地域金融機関で貸倒引当金の引当率が低下しているという記事。日銀がそのようなリポートを出したそうです。
「日銀は19日、「地域金融機関における最近の貸倒引当金の算定状況」と題したリポートを公表した。景気回復で借り手のデフォルト(債務不履行)が減少傾向にあり、将来の損失発生に備えた引当率も低下している。リポートでは「リーマン・ショック前数年間の平均的な信用コストが発生したと仮定すると、コア業務純益でカバーできない先が地域銀行、信用金庫ともに3割程度に達する」と指摘。さらなる引当方法見直しなどの余地があると示唆した。」
「金融機関は、金融庁が金融検査マニュアルに例示した手法を基に貸倒引当金を算出しているが、将来に対する備えとしてマニュアルよりも算定期間を長くしたり、対象企業の与信額を引き下げたりする工夫をしている。14年度に引当金の算出方法を工夫した金融機関は地銀で9割弱、信金で7割あまりに達している。
信用リスクを厳しく見積もる動きは広がるが、将来の損失に備えた引当金の計上額は減少基調だ。2014年度の貸出残高に占める貸倒引当金の比率(引当率)は地域銀行で0.8%と過去10年間の平均である1.3%から0.5ポイント低下、信金も1.4%と過去10年平均(1.8%)に比べ0.4ポイント低下した。貸出先の業績や財務内容の改善に加え、デフォルト率の低下により歴史的な低水準になっている。」
貸借対照表は、現時点における企業の財政状態を表すものです。したがって、貸倒引当金も、BSに今計上されている債権の、今現在の貸倒れリスクの状況を反映していればよいのであって、長期的に見て、将来起こるかもしれない(起こらないかもしれない)状況まで織り込む必要はないのでは。
もちろん、カネに色はついていないので、現時点の債権といっても、契約更新を繰り返せば、実質的な回収が長期となる部分もあるかもしれません。それに対応して長期間の将来事象を引当金に反映させるという考え方もあるのかもしれませんが、やりすぎると過度に保守的となるように思われます。例えば、50~100年という期間をとれば、だいたいの中小企業は消滅しているでしょうが、だからといって現時点で100%引当する必要はないでしょう。
銀行の引当金に関する実務や監査については、よく知らないのですが、当局の視点は、会計の一般的な考え方とは少しずれているように感じます。
ちなみに、会計士協会の指針をみると、「貸出金等の平均残存期間」の予想損失を見込むことが原則のようです。
「貸倒実績率又は倒産確率による貸倒引当金の計上方法とは、過去の貸倒実績又は倒産実績に基づき、今後の一定期間における予想損失額を見込む方法である。一定期間に関しては、貸倒引当金が各金融機関の貸出金等のポートフォリオを勘案した上で今後発生する損失を見込んで計上するものであることから、貸出金等の平均残存期間が妥当と考えられる。ただし、貸出金等の信用リスクの程度を勘案して期間を見込む方法も妥当なものと考えられる。」(「銀行等監査特別委員会報告第4号『銀行等金融機関の資産の自己査定並びに貸倒償却及び貸倒引当金の監査に関する実務指針』の改正について」の公表について)
日銀のリポートはこちら。
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地域金融機関における最近の貸倒引当金の算定状況(日本銀行)
「ここ数年の地域金融機関の貸倒引当金比率は、長期時系列的にみてかなり低い水準にある。これは、基本的には景気回復等に伴って借り手企業の業績・財務が改善し、金融機関の資産内容が改善していること、近年の貸倒実績率が低下していることによるものである。
もっとも、引当は将来に備えて行うものであり、景気循環の影響を均してみていくとともに、過去の実績に反映されていない先行きの変化を適切に織り込んでいくことが望ましい。」
現行の実務や協会指針に不備がある、実態を表示していないというのなら、それをもっと具体的に指摘すべきでしょう。算定期間がおかしいとか、最近の実積率をそのまま使っているのはおかしいとか、検討すべき点があるのかもしれません。しかし、ただ、引当率が低いと将来あぶないから、何とか「工夫」(プレスリリースでも使っている言葉です)して引き上げろというのは、無責任です。金融危機の再来に備えるのであれば、引当金をいじくるのではなくて、自己資本規制などの見直しを考えるべきでしょう。
(ところで、金融機関が、日銀の示唆に従い、いろいろと工夫して引当率を上げた場合、それは、会計方針の変更なのでしょうか、それとも見積りの変更なのでしょうか。実態が変わっていないのに、回収不能額の見積もり方法を変更して引当金を増額したと考えれば、前者でしょうし、実態によりよく合うように見積りするときの条件を変更したと考えれば、後者なのかもしれません。繰延税金資産の回収可能性に関する指針の見直しと関連して、少し気になる点です。)
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