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監査法人のローテーション制度に関する調査報告(第一次報告) の公表について(金融庁)

監査法人のローテーション制度に関する調査報告(第一次報告) の公表について

金融庁は、「監査法人のローテーション制度に関する調査報告(第一次報告)」を2017年7月20日に公表しました。

2016年3月に公表された「会計監査の在り方に関する懇談会」提言において、監査法人の強制ローテーション制度の導入について、金融庁による調査・分析がなされるべきであるとされたことを受けて公表したものです。

以下のような内容となっています。

1.本調査の経緯・目的

2.我が国におけるパートナーローテーション制度及び監査法人の強制ローテーション制度導入をめぐる議論の経緯

3.金融審議会公認会計士制度部会(2006 年)以降の進展・状況変化

4.欧州における監査法人の強制ローテーション制度

5.まとめ

このうち3では、新日本監査法人による東芝の監査を例に挙げて、パートナーローテーションは効果を発揮できなかったといっています。「新日本による東芝の監査は失敗だった」、「新日本による東芝の監査ではパートナーローテーションはルールどおり行われていた」、「したがってパートナーローテーションは役にたたない」という(すごく乱暴な)三段論法のように感じられます。東芝以外の事例にはほとんどふれていないほか、パートナーローテーションに効果なしというほかの根拠も示されていません。

このほか、青山学院大学大学院 町田祥弘教授の研究に基づいて、上場会社の監査契約の固定化(長期化)が著しいことが示されています。

4では、欧州各国の監査人強制ローテーション制度に関する説明と、関係当局等への訪問によるヒアリング等の調査を行って把握した情報がまとめられています。

「まとめ」では以下の3点にふれています。

1.パートナーローテーション制度の有効性の検証

「(パートナーローテーションの制度強化実施後の)この間、我が国では依然として重大な不正会計事案が発生している。特に、東芝事案では、同一監査法人(前身の監査法人を含む。)が約 47 年間、個人事務所の時期を含めると約 63 年間にわたり同社の会計監査を実施しており、同社のガバナンスへの過信や、監査手続の前例踏襲、過去の監査従事者の判断への過信などから職業的懐疑心を鈍らせることとなり、結果として、監査チームは不正を見抜くために有効な会計監査を実施することができなかった。

東芝事案においては、制度強化後のパートナーローテーションが実施されていたが、事案の発生原因・要因を踏まえると、パートナーローテーションは制度導入時に期待された「新たな視点での会計監査」という観点からは、結果として十分にその効果を発揮するものとしては機能しなかったと考えられる。」

(東芝のケースしか検討せずに結論を出しているようです。)

2.企業と監査法人の監査契約の固定化

「また、TOPIX 上位 100 社のうち、この 10 年間に監査法人が交代したのは5社に留まるなど、この 10 年の間に同一監査法人との監査契約はさらに固定化しており、監査法人の自発的な交代は進んでいない状況である。これらの点は、あまりにも長期間にわたり同一監査法人の会計監査を継続している企業の場合、株主や他のステークホルダーの理解が得られるかということも含め、独立性の確保の観点から検討すべき論点であると考えられる。」

3.欧州における監査法人の強制ローテーション制度の導入

「...欧州各国の関係当局等へのヒアリング等の調査を行ったところ、監査法人の交代が会計監査の品質に与える影響等については、欧州の監査法人の強制ローテーション制度は導入後間がなく、その見極めにはなお時間が必要であるとのことであった。...これまでのところ、混乱なく監査法人の強制ローテーション制度が実施されつつあるとの見方が示された。 」

「今回の調査において、監査法人の強制ローテーション制度の導入が監査市場の寡占解消に影響を及ぼすかについて、欧州各国の当局からは、寡占解消につながるか分からないとする見方と、寡占解消を促す影響があるとの見方の両方があった。 」

「監査法人の強制ローテーション制度による監査報酬への影響について、欧州各国の当局からは、監査報酬の多寡のみをもって交代後の監査法人を選ぶことにはならず、監査報酬への影響は少ないとの見方があった。」

全体のまとめは...

「今後は、欧州における監査法人の強制ローテーション制度導入の効果等を注視するとともに、我が国において、監査法人、企業、機関投資家、関係団体、有識者など会計監査関係者からのヒアリング等の調査を行い、監査法人の強制ローテーション制度の導入に関する論点についての分析・検討を進めていくことが考えられる。 」

ということで、調査はまだ続けられるようです。

今回の報告書では、長期的に交代がなかった東芝の監査がどうだったかにふれていますが、次回の報告書では、あらた監査法人に交代したあとの東芝がどうなったのかについて検証が行われることを期待します。

関連報道。

金融庁、監査法人の交代制導入めぐり国内で聞き取り調査へ(日経)

「金融庁は20日、相次ぐ会計不祥事を契機とした会計監査改革の一環として、監査法人の定期的な交代を提案する「ローテーション制度」の導入について議論するため、国内で聞き取り調査を実施する方針を発表した。国内の監査法人や企業、金融機関、有識者の意見を踏まえ、交代制導入に伴う実務上の課題や利点を整理する。」

会計士交代、不正会計に「効果発揮せず」 金融庁が報告書(日経)

「金融庁は20日、監査法人の交代制(ローテーション)に関する第1次調査報告書をまとめた。会計不祥事を防ぐため、同じ監査法人内で大手企業の監査を担当する会計士を一定期間で交代するよう義務付けた今の制度は「期待した効果を発揮しなかった」と指摘した。」

パートナーローテーションの話です。報告書では東芝のケースしかふれていないのに、なぜこういう一般的な結論になるのか、不思議です。

企業とのなれ合い排除、監査法人の交代制を検討(読売)

「金融庁は20日、企業の決算などをチェックする監査法人を、一定期間で変更させるローテーション制度の導入を検討すると発表した。」
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