法務省は、会社法関係の法務省令案9本を、11月29日付で公表しました。12月28日まで意見募集を行う予定です。
9本の省令案は以下のとおりです。
1.会社法施行規則
2.株主総会等に関する法務省令
3.株式会社の業務の適正を確保する体制に関する法務省令
4.株式会社の監査に関する法務省令
5.株式会社の計算に関する法務省令
6.株式会社の特別清算に関する法務省令
7.持分会社に関する法務省令
8.組織再編行為に関する法務省令
9.電子公告に関する法務省令
1が会社法の法務省令委任事項の全部を網羅するものであり,他の省令に規律が設けられる事項については,この中でその旨が明らかにされるとのことです。
3の内部統制に関する法務省令が実質的に新しく設けられたことになります(といっても、どの程度書き込んであるかは未確認ですが)。
会計士にとっては5の計算規定が気になるところですが、分配可能額の計算にあたって、子会社株や関連会社株の持分法損失を控除するという点が、かなり重要かもしれません(利益は加算しない?)。
例えば、今話題の楽天が過去に買収で取得した子会社は、連結上のれんの金額を一挙に償却しているため、この償却額を個別財務諸表の持分法損失とすると分配可能額は一挙に大きく減ってしまいます。もちろん買収後生じた留保利益でカバーできればよいのですが、分配可能額にはマイナスの影響になることは間違いありません(ただし当分配当しないのなら関係ありません)。
4の監査に関する省令では、監査報告書の期限の決め方が変更になっています。また、会計監査人が監査報告の通知(なぜか報告書の提出は「通知」という言い方になっています)を監査役や監査委員会に対して行う際に、会計監査人の品質管理体制に関する事項も通知することになるようです。
さらに、監査に関する法務省令案の15条の3項では、過年度事項の報告についてもふれています。まだよく内容はつかめていませんが、過年度の決算に修正があった場合などは、この規定により報告するのでしょう。これからは、決算の遡及修正が簡単に行われるようになるということかもしれません。当然、適正でなかった過年度決算を適正だと報告した監査人は責任を問われることになります。監査人交代の場合など、前任監査人を攻撃する際にこの手が使われることでしょう。
監査に関する省令案で、おかしいと感じたのは、19条第3項で「前項の規定にかかわらず、会計監査人が第一項の規定により通知をすべき日までに同項の規定による通知をしない場合には、当該通知をすべき日に、計算関係書類については、会計監査人の監査を受けたものとみなす。」とされていることです。これでは、会社は監査人から監査報告書を受け取らなくても、会計監査人による監査を受けたと主張できることになってしまいます。期限に遅れた監査人の責任は別途追及すればよいのであって、監査を受けていなくても「受けたものとみなす」というのは、非常におかしな話です。会社側が監査人に必要な資料を見せずに監査が遅れた場合でも、期限が来れば「監査を受けたものとみなす」のでしょうか。(ここのところは省令案の読み方が間違っているのかもしれませんが・・・)
また、会計監査人の独立性を監査役と同列に扱っている点も、監査人の独立性に対する無理解を感じます(5条)。
補足:上記内容に一部不正確な点がありましたので、こちらの記事も参照して下さい。
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