「きみはいい子」 呉美保監督 △
坪田譲治文学賞受賞作の中脇初枝原作の短編小説を映画化しました。
優柔不断な新人教師、戦争のキズを心に持つ一人暮らしの高齢女性、我が子に虐待をしてしまう母親などの姿を断片的に描きました。
教師の(高良健吾)はクラスにそれぞれの事情で手のかかる子どもや親がいてちょっと疲れ気味、恋人は仕事に忙しくてかまってくれず、やる気もなく過ごしています。マンションに住む母子は母親(尾野真千子)が虐待されて育った過去があり自分も娘に手を上げてしまいます。高齢女性がスーパーで万引きをし、咎めた店員(富田靖子)も実は自閉症の息子を一人で育てていました。あれやこれやの問題を抱える登場人物たちですが、新人教師が自分の幼い甥に「大丈夫だよ」と抱きしめてもらうことで心の安定を得るのでした。そして、混乱しているクラスの子供達に「誰かに抱きしめてもらうこと」という宿題を出します。また、虐待をしてしまう母親も同じ立場のママ友(池脇千鶴)から抱きしめてもらい心に落ち着きを取り戻すのでした。店員と高齢女性も息子を通して心を通わせ、めでたしめでたし。
現代社会が抱える社会問題をいくつも取り上げ一応はそれぞれがつながっていそうなのですが、教師と虐待する母親とのつながり、小学校の特別支援クラスの担当者(高橋和也)と池脇(夫という推測はできますが)夫婦であるという場面をはっきり示してくれるとすべてのエピソードが有機的につながったのではないかと思います。芸達者な出演者がいい演技をしていただけにあと一歩でずっと良くなったのではないかと思うとちょっと惜しい作品です。いずれにせよ今は女性ばかりが大変なようでした。
タバコは、高良が2回タバコを吸おうとしますが、2回とも火を点けず。子どもをネグレクトしている内縁の夫がアパートの外で喫煙しました。どうしようもないような男役なのでイメージとしてはかなりマイナスでした。また、尾野と池脇が同じように虐待を受けていた証として「火のついたタバコを押し付けられたやけどの痕」で、これもかなりのマイナスイメージです。呉監督は前作「そこのみにて光輝く」がモクモク作品でしたが、今作ではほとんど煙害がなくその点では社会の変化がきちんと捉えることができていて大変素晴らしいと思いました。これからも俳優やスタッフを本当に大切にする監督でいてほしいものです。