会計ニュース・コレクター(小石川経理研究所)

英、企業監査の質に批判 破綻や会計不祥事続発、大手4法人に解体論(日経より)

英、企業監査の質に批判 破綻や会計不祥事続発、大手4法人に解体論(記事冒頭のみ)

英国でビッグ4会計事務所への批判が高まっているという記事。

「企業の決算書類が正しいかどうか調べる監査法人に、英国で厳しい視線が注がれている。英財務報告評議会(FRC)は6月、大手4法人について「監査の質を早急に改善する必要がある」との報告書をまとめた。監査を通った企業の破綻や会計不祥事が続発。監督の強化を求める声が市場や政界から広がり、FRCは踏み込んで警告した。」

まず、英財務報告評議会(FRC)による検査結果のことを取り上げています。KPMGがやり玉にあがっています。

「FRCは6月18日に「監査クオリティーレビュー」を公表した。対象とした監査法人8社のうち、ひときわ強い表現で指弾されたのがKPMGだった。

英主要株価指数「FTSE350」に採用された企業の2017年度決算について、KPMG担当の監査を抽出して調べたところ、「問題なし」と判定されたのは全体の50%にとどまった。16年度の65%から後退し、報告書は「質の悪化は受け入れがたい」と断じた。18年度は同社の監査をより念入りに調べる方針だ。

具体的な問題事例は明らかにしていないが、監査の過程で相手方の経営者に十分な異議を示さず、会計監査の専門家として厳しい姿勢が欠けていた点を挙げた。経営陣の姿勢にも問題があったという。KPMG英法人は非を認めたうえで、17年から新たな幹部の下で「正常化に向けて取り組んでいる」とのコメントを出した。」

当サイトでも何回か取り上げた大手建設会社の破綻がらみでも、ビッグ4は批判を浴びています。

「監査法人への目を厳しくしたのは、建設大手カリリオンの経営破綻(1月)だった。17年7月に業績見通しの下方修正を発表し、経営不安が突如として表面化。そのわずか半年後に会社清算に追い込まれた。

直前の16年12月期決算は破綻の兆候をうかがわせず、分不相応な役員報酬や配当を出していた。外部監査人を19年担当してきたKPMGや、内部監査を支えてきたデロイトはなぜ見抜けなかったのかと強く批判された。カリリオンにはEYとPwCも経営コンサルとして関わっていた。

「英監査市場の『なれ合いクラブ』ぶりをさらけ出した」。カリリオン破綻の経緯を追及してきた英下院の2委員会は、5月公表の報告書でこう結論づけた。そのうえで大手4法人の分割や、監査と他部門の分離の検討を政府に進言した。規制機関のFRCにも「受け身で及び腰」「信頼できない」と一刀両断しており、今回の強い勧告につながったようだ。」

KPMGは、ある会社の監査不備で課徴金も課せられています。

「KPMGは6月、会計不正が発覚した英IT(情報技術)サービス企業の監査に不手際があったとして、FRCから315万ポンド(約4億6千万円)の課徴金納付を命じられてもいる。」

以下、上記3つのポイントに関するコメントと関連記事。

最初の英財務報告評議会(FRC)による検査については、今回特別なレポートが出たというわけではなさそうです。FRCは、定期的に事務所別の検査結果(何件の監査を検査し、不備(ランクわけされている)がどれだけの件数あったか)を公表しており、日経はその最近のもの取り上げているようです。

日本の公認会計士・監査審査会は、監査事務所別の検査結果を公表せず、何か問題が起きると、いきなり処分勧告を出すというのが特徴ですが、英国の例をまねて、検査の透明性を高めるべきでしょう。東芝粉飾事件の場合を見ると、審査会が登場しなくても、東芝監査人への処分は可能なルールになっているのに、それでは存在意義が疑われると思ったのか、あわてて検査を行って、東芝監査に限らず事務所全体の品質管理がダメだという結論を後付けで出していました。

KPMGによる英国での監査の質、受け入れ不可能-財務報告評議会(6月20日)(ブルームバーグ)(日経はこれのパクリ?)

「英財務報告評議会(FRC)は、会計事務所KPMGの英国における監査の質は受け入れられない水準だと指摘した。前例のない査定で、世界4大会計事務所の分割など監査業界の改革を求める声が強まりそうだ。

FRCによれば、KPMGの監査担当者は企業の経営陣に対し十分に問題や異議を提起せず、監査執行にも一貫性を欠いていた。同社におけるここ5年間の質低下は「受け入れ不可能」で、改善に向けたこれまでの首脳陣による取り組みの「評判を悪くする」と論じた。」

FRC criticises “unacceptable” quality of KPMG audits(economia)

大手事務所全体の傾向として、監査先経営者の言い分を安易に受け入れている(a failure to challenge management)、懐疑心の欠如(a lack of scepticism)、銀行監査のお粗末さが指摘されています。

In its annual review of audit quality across the big firms the Financial Reporting Council (FRC) found that the fall in standards was due to a failure to challenge management, a lack of scepticism and poor bank audits.

その中でも特にKPMGがダメだそうです。

KPMG, however, was specifically criticised for an “unacceptable deterioration in quality”.

The review found that the overall decline in quality of KPMG’s audits is “unacceptable and reflects badly on the action taken by the previous leadership, not just on the performance of front line teams.”

FRCのプレスリリース。

Big Four Audit Quality Review results decline(FRC)

プレスリリースの末尾に検査報告書へのリンクがついています。

KPMGの検査結果。20ページ弱の報告書です。

KPMG LLP Public Report 2017/18 (PDFファイル)

2番目のカリリオンについては、会計監査だけでなく、破綻の事前・事後のコンサル業務、管財人業務などで報酬を荒稼ぎしているというのも批判されているようです。

当サイトの関連記事(カリリオン破綻時)

その2(KPMGへの調査が始まったという記事について)

英カリリオン社破綻に関する二つの懸念 (ニュース屋台村)(専門家が日本語で詳しく書いています。)

「英国議会の諮問委員会の委員長であるリーブス氏は、カリリオンの年次決算書は「会社の真実の財務状態に関しての指針として無価値となっている」とまで言っています。特に、2016年度決算発表から数カ月で資金繰り悪化の発表があったという点から、監査人がカリリオンの継続企業の前提(企業会計の前提条件の一つであるGoing concern) についてこれを適切に判定していなかったのでないかとか、主要な工事契約の収益認識についての見積もりや判定を適切に行っていたかなどの点に着目し問題意識を持っているようです。また、監査業界がある意味で寡占状態にあるという問題点と監査法人がコンサルティングなどの業務を行うことによる利益相反の可能性についても問題意識があるようです。

英誌エコノミストは、最近「Expectation Gap」という表題でカリリオン問題に端を発した外部監査についての監査法人の認識と一般社会の期待値との間の食い違いについて論評しています。記事では、世界の4大会計事務所、いわゆるビッグ4(Deloitte、PwC、KPMG、 E&Y)が英国の監査市場で、例えばFTSE250(ロンドン証券取引所の株価指数を構成する中位の250銘柄)のほぼ全ての対象会社の会計監査を担当していることについて、寡占についての問題提起をしています。」

MPs call for Big Four break-up over Carillion(economia)

KPMG chairman admits profession is "oligopoly"(economia)

FRC wants inquiry into breaking-up Big Four(economia)

最後の課徴金については...

KPMG fined £4.5m over Quindell audit(economia)

問題となっているのは、Quindellという会社の2013年の監査です。事務所と監査エンゲージメントパートナーが処分を受け、事務所は3.15百万ポンド(減額後)、パートナーは84千ポンド(減額後)の罰金が課せられています。

The Big Four firm has been fined £4.5m and reprimanded by the Financial Reporting Council (FRC) for its audit of Quindell

Both the firm and its audit engagement partner William Smith admitted to misconduct related to the audit of the insurance claims processor and digital services group’s financial statements for the period ended 31 December 2013.

Smith will receive a reprimand and a fine of £120,000 (discounted after settlements to £84,000). KPMG’s fine was also discounted to £3.15m through settlement. In addition the firm has to pay £146,000 in legal costs.

不備は、特に、法務サービスの収益認識と、ソフトウェア・ライセンスや関連サービス・投資の購入・売却取引の分野で生じたものだそうです。

The misconduct related in particular to two specific areas, namely the revenue recognition for legal services and various transactions relating to the sale and purchase of software licenses, related services and investments.

このパートナーは首にならずに、パートナーとして今後も事務所に残るそうです。

The firm confirmed that Smith will remain in his position.

Sanctions in relation to the audit of Quindell plc(FRC)
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