遺族厚生年金は厚生年金の加入時に被保険者が死亡した場合に支給される年金制度です
1.支給要件
遺族厚生年金は以下のいずれか(どれか)に該当する場合に支給されます
①厚生年金の被保険者が死亡した時
②厚生年金の被保険者中に初診日のある傷病により、初診日から5年以内に死亡した時(退職日ではなく、初診日)
③障害等級1.2級の受給権者が死亡した時
④受給資格期間が25年以上ある老齢厚生年金の受給権者が死亡した時
⑤受給資格期間が25年以上あり、厚生老齢年金の被保険者期間を有する者が死亡した時
※①~③の事を短期要件、④、⑤の事を長期要件と呼び、①、②の支給要件の場合は遺族基礎年金と同じ保険料納付要件を満たす必要があります。③、④、⑤の場合は保険料納付要件はありません。以下、遺族基礎年金と全く同じ
保険料納付要件
上記の①②に該当する場合は次の保険料納付要件を満たさなければ、遺族厚生年金は支給されない
A.保険料納付要件
初診日の前日において、当該初診日の属する月の前々月までに被保険者期間があるものについては、その被保険者期間については、その被保険者期間のうち
保険料納付期間(保険料を納めた期間)と保険料免除期間(保険料を今は払えないときちんと申告した期間)とを合算した期間が当該保険料の3分の2以上あること。つまり、3分の1を超える保険料未納が無い事
B.特例
令和8年4月1日前に死亡した場合は、初診日の前日において初診日の属する月の前々月までの直近1年で未納がないこと。ただし、死亡日において65歳未満の人に限る
C.死亡日が平成3年5月1日前の場合
当時の保険料納期限との関係から、死亡日の属する月の直近の基準月(1月、4月、7月、および10月)の前月までの期間で保険料納付要件を見る
遺族の範囲
遺族厚生年金を受け取る事ができるのは、亡くなった者の配偶者、子、父母、孫、祖父母で、死亡の当時被保険者によって、生計を維持されていたものだけです
妻以外の者には年齢要件がありますが、妻にはありません。ただし、遺族厚生年金を取得した当時、「30歳未満」かつ「子のいない妻」については、受給権を取得した日から5年を経過した日、または、妻が30歳に達する前に同じ支給事由による遺族基礎年金の受給権が、消滅した時は、その遺族基礎年金の受給権が消滅した日から5年を経過した日に失権する
遺族厚生年金を受けることが出来る遺族
夫、父母、祖父母 | 55歳以上である事(60歳までは支給停止※) |
子、孫 | 18歳年度末まで、20歳未満で障害等級1.2級の障害状態にあり、かつ婚姻をしていない事 |
※夫が遺族基礎年金の受給権がある時は60歳までの支給停止は行わない
2.遺族厚生年金の金額
遺族厚生年金の金額は死亡した者の老齢厚生年金の4分の3相当額である。また、死亡した者の納付要件が「短期要件」または「長期要件」なのか?によって計算方法が変わってきます
短期要件に当てはまる場合の計算方法
短期要件とは、死亡した者の納付した保険料が以下に当たる場合
①厚生年金の被保険者が死亡した時
②厚生年金の被保険者中に初診日のある傷病により、初診日から5年以内に死亡した時(退職日ではなく、初診日)
③障害等級1.2級の受給権者が死亡した時
計算方法
A.平成15年3月までの被保険者期間分(総報酬制導入前)
B.平成15年4月からの被保険者期間分(総報酬制導入後)
※平均標準報酬月額と平均標準報酬の違いは「平均標準報酬月額」は賞与(ボーナス)は計算に含まない。「平均標準報酬額」は賞与(ボーナス)も計算に含む
- 1000分の7.125と1000分の5.481の数字は固定。年齢による読み替えは無い
- 実際の被保険者の月数が300月に満たない時は、金額との関係上、受け取る額が低くならない様に300月として計算する
長期要件に当てはまる場合の計算方法
長期要件とは以下の場合に死亡した被保険者が当たる場合
④受給資格期間が25年以上ある老齢厚生年金の受給権者が死亡した時
⑤受給資格期間が25年以上あり、厚生老齢年金の被保険者期間を有する者が死亡した時
計算方法
A.平成15年3月までの被保険者期間分(総報酬制導入前)
B.平成15年4月からの被保険者期間分(総報酬制導入後)
- 被保険者期間は短期要件と違い、実際の被保険者期間で計算する
- 7.308~5.481の乗率は死亡した者の生年月日により決める
- 短期、長期の両方に該当する場合(64歳で働いている場合など)は遺族厚生年金を受け取る人の申し出がある場合は長期、申し出が無ければ短期となる
3.中高齢寡婦加算
40歳以上で子の無い妻や妻が40歳以上で子供が18歳以上の場合は障害厚生年金のみの支給になり、障害基礎年金はもらえなくなる。妻が65歳になって自分の年金をもらうまでの補助年金として中高齢寡婦加算がもらえる
①40歳以上で子の無い場合
②夫の死亡時に子のある場合
支給要件
中高齢寡婦加算は、死亡した者の妻が、遺族厚生年金の受給権を取得した当時に以下のどれかの要件に該当した場合支給される。なお、妻が厚生年金の被保険者(会社員など)であっても、他の要件を満たした場合は中高齢寡婦加算は支給される
妻の要件
①妻が夫の死亡当時、40歳以上65歳未満(65歳は含まない)である事
②妻が40歳に達した当時、夫の死亡当時から引き続き生計を維持している子がいる時
(18歳3月31日までの子、もしくは障害等級1.2級に該当する20未満の子、婚姻していない子でない事)
夫の要件(妻の要件の前に、前提として満たさなければ中高齢寡婦加算はもらえない)
死亡した夫が長期要件(厚生年金の被保険者期間が240月以上)でなければ、中高齢寡婦加算は支給されない
中高齢寡婦加算の金額
中高齢寡婦加算の金額は586,300円(令和2年)です
これは遺族基礎年金の基本額(781,700円)の4分の3相当額です
4.経過的寡婦加算
中高齢寡婦加算が加算された妻は、65歳に達した後は遺族厚生年金と自分自身の老齢基礎年金をもらう事になる。しかし、新法施行日(昭和61年4月1日)において30歳以上(昭和31年4月1日以前生まれ)の場合には、それまでの公的年金の加入期間が短かった場合、受け取れる年金が「老齢基礎年金の額」を「中高齢の寡婦加算」と比べると、とても低額になってしまう場合がある。そうした事情を考慮して、遺族厚生年金の経過的加算を65歳以上になった時、加算している遺族厚生年金が「経過的寡婦加算」である
支給要件
次の①②を両方、満たしている場合に支給される
①昭和31年4月1日以前生まれ
②中高齢寡婦加算の要件を満たしていた遺族厚生年金の受給権者で、65歳に達した者または遺族厚生年金の受給権を取得した当時65歳以上である者
経過的寡婦加算の金額
※妻の生年月日に応じて乗率が定められている
中高齢寡婦加算、老齢基礎年金の満額(令和2年)
※乗率の表は以下(令和2年)
妻の生年月日 | 乗率 | 加算額 |
昭和2年4月1日以前 | ----------- | 586,300円 |
昭和2年4月2日~昭和3年4月1日 | 312分の12 | 556,235 |
昭和3年4月2日~昭和4年4月1日 | 324分の24 | 528,396 |
昭和4年4月2日~昭和5年4月1日 | 336分の36 | 502,546 |
昭和5年4月2日~昭和6年4月1日 | 348分の48 | 478,479 |
昭和6年4月2日~昭和7年4月1日 | 360分の60 | 456,017 |
昭和7年4月2日~昭和8年4月1日 | 372分の72 | 435,003 |
昭和8年4月2日~昭和9年4月1日 | 384分の84 | 415,303 |
昭和9年4月2日~昭和10年4月1日 | 396分の96 | 396,797 |
昭和10年4月2日~昭和11年4月1日 | 408分の108 | 379,379 |
昭和11年4月2日~昭和12年4月1日 | 420分の120 | 362,957 |
昭和12年4月2日~昭和13年4月1日 | 432分の132 | 347,447 |
昭和13年4月2日~昭和14年4月1日 | 444分の144 | 332,776 |
昭和14年4月2日~昭和15年4月1日 | 456分の156 | 318,876 |
昭和15年4月2日~昭和16年4月1日 | 468分の168 | 305,690 |
昭和16年4月2日~昭和17年4月1日 | 480分の180 | 293,162 |
昭和17年4月2日~昭和18年4月1日 | 480分の192 | 273,620 |
昭和18年4月2日~昭和19年4月1日 | 480分の204 | 254,077 |
昭和19年4月2日~昭和20年4月1日 | 480分の216 | 234,535 |
昭和20年4月2日~昭和21年4月1日 | 480分の228 | 214,992 |
昭和21年4月2日~昭和22年4月1日 | 480分の240 | 195,450 |
昭和22年4月2日~昭和23年4月1日 | 480分の252 | 175,907 |
昭和23年4月2日~昭和24年4月1日 | 480分の264 | 156,365 |
昭和24年4月2日~昭和25年4月1日 | 480分の276 | 136,822 |
昭和25年4月2日~昭和26年4月1日 | 480分の288 | 117,280 |
昭和26年4月2日~昭和27年4月1日 | 480分の300 | 97,737 |
昭和27年4月2日~昭和28年4月1日 | 480分の312 | 78,195 |
昭和28年4月2日~昭和29年4月1日 | 480分の324 | 58,652 |
昭和29年4月2日~昭和30年4月1日 | 480分の336 | 39,110 |
昭和30年4月2日~昭和31年4月1日 | 480分の348 | 19,567 |
昭和31年4月2日以降 | ----------- | --------------- |
5.支給停止、失権
支給停止 → 一時止まる
失権 → 永遠に権利を消滅する
支給停止
遺族厚生年金の支給停止について
1.共通の支給停止
遺族厚生年金は被保険者または被保険者であった者の死亡について、労働基準法の災害補償が行われる場合、死亡日から6年間の支給停止になります
労災保険法の遺族補償が行われる時は、遺族厚生年金は全額補償され、労災保険が減額調整されます
2.夫、父母又は祖父母に対する支給停止
夫、父母又は祖父母に対する遺族厚生年金は、受給権者が60歳になるまで、支給停止になります。ただし、夫が遺族基礎年金の受給権者を有する場合には支給停止されず、もらえる
夫、父母又は祖父母は、被保険者または被保険者であった者の死亡の当時、55歳以上で受給権を得ますが、実際の支給は60歳からになります
受給権 → 55歳から(夫が遺族基礎年金の受給権の時は除く)
支給 → 60歳から(夫が遺族基礎年金の受給権の時は除く)
3.子または配偶者の支給停止
①子の場合
子に対する遺族厚生年金は、配偶者が遺族厚生年金の受給権を有する間、支給停止される。ただし、配偶者による支給停止の申し出が行われた場合、配偶者が遺族基礎年金の受給権を有しない場合であって、子がその遺族基礎年金の受給権がある場合、および、配偶者が住所不明で支給停止されている場合には子に支給される
②配偶者の場合
配偶者に対する遺族厚生年金は、被保険者または被保険者であった者の死亡について、配偶者が遺族基礎年金の受給権が無い場合であって、子がその遺族基礎年金の受給権がある場合(妻、または夫が子と生計を維持しない場合)には支給停止される。ただし、子が住所不明により支給停止されている場合には、配偶者に支給される
4.所在不明による支給停止
配偶者または子の所在が1年以上明らかでない場合、遺族厚生年金の受給権を有する配偶者または子の請求によって所在が明らかでなくなった時にさかのぼって、支給停止できます
5.老齢厚生年金の受給権を有する場合の支給停止
遺族厚生年金は、その受給権者(65歳以上に限る)が、老齢厚生年金の受給権を有する時は、老齢厚生年金の相当額は支給停止される。
65歳になると、1人1年金の法則で、老齢厚生年金か障害厚生年金のどちらをもらうか自分で選択する事になります。障害厚生年金を選んだ場合は老齢厚生年金相当額が支給停止にされる事になります。ちなみに老齢厚生年金と障害厚生年金はどちらかというと障害厚生年金の方が補償が厚いので、大体の場合、お得になります
失権
次のいずれかに該当した時に失権する
1.共通の失権理由
- 死亡
- 婚姻
- 直系血族または直系血族以外の養子となった時(事実上の養子縁組も含む)
- 離縁
2.妻の失権理由
- 遺族厚生年金の受給権取得当時、30歳未満の子の居ない妻について、受給権を取得した日から5年を経過した時、または妻が30歳に達する前に子を有しなくなったその日から、5年を経過した時(5年の有機年金※)
※有期・・・もらえる期間が決まっている事
3.子、又は孫の失権理由
- 18歳3月31日になった時(障害等級.12級の場合除く)
- 子または孫が障害等級.12級に該当しなくなった時(20歳前除く)
- 子または孫が障害等級.12級に該当したまま20歳になった時
4.父母、孫、祖父母の失権理由
- 被保険者または被保険者であった者の死亡当時、胎児であった子が出生した時
まとめ
1.遺族厚生年金は被保険者または被保険者であった者の死亡時に要件を満たした者がもらえる遺族年金で要件は5つ
- 死亡した時
- 初診日より5年以内に死亡した時
- 障害等級1.2級の者が死亡した時
- 被保険者期間が25年以上あった者が死亡した時
- 厚生年金の受給権がある者が死亡した時
2.遺族厚生年金の金額は
遺族厚生年金の金額は死亡した者の老齢厚生年金の4分の3相当額
3.中高齢寡婦加算は40歳~65歳までの妻や子の生活費で
年額:586,300円 で遺族基礎年金の基本額(781,700円)の4分の3相当額
4.経過的寡婦加算とは
65歳に達した後、遺族厚生年金の金額から老齢厚生年金へシフトした際、減った金額を補助する特別な加算である。受け取るには、年金の新法(昭和61年4月1日)が始まった時に30歳以上であった為、必然的に厚生年金の加入期間が新法に比べ、短いという特徴がある
金額は
中高齢寡婦加算(586,300円)- 老齢基礎年金(781,700円)× 表で定めた乗率
である
5.失権と一時停止
一時停止には
- 共通 (労基法の災害補償で6年支給停止)
- 夫、父母、祖父母 (60歳まで支給停止、ただし、遺族基礎年金の受給権を有する夫の場合はいつでもOK)
- 子、または配偶者 (お互いに子、又は配偶者が受給を受けている時はもらえない)
- 所在不明 (1年以上住所不明の場合は支給停止できる)
- 老齢厚生年金の受給権を有する (1人1年金なので、遺族厚生年金OR老齢厚生年金かを選ぶ)
失権
- 共通(死亡、婚姻、離縁、直系尊属以外の養子になった時)
- 妻 (5年の有期年金)
- 子又は孫 (18歳の年度末、障害等級ではなくなる、障害等級1.2級のまま20歳)
- 父母、孫、祖父母 (死亡当時の胎児が出産)
がある
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