東芝の有報提出再延期を金融庁があっさり承認したことを取り上げた記事。
まず法令の説明。
「提出期限延長の特例とはどんなものか。そう簡単に提出期限を動かせるのなら、法律で定めた提出期限など何の意味も持たなくなってしまう。上場廃止基準も空文になってしまいかねない。
有報の提出期限を定めた金融商品取引法24条にはこうある。
「内国会社にあっては当該事業年度経過後三月以内(やむを得ない理由により当該期間内に提出できないと認められる場合には、内閣府令で定めるところにより、あらかじめ内閣総理大臣の承認を受けた期間内)」
つまり、3ヵ月以内だが、「やむを得ない理由」がある場合には承認を受ければ延期できるという特例が書かれているのだ。」
これは外部要因によって延長せざるを得ない場合を想定しているのに、内部の不正決算が原因の東芝のケースを、認めているのはなぜか。
金融庁が東芝寄りの官邸の空気を読んでいるという見方もあるそうですが、記事では、「金融庁自身が東芝の不正会計を見逃していたのではないか」という推測について主に書いています。
「東芝の監査は新日本監査法人が行ってきたが、新日本は日本航空やIHI、オリンパスなどの粉飾決算を見逃してきた「前科」がある。このため、金融庁などから繰り返し検査や指導を受けていた。
日本公認会計士協会や、金融庁の公認会計士・監査審査会が新日本の監査品質を検査する過程で、東芝の決算を抽出してチェックしていたというのだ。つまり、新日本が出してきた監査証明の「適正」意見に、金融庁や会計士協会もお墨付きを与えていたというのである。」
これは的外れのように思います。協会のレビューや金融庁の公認会計士・監査審査会による通常の検査は、監査事務所の品質管理を見ることが主な目的で、その一環として、個々の会社の監査についてみているだけです。東芝がその際に選ばれていたとしても「東芝の決算を抽出」したわけではなく、たくさんある監査契約の中でサンプルとして「東芝の監査を抽出」しただけでしょう。また、レビューや検査のやり方は、数人のレビュー、検査担当者による、監査チームからのヒアリングと監査調書の閲覧が中心でしょうから、監査報告書にお墨付きを与えるところまでのものではありません。むしろ、監査人が無能で、不正の兆候にまったく気付いていない方が、きれいな監査調書が出来上がり、レビュー、検査での指摘も受けにくいかもしれません。もちろん、監査に不備を発見すれば、監査事務所に対して是正措置(場合によっては事後的に監査手続を追加するなど)を求め、その是正措置の結果、決算の誤りが発見されるというルートもありえますが、実際にはそういう例はほとんどないと思われます。
一方、もう一つ挙がっている理由の方は、かなり問題だと思われます。
「それだけではない。東芝の決算を巡って、会社側と新日本の見解が対立していたのを、金融庁が間に入ったという証言もある。東芝の決算には金融庁自身が少なからずコミットしていたというのだ。実際、新日本の幹部の口からも「金融庁裁定」という言葉が出て来る。
それが、会計不正が表面化したことで、金融庁のメンツが丸つぶれになったというのだ。金融庁が東芝や新日本に強く出られない理由はそこにあるのではないか、と関係者の間ではささやかれ始めている。」
前例のない取引の会計処理や、会計基準の解釈が微妙な案件については、会社や監査事務所が金融庁に相談に行くということがあるかもしれません。ただ、その場合も、会社や監査事務所から提供された情報に基づいて、協議しているだけですから、その後、別の事情が明らかになれば、結論を変えたとしても、メンツ丸つぶれとはならないでしょう。もちろん、相談の際に提示された情報だけで判断しても、あまりにも会社よりの「裁定」だったとしたら、当然批判されるべきです。
今後については・・・
「問題は、そんな中で、新日本が監査証明を出せるのかどうか。適正意見を出した後で、さらなる内部告発で不正が発覚でもすれば、新日本にとっては恥の上塗りでは済まされない。
会計不正を見抜けなかった新日本が、東芝とグルだったのではなく、騙されていたとするならば、「意見差し控え」で監査報告書を出すことも可能なはずだ。それで、まがりなりにも有報を提出できれば、提出遅延を理由に上場廃止になることはなくなる。
かつては、「意見差し控え」の監査意見を受けた企業は上場廃止になる規定があったが、東証はオリンパス事件後にその規定を変えている。不適正や意見差し控えを受けた場合でも、「直ちに上場を廃止しなければ市場の秩序を維持することが困難であることが明らかであると当取引所が認める」ことがなければ、上場廃止にはならない。今度は、東証の裁量で東芝を救うことができるわけだ。」
「意見差し控え」(現在は「意見不表明」)の実際例は、知りませんが、最近でも、オービックなど「限定付意見」で乗りきった例はあります。東芝の場合は、不正が全社的であり、「限定」で済ませられるかどうかは微妙ですが、(期限内に)監査できない領域が、ある程度限られている場合には、「限定付」にできるかもしれません。もちろん、監査人は無限定適正を目指すべきですが、期限を優先して、監査未了のうちに有報を提出しなければならないとしたら、「限定付」や「不表明」もありうるかもしれません。
当サイトの関連記事(オービックの限定付意見について)
その2(オービックの決算訂正について)
オービックはその後限定を外した年度の決算について、訂正報告書を提出し、かなり大きな訂正を行っています。ちなみにオービックの監査人も新日本です。
【東芝・決算発表再延期】前代未聞、連鎖止まらず 迷走続く名門企業「体質変わっていない」(共同)
「「延期は遺憾だが、認めないわけにはいかない」。有価証券報告書の提出を義務付けている金融庁の幹部は東芝の姿勢を厳しく批判する一方で、報告書の提出を粘り強く求めていく姿勢をにじませた。」
「SBI証券の藤本誠之シニアマーケットアナリストは「少なくとも先週末の時点で延期せざるを得ないことは分かっていたはずだ」と情報開示のタイミングを問題視する。「やはり東芝の企業体質は変わっていないと受け取られても仕方ない」と指摘した。」
東芝、再生の絶好機逃した室町社長
3カ月の猶予期間を生かせず(日経ビジネス)
「現在の東芝の開示姿勢は、他の点を見ても積極的とは言えない。まず、今回の問題案件については、その数からして「10件程度」と曖昧にしている。その内容で明らかにしているのは、米子会社の水力発電案件が含まれるということのみだ。子会社トップの関与の有無についても口を閉ざした。
最大の懸案事項である米ウエスチングハウスの財務状態については「より詳細な開示の必要性は感じている」(渡邊幸一財務部長)としたものの、現時点では実施されていない。」
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