鴨着く島

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「母の友」は健在

2023-04-26 21:42:51 | 母性
「母の友」という雑誌が1953年に生まれて今年で70周年だそうだ。

「友」というと思いだされるのが、子どもが小学校時代に夏休みに学校から課題として出される「夏休みの友」で、単に「友」と言い交わしていた。「友を早く終わらせなさい」というふうに。

夏休みの宿題では日記と絵や工作が主流だが、親としてはこの「友」のおかげで学習面の叱咤が軽く済んでいたのでありがたかった。

「母の友」という雑誌(月刊)は発行元が福音館書店で、この出版社は「くりとぐら」なる童話で著名だが、名称からしてキリスト教関連だろうと思われる。

しかし「母の友」は創刊の由来が、母親が忙しい合間を縫って子どもに童話の一つでも話して聞かせる手助けをしたいという趣旨だそうで、そこには宗教色は感じられない。

子どもに対して母親が寄り添いながら童話(昔話)を読んで聞かせるという姿は、宗教以前の行為に違いない。

当の子どもも、親や祖父母の語る昔話を好んで聞きたがるものだ。

ところが昨今はテレビやスマホによるそういった話のたぐいが、アニメを伴って画面の向こうに映し出されるので、親や祖父母の出番が少なくなってしまった。

その点で「母の友」の存在は貴重である。

昔話が上述のようにアプリに取って代われつつある現在でも、このような雑誌の上で読み継がれているとは奇跡に近いと思われる。

もっとも福音館書店ではタイトルの「母」が今日受け入れられるだろうか、というような危惧があり、変えてしまおうということも検討されたらしい。

昨今の母親による昔話の読み聞かせが薄れつつある時代、また性差(ジェンダー)を無くして行こうという時代に逆行しはしないか、そもそも「母」という言葉が重すぎはしないか、などと論議されたという。

しかしながら福音館書店はこれまで通り「母の友」として発行することに決めた。「親の友」でもなく「保護者の友」でもなく、やはり「母の友」として存続させるという。

大いなる決断だ。大いに支持したい。

母親が肉声で子どもに寄り添い、子どもと密接なやり取りをするのは哺乳類の一員である人間の自然な姿である。

子どもの自然な成長にとって母乳と同じかそれ以上に大切なのが母親との繋がり感だ。これあってこそ子どもは日々の安心感が得られ、明日への成長が保証される。

万葉の昔から母は特別な存在として見られていた。次の歌は筑前国司だった山上憶良が、天平3年(731)に肥後の国から都(大和)に上った熊凝(くまのこり)という若者が、旅の途中の安芸国で死んでしまったのを悲しみ、熊凝に代わって詠んだ歌だが、母親への格別な想いがひしひしと伝わる。

<たらちしの 母が目見ずて 雄々おしく いづち向きてか 吾が別るらむ>(万葉集第5巻)

――いつも心を満たしてくれた母の目の届かぬところで、男らしく死ぬ身だが、いったいどこを向けば母にさよならできるのだろうか、ああ、お母さん!

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