作)ヒッコリーロードの殺人
番外佳作)死者のあやまち≒ポアロとグリーンショアの阿房宮
論外傑作)火曜クラブ
論外傑作)春にして君を離れ
参考作品) ABC 殺人事件⬅️英語教材としては超お薦めします。
参考作品) オリエント急行殺人事件
*旧ランキング
1)予告殺人:A Murder is Announced(1950)*
2)もの言えぬ証人:Dumb Witness(1937)
3)スリーピング・マダー:Sleeping Murder(1976, but had written in 1943)*
4)鏡は横にひび割れて:The Mirror Crack'd from Side to Side(1962)*
5)アクロイド殺し:The Murder of Roger Ackroyd(1926)
次)書斎の死体:The Body in the Library(1942)*
次)動く指:The Moving Finger(1943)*
次)バートラム・ホテルにて:At Bertram's Hotel(1965)*
次)三幕の殺人:Three Act Tragedy(in U.K., 1935;
whereas in U.S. in 1934, as "Murder in Three Acts")
*いずれにせよ、アメリカ版ではなくイギリス版でお読みください❤
(ただし、米英版並読されれば、米語とイギリス英語の違いが体感できる、鴨)
*コモンローにおける成人年齢≒21歳
(実定法規範は別にして英米の社会通念としての、)
'Although, like most New Zealanders, she called it【=England】Home.・・・This was England at last and here she was, Gwenda Reed, young married woman of twenty-one, on her travel.'
英国系ニュージーランドっ子の多くがそうであるように彼女も英国を母国と呼んでいた。・・・その英国に、グエンダは今そこにいる。グエンダ・リード、21歳の若妻は旅のすえに。
弊ブログではこの作品の舞台を1951 -53の英国と考えます。要は、
「The Man in the Brown Suit:茶色の服の男」(1924)のヒロイン、
Mrs Anne 🍎🍎🍎, nee Beddingfelt のお子さんとグエンダさんは同世代、鴨。
アンさんはローデシア・南アフリカに入植されたのだけれど。
(Sleeping Murder, chap.1, 下線はKABUによるもの)
'Excuse me, Mrs Reed. That lady wouldn't be a Miss Jane Marple, would she ?'
Gwenda had come to stand beside him. At the bottom of the garden Miss Marple was still waging a losing war with bindweed.
'Yes, that's Miss Marple. She awfully kind in helping us with the garden.'
'Miss Marple, ・・・She's a very celebrated laday, is Miss Marple. So Miss Marple's got her finger in this pie.'
あれま、【グエンダお嬢さんじゃない】リード夫人。あそにおられる女性はもしやミス・ジェーン・マープルというかたではありますまいか。・・・はい、ミス・マープルですよ❤・・・
ミス・マープルは大変高名な方なんです。そうですか、この事件はミス・マープルの関心をひいている案件、てことですね。
(Sleeping Murder, chap.24)
この前「21歳」、元贔屓筆頭のHKTOGの for all intents and purposes 元
エース田中美久さん🍎 グエンダさんではありませんから❤
【再掲】取り扱い注意❗ 混ぜるな危険? ❤アメリカ合衆国憲法❤の目次的紹介
https://blog.goo.ne.jp/kabu2kaiba/e/9d379c489384c563322ed6c8e447a282
百年の時空を超えて「続あしながおじさん」が射貫く嘲笑されるべきリベラルの傲岸不遜
https://blog.goo.ne.jp/kabu2kaiba/e/3b940e53ceb0beb654232bc2754dac24
【再掲】貨幣価値:「あしながおじさん」に出てくる$35は今の**万円なのかしらね🐙
https://blog.goo.ne.jp/kabu2kaiba/e/76196a7e22147ac8b22bf51986dfdf8e
MR. Trustee, I'll know just how an orphan asylum ought to be run. Don't you think I'd make an admirable voter if I had my rights ? I was twenty-one last week. This is an awfully wasteful country to through away such an honest, educated,conscientious, intelligent cititizen as I would be.
信託財産受託機構評議員さま。【大学で教育を受けさていただいている中で】わたしは、例えば、孤児院をどう運営管理すればよいのか理詰めでもわかってきました。【1920年、アメリカ合衆国憲法修正19条発効前の、今は婦人参政権導入前の1911-1912のアメリカですが*】参政権が与えられれば、わたしは称賛に値する立派な投票者でありましょう。なにより、先週、21歳になりました。もうおとななのです。なのに、かくも誠実で教育を受けた良心的かつ知的な、わたしのような人物に参政権を認めないなんて、この国は途方もない人的資源の無駄遣い続行中というほかありますまい❎
(Daddy - Long - Legs, Letter 44, Junior November 9, 下線はKABUによるもの)
*英国の婦人参政権
英国では1918年に成立した第4回選挙法改正で「戸主又は戸主の妻である30歳以上の女性」に選挙権をあたえることが可決されました。これが英国での最初の婦人参政権の制度化❤ 而して、しかし、21歳以上の男性には普通選挙権が与えられており男女間には差があった💀 この差が解消され、男女平等の成人普通選挙権が成立するのは10年後の1928年――「牧師館の殺人」リリースの2年前――第5回選挙法改正によります🍎
今日も朝🍺ごはん🍺食べて英語頑張りましょう❗️
松任谷由実 - 翳りゆく部屋 LIVE Ver.
https://youtu.be/51RskF-PHH4