本稿で紹介するのは所謂「橋下発言」を海外では最も多くの読者がそれによって認識したと思われる Associated Press(AP)の記事です。事の発端となった橋下氏の「慰安婦は必要だった」という5月13日の発言を俎上に載せたMalcolm Foster記者の(1)「Japanese mayor: Wartime sex slaves were necessary」(AP)、および、5月27日の外国人特派員協会における橋下氏の釈明を報じた無署名記事(2)「Osaka mayor apologizes for sex comment on U.S. troops」(AP)。
ちなみに、(2)の元になったのはMalcolm Foster記者の署名記事「Hashimoto apologizes for comment on U.S. troops, but not 'comfort women' remarks」(AP)と思われます。けれども、前者が「12:33 a.m. EDT May 27, 2013」、後者が「4:00 p.m. JST May 27, 2013=23:00 p.m. EDT May 26, 2013」とリリースに約1時間半の差があり前者は後者に推敲を加えたものであること、更に、USA TodayやWashington Postに転載され広く読まれたのは前者であること。これらを鑑みて「改訂版」とも言うべき前者を主に紹介することにしました。
(1)Japanese mayor: Wartime sex slaves were necessary(AP, May 14, 2013)
(2)Osaka mayor apologizes for sex comment on U.S. troops(AP, May 27, 2013)
←資料として一部紹介:(2')Hashimoto apologizes for comment on U.S. troops,
but not 'comfort women' remarks(AP, May 27, 2013)
而して、これらに炸裂している非論理性を(例えば、朝日新聞の安倍政権の「右傾化」批判の如く、為にする揚げ足取りではなく)論理的に咎めるべく、これらのAP配信記事に比べても非論理性と無知の度合いが重篤な--よって、記者の故意・過失にかかわらず、その記事が帯びている反日プロパガンダ性が濃厚な--New York TimesのHiroko Tabuchi記者の(3)「Women Forced Into WWII Brothels Served Necessary Role, Osaka Mayor Says」(NYT)、そして、Paul Armstrong記者の(4)「Japanese politician calls wartime sex slaves 'necessary'」(CNN)も併せて紹介します。
(3)Women Forced Into WWII Brothels Served Necessary Role,
Osaka Mayor Says(NYT, May 13, 2013)
(4)Japanese politician calls wartime sex slaves 'necessary'(CNN, May 15, 2013)
5月13日の「橋下発言」の核心は何か。蓋し、それは、
(Ⅰ)「慰安婦は必要だった。日本軍だけでなく、いろんな国の軍隊で慰安婦を活用していた」、(Ⅱ)「日本は国をあげて強制的に慰安婦を拉致し、職業に就かせたと世界は非難している。だが、そういう証拠はない。事実と違うことで日本国が不当に侮辱を受けていることにはしっかり主張しなければいけない--この「日本軍による組織的な強制」を曖昧にしている「河野談話」は見直されるべきだ」。および、(Ⅲ)「(沖縄における米軍兵士の性犯罪を逓減させるために、合法的な)日本の風俗業をもっと活用してほしい」の三点
そう私は考えます。実は、朝日新聞を始めとする反日リベラル派は(Ⅰ)(Ⅱ)を巡って大騒ぎしたけれど、アメリカでは(Ⅲ)が「橋下発言」批判の中心だったと言える。いずれにせよ、少なくとも、(Ⅰ)(Ⅱ)を巡っては「橋下発言」は満更暴論や謬論とはいえず、よって、これら二点を主に批判した内外のリベラル派の言説、例えば、本稿で紹介する海外報道が無知と非論理に塗れた、歪んだ論理の磁場で紡ぎ出されたものであることは間違いないと私は考えます(よって、5月27日の釈明会見で、橋下氏は(Ⅲ)に関しては謝罪したものの(Ⅰ)(Ⅱ)については基本的に自説を堅持したのですが、それは、これまた基本的には穏当な対応ではなかったかと思います)。
畢竟、(Ⅰ)(Ⅱ)を巡って、これらの記事に憑依する非論理性の病巣は彼等の考える「従軍慰安婦:comfort women」あるいは「性奴隷:sex slaves」という言葉の意味内容と、他方、第二次世界大戦中の日本の<戦場における性>を巡る歴史的事実--要は、「従軍慰安婦」あるいは「性奴隷」などは存在しなかった事実(すなわち、①日本軍が組織的に、②朝鮮等の日本本土以外の地で、③本人の意志に反して強制的に女性を集め、④専ら戦地における日本軍将兵を相手に売春をさせるべく、⑤それらの女性の自由を拘束し続けた、⑥組織的計画の被害者としての「従軍慰安婦」もしくは「性奴隷」などは存在しないという事実)--との齟齬に収斂すると思います。
蓋し、インドネシアで日本軍がオランダ人女性を性奴隷にした事件--所謂「スマラン事件」--等は⑥あるいは①の要件を欠いたあくまでも一部の不心得な日本軍部隊が惹起せしめた<事件>であり、かつ、その関係者は終戦直後に紛う方なき戦争犯罪者としてとっくに処罰されている事件にすぎず、本稿で紹介する海外報道が念頭に置いている所謂「従軍慰安婦」なるものとは全く別カテゴリーの事象である。而して、上述の①~⑥の要件を満たさない、戦地の単なる公娼としての「慰安婦」、すなわち、橋下氏が「必要だった」「いろんな国の軍隊が活用」していたと述べた「慰安婦」を巡る日本の責任など法的にも道義的にも成立しようがないのです。
敷衍すれば、(a)戦地における日本軍の軍人・軍属を主なマーケットとする、(b)非日本人の公娼の方々が、公娼になるにおいて/公娼を続けるにおいて、(c)軍の強制や軍の組織的関与により、(d)本人の自発的意志とは言えない理由が与して力あったのでなければ、(当時はもとより、白黒はっきり言えば、アメリカ等の極少数の例外的な国がかかわるケースを除いては現在においても)それは国際法上の問題にも国際政治における道義的責任の問題にもなり得ない。
畢竟、職業選択の自由は--それが自己実現の最も重要な手段の一つである以上--人間の現存在性に深く根ざしている権利でしょう。社会や国家--ましていわんや、リベラル派のマスメディアや正体不明の「国際社会」なるもの--が単なる自己の価値観や美意識に基づいて<売春婦>になるという個人の選択を制約することは不当ということです。蓋し、この点が<売春婦>と<奴隷>を決定的に分かつ社会思想的の分水嶺である。
実際、現在においてもドイツやオランダやフランスを始め世界の多くの国では売春は合法。否、寧ろ、合法化の趨勢が顕著と言える。而して、我が国においても「売春防止法」(1956年公布-1958年施行)が制限しているのは原則「管理売春」であり、本人の自発的意志に基づいて行われる「単純売春」は合法なのです。
ならば、「従軍慰安婦」を(日本軍による強制や日本軍の組織的関与がなかった「慰安婦」に読み換えたとしても、)人権が抑圧蹂躙された被害者と看做す認識、朝日新聞や毎日新聞の如き認識は--「女性」に寄り添うフェミニスト的でヒューマンな物言いを装いつつも--、実は、<女性>の現存在を見下す、よって、男女双方の人間性を否定する文化帝国主義的の傲岸不遜にすぎない。畢竟、人口に膾炙するように、売春婦(a prostitute)が「世界最古の職業:the oldest profession in the world」と呼ばれてきた経緯を直視・反芻するとき、私はそう考えます。
いずれにせよ、橋下氏の発言を「女性を性欲の対象/性欲処理の道具」と看做す男性中心主義の、世界の現在の倫理道徳の水準とは相容れない言説と看做す批判が(就中、上記(Ⅰ)そして(Ⅲ)を巡って)内外に散見される。笑止千万。
しかし、<性欲>が人間の現存在性と不可分のものであり(換言すれば、それは人間の現存在性という1ヤードの紐の中の僅か1インチにすぎないとしても、その1インチが切り離されれば紐が紐としては最早ありえない存在であると解する立場からは)、よって、逆に言えば、<性欲>の社会的かつ合理的な制御が--戦地の軍隊においても平時の犯罪予防においても--不可避であるとするならば、その<性欲>に起因する問題解決においては、女性を(実は、男女をともに)<道具>や<制御対象>と見る視座を軍や行政の責任者が持つこともまた不可欠であり、そのことはなんら批判される筋合いはないのではないでしょうか。
別例で敷衍すれば、<教育>は究極的には教える者と教えられる者の全人格的の相互交流や相互的の触発であるという認識が正しいとしても、社会的かつ合理的に教育の諸問題に行政や学校現場がタックルしようというアスペクトにおいては、児童・生徒・学生を、他方、教師を<道具>や<制御対象>と看做す冷徹かつ鳥瞰的の視座が不可欠。そして、<戦場の公娼>もこれとパラレルということです。
蓋し、新カント派が喝破した如く、認識が対象を決定する(例えば、同じ一つの社会現象も法学的に見ればそれは法現象であり、経済学的に見れば経済現象である)とするならば、<教育>の社会的マネージメントと同様に沖縄の米軍による性犯罪をマネージするというアスペクトと局面においては、女性や米軍兵士を<道具>や<制御対象>と見ることは、経験的に不可避であるのみならず哲学の認識論からは必然とさえ言える。と、そう私は考えます。
尚、所謂「従軍慰安婦」なるものを巡る私の基本的理解、および、「橋下発言」の具体的な内容については下記拙稿を参照いただければ嬉しいです。
【関連記事】
・安倍総理の歴史認識を批判する海外報道紹介(1)~(12)+後記(上)(下)
(「後記(下)」に所謂「従軍慰安婦」なるものを巡る現下の論点をまとめています)
http://ameblo.jp/kabu2kaiba/entry-11528780014.html
・安倍総理の逆襲-「従軍慰安婦」という空中楼閣に依拠した
New York Timesの自民党新総裁紹介記事(上)~(下)
http://ameblo.jp/kabu2kaiba/entry-11397816233.html
・「従軍慰安婦」問題-完封マニュアル(上)~(下)
http://ameblo.jp/kabu2kaiba/entry-11137268693.html
・戦争責任論の妄想:高木健一『今なぜ戦後補償か』を批判の軸にして(上)~(下)
http://blog.goo.ne.jp/kabu2kaiba/e/df613c9e50e4d96c875145fbcc4eaf8a
【資料】
・「慰安婦は必要だった」--慰安婦問題を巡る橋下氏の発言は妥当である--
http://ameblo.jp/kabu2kaiba/entry-11530148507.html
・資料★「従軍慰安婦」を巡る橋下大阪市長の「私の認識と見解」(1)~(6)
http://ameblo.jp/kabu2kaiba/archive-201306.html
・石原知事-橋下市長が「河野談話」を一刀両断
http://blog.goo.ne.jp/kabu2kaiba/e/00e9b430bbdefea7909292451e0890b4
木花咲耶姫
<続く>