白井松器械(株)~ 20年以上の粉飾、与信判断を迷わせ導いた「定性情報」 ~
先月、民事再生法の適用を申請した白井松器械(非上場)を取り上げた記事。2000年頃から粉飾に手を染めていたそうです。
記事では、税務用と対外用の決算書を比較しています。どちらも実態とは異なるものですが、対外用の方は、税務用を調整して資産・負債を大幅に減額しているそうです。
「TSR関西支社情報部は、2つの決算書を入手した。税務申告用の決算書と、そこから売掛金や借入金などを粉飾した「対外用の決算書」だ。
ただ、民事再生申立書には、税務申告用の決算書ですら、「数値は実態と乖離しており、とりわけ売掛金及び買掛金の実態価額は、貸借対照表の金額よりも相当に低くなる見込みであって、大幅な債務超過に陥っている可能性が高い」と記載されている。
税務申告用の決算書と対外用の決算書を比べると、勘定科目を一つひとつ調整するような細かな調整はしていないようだ。
差の大きい科目(2022年9月期)は、売掛金が税務申告79億9,500万円に対して対外用12億4,200万円で、差が67億5,300万円。買掛金が税務申告52億4,400万円に対して対外用8億5,400万円で、差が43億9,000万円。さらに、短期借入金が税務申告30億3,000万円に対して対外用7億2,000万円で、差が23億1,000万円だ。
税務申告用の決算書は、黒字に取り繕うために売上高を水増ししており、これに対応させ売掛金と買掛金がかさ上げされている。損益計算書上も取り繕われている点には留意が必要だが、これに記載されている売上高25億円と売上債権80億6,000万円(受取手形6,500万円+売掛金79億9,500万円)から、売上債権回転日数(※1)を計算すると1,177日(業界標準92.90日)と、回収に3年以上もかかる異常値が出る。
これを隠すためか、対外用の決算書では水増しした売掛金を大幅に減少させている。すると、売掛債権回転日数は198.5日となり、業界標準より長いものの、大口顧客の回収サイトが長期化していることなどを理由とすれば、それだけをもって「粉飾」とは言いにくい数値に収めている。
売掛金を調整すると買掛金も粉飾する必要がある。さらに借入依存を隠すためには、借入金の調整も必要だ。」
「債権者説明会で会社側は「金融機関へ提出した資料は税務署に申告した資料から債権債務を差し引いており、勘定の内訳書がなければ粉飾決算に気付くことは難しいと思う」と説明した。」
記事でいっているように、おおざっぱな粉飾だったようです。税務申告用の決算書は明らかに異常な数字になっていて、税務当局は粉飾を疑っていたかもしれませんが、粉飾を調べてその結果を公表するのは税務署の仕事ではないので、何もできないのでしょう。
こういう例をみると、会社の決算書を登記所で公開する(一般に公開することが不都合であれば、会社が認めた債権者だけに公開するのでもよい)、税務申告には公開された決算書を添付する、というだけでも、中小企業の粉飾決算は、ある程度防げるように思われます。金融機関ごとに、異なる決算書を作成し渡していたという例もありましたが、そういうのも防止できます。