準大手ゼネコンの三井住友建設(東証プライム)が、現在施工中の国内大型建築工事で131億円の工事損失を計上(2025 年3月期第2四半期で計上)することを取り上げた記事。
会社の発表では、どの工事かは明らかにされなかったようですが、いろいろな報道で、バレているようです。また、工事の赤字額は累計で請負金の金額を超える規模になっています。
「損失を計上した施工中の工事とは、タワーマンション「麻布台ヒルズレジデンスB」のことだ。2023年11月に開業した大規模複合施設「麻布台ヒルズ」(東京・港区)に隣接し、来年8月に完成予定。地下5階・地上64階建て、約260メートルという日本一の高さを誇る超高層マンションとなる。」
「これまでにも大幅な工程遅延が生じており、度重なる損失を計上していた。2021年度に219億円、2022年度に315億円、2023年度に92億円。今回を含めた累計損失額は757億円に上る。」
「関係者は一様に驚いている。「(工事の請負金額は600億円以上との見立てもあるため)売上高に匹敵するほどの金額が損失計上されたことになる」(中堅ゼネコンのベテラン社員)からだ。」
受注の経緯が興味深い。
「麻布台ヒルズのマンションは、大深度地下工事を伴う超高層建築物件で難易度が高い。そのため、「そもそもは麻布台ヒルズプロジェクトの主要施工業者であり、建築の名門として知られる清水建設の受注が自然な流れだった」(準大手ゼネコンの幹部)と言われる。
ただ、「高速道路や地下鉄がすぐ側で走っている、むちゃくちゃ難度の高い工事。清水は『ここはいいです(タワーマンションはいらないです)』と受注を見送ったようだ」(同)。
そこに飛びついたのが、三井住友建設だった。「当時は経営環境もいい状況で、経営トップも『いける』と判断したのだろう。『日本一の案件』という称号も欲しかったのかもしれない。会長・社長案件として、検討不足のまま進められた」(三井住友建設のIR担当者)。」
コスト増の原因は...
「2021年から2022年にかけて、地下工事が想定とは違うことがわかり工法の大幅変更を余儀なくされ、15カ月の工期遅延が生じた。2023年には、地上の躯体工事において施工図の誤りによる部材の不具合が発覚し、一部の設置済み部材の取り替えが必要になった。」
さらに、当初の竣工予定時期から大幅に遅れているため、作業員などをかき集めて工事を進めており、労務単価が想定の倍以上とのことです。
工事損失の計上はこれでおわりなのか...
「業界関係者からは「今後、発注者に対する巨額の違約金が発生するのではないか」(ゼネコンの内情に詳しい市場関係者)、「建設費高が続く状況下、1年先のコストまで十分に織り込んでいるのか」(準大手ゼネコンの幹部)といった声があがる。」
このあたりは会計上の見積りに反映されているのでしょうか。
そもそも、受注時の見積りから甘かったのかもしれません。
会社は、コストは概ね確定しており、違約金も織り込み済みといっているそうです。
「三井住友建設のIR担当者は、「今般の見直しによって、完成までのコストはおおむね確定している。違約金については全部織り込んでおり、協力会社とも契約できているので作業員は確保できている」と強調する。」
もし協力業者にもしわ寄せが来ているとすれば、気の毒すぎる。
会社の再発防止策など。
「多額の工事損失計上を受けて、同社は社長など取締役と執行役員の報酬を12月から4カ月減額する。受注前段階における審査体制の強化や採算性にこだわった取り組みなど再発防止策を徹底する。」
建設会社が最も真剣に行うのは、受注前の工事費見積りでしょう。会長・社長案件といった理由でその精度が低ければ、会計上の見積りにも影響するのでしょう。
記事によれば、同社は、旧村上ファンド系に狙われたりしており、この工事以外にも、いろいろたいへんなようです。
工事損失の計上及び業績予想の修正に関するお知らせ(2024年11月12日)(三井住友建設)(PDFファイル)
(上記三井住友建設プレスリリースより)
清水建設の25年3月期、純利益3.5倍 増配や自社株買いも(日経)
このタワマン工事を断った清水建設は...
「清水建は今期純利益を前期比3.5倍の600億円と見込む。従来予想から200億円上方修正した。国内の建築工事が想定以上に進んだほか、受注時の採算確保の取り組みや工事費の価格転嫁が寄与した。単体の建築完成工事損益率は7.1%のプラスと、前期の2.9%のマイナスから大きく改善した。政策保有株の売却益も計上する。
清水建の山口充穂執行役員は12日の決算会見で「全社を挙げて受注時採算の改善に取り組んでおり、今期に完成する中小型工事で利益が出ている」と説明。「資材価格の高騰に伴う価格転嫁について顧客の理解も進んでいる」とも語った。」
こちらは米国の巨大プロジェクトで問題が生じているケース。
千代田化工、米LNGの契約見直し JV相手破綻問題で(日経)(記事冒頭のみ)
「千代田化工建設は米国で受注した液化天然ガス(LNG)案件の一部分の契約を見直したと発表した。共同でプロジェクトを遂行していた米企業が経営破綻した影響で、一時一部の工事がストップ。完工にかかる追加費用を再度見積もり、中長期計画を立て直していた。顧客側と案件の一部について費用負担の合意に達した。」
会社は、2024年3月期で、完工までに必要十分と見込む費用を引当金として計上している、引当金の見直しなどは決算公表のタイミングで適宜反映するといっているそうです。
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