次は「ねずみの嫁入り」を語ろうと、いろいろ調べていったら、十大昔話というのがあるということに気がつきました。『日本の神話と十大昔話』(講談社学術文庫)の中、「わたし一人の心持ちでとりまとめて書いてみたものにすぎません」と著者の言葉にありますから、個人的なチョイスなのだなと思いました。
明治に生まれて私が生まれる前に亡くなったこの学者がチョイスしたのですから、明治からの日本の人がどういった昔話に親しんだのか、とても興味がありました。
この本は『日本童話宝玉集』として、大正10年(1921)から翌年にかけて冨山房から出され、また昭和13年に出され、またその後昭和23年から24年にかけて出されたものに手を加え続けた著作だそうです。文庫は第1刷が1983年、手もとにある本には2004年の第36刷まで書かれています。結構ロングセラーではないでしょうか。読んでいてわかりやすく、やさしく温かみのある語り口だと思いました。目の前に幼い子どもがいて実際に語りかけているようなおだやかさで、活字になった昔話がもつ冷たさをあまり感じません。こういうの、好きだな。
実は、私は「金太郎」とか「ぶんぶく茶釜」のストーリーをよく知りませんでした。小さいころ、講談社のくるくる回る棚にあったのを見たのでしょうか、金太郎がすもうをしている絵とか、狸が傘もって綱渡りをしている絵とか、そういう断片的な絵しか記憶がなかったのです。だから、ストーリーを読んで、なんだかとても安心しました。高齢者施設でこういうのを語れば、皆さんきっと喜んでくださるんじゃないかなと思ったりしています。暗記しなくても、読んで聞かせるだけでもいいかもしれない。
ちなみに十大昔話は、 桃太郎・花咲かじじい・かちかち山・舌切りすずめ・猿かに合戦・・・ここまでは五大昔話でしょうか、それに付け加えて、くらげのお使い・ねずみの嫁入り・猫の草子・文福茶がま・金太郎 です。「猫の草子」は初めて読むおはなしで、教訓的であんまり起伏のない話です。当時もたくさんの昔話があったと思うのですが、どうしてこれが選ばれたのかよくわかりません。当時は人気のあった話だったのでしょうか。
(追記)「猫の草子」について。あとがきには、「ねずみの会議」が下敷きになったとかかれていましたが、その後、よく考えると、この「猫の草子」は人間が戦争に向かっていく気持ちや周囲の状況を比喩的に書いたように思えてきました。ねずみと猫はそれぞれの文化を持つ2種類の勢力で、特に猫になぞらえたのは日本の軍部のようです。猫の草子というタイトルながら、猫が本を書いたような場面は出てきませんから、軍部の暴走記録のようなものに思えます。それでわざわざこの文庫本に残したようにも感じられます。仲裁に活躍した坊様は、今なら誰にあたるのでしょうか。