米下院で「外国企業説明責任法」が全会一致で可決された背景などを取り上げた記事。
「法案は一見すると、トランプ政権の対中強硬策の一環に思える。しかし、それだけではない根深い長年の問題がある。それゆえ、民主党が過半数を占める下院でも全会一致で可決されたのだ。問題を一言でいうと、中国企業が10年以上にわたって、米国の証券市場で滅茶苦茶をやってきたことである。」
中国企業の米国市場での上場では、投資銀行、法律事務所、会計事務所などが大きく稼いだそうです。
「話は2005年前後にさかのぼる。この頃から中国企業は、体力の弱った米国の上場企業をリバース・テークオーバー(逆買収)して、米国での上場ステータスを手に入れる「裏口上場(back door listing)」を盛んにやった。中国企業であれば、上海や深圳の証券取引所に上場するのが普通だが、中国の上場審査が厳しく、かつ手続きも遅く、最長で2年半を要していた。これに対し、裏口上場なら手続きは半年程度で済み、米国での上場審査もバイパスできる。こうして2012年頃までに300を超える中国企業が米国の上場企業になった。
米国のほうでも中国企業を歓迎した。買収を仲介する投資銀行には巨額のアドバイザー手数料が入るし、米国市場で株式を発行した際には引受手数料も入る。やればやるほど儲かるので、資金調達をしたい中国企業や金持ちになりたい中国企業の経営者にアプローチし、「裏口上場という手があるよ」と囁いた。案件に関わる法律事務所や会計事務所も儲かった。米国の投資家も、急成長する中国の企業に投資したい一心で、こぞって株を買った。」
証券取引所も...
「米国の証券取引所も中国企業の上場に積極的に手を貸した。米国では、上場企業数が1996年のピーク時の8090社から半分程度に減ったので、取引所は手数料収入の減少に頭を悩ませていた。上場企業減少の原因は、上場しなくてもベンチャーキャピタルから容易に資金を調達できるようになったことや、エンロン事件を契機に制定されたサーベンス・オクスリー法が上場企業に厳格な財務内容の開示や内部統制を求めたため、企業が嫌がったことが挙げられる。」
ところが、そうして米国上場した中国企業に不正会計が頻発します。具体例はJBpress記事をご覧ください。
監査事務所は米中の板挟みになっています。
「先に述べたロングトップ・フィナンシャル・テクノロジーズのケースでは、SECは同社の監査を行ったデロイト・トウシュ・トーマツの上海法人「デロイト・トウシュ・トーマツCPA Ltd.」(略称・D&T上海)に、「監査関係の書類を提出しないのは、サーベンス・オクスリー法と証券取引法違反である」として、米連邦裁判所に訴えた。
しかし、D&T上海は、「文書を提出すると中国の国家機密法違反になるので、両国政府で話し合ってほしい」と裁判で主張。裁判は2年近く続き、最終的にSECは、D&T上海から満足のいく書類が提出されたとして、2014年に訴えを取り下げた。
またSECは、別の複数の中国企業のケースに関し、D&T上海を含む世界4大会計事務所の各中国法人を連邦裁判所で訴え、2015年に裁判所の支持を得て、それぞれに50万ドルの罰金を科し、監査関係書類を提出させた。
このように連邦裁判所に訴えれば、監査書類は何とか出てくることは出てくるが、毎回監査法人に中国の法律を盾に抵抗され、しかも2年くらいの時間がかかって手遅れになることもある。こんな状態ではかなわんということで、今般の法案提出がなされたわけだ。」
今後の見通しとしては「米国での上場を取りやめる中国企業が少なからず出てくる可能性がある」とのことです。そうした米国から撤退する中国企業は中国市場で上場する(すでに香港に重複上場した会社が10社ある)ことになりそうですが、「自国の証券市場を強化していきたい中国政府はそうした動きを歓迎している」のだそうです。
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