
2020年の涌井を語る上で外せないのが、“こやシン”だろう。春季キャンプで小山伸一郎投手コーチから伝授されたシンカーを、涌井がアレンジしたボールだ。シンカー自体は2019年も投げていたが、“こやシン”はそれよりも平均球速が2キロ強アップし、全投球の16%を占めるまでになった。
“こやシン”の特徴のひとつが、ゴロを打たせやすいことだ。昨年投じたシンカーは打球の6割以上がゴロになっており、チェンジアップとシュートの中間のような曲がり落ちていく変化に、打者が手こずっていた様子が伺える。また、リーグワースト3位の17本塁打を浴びた中で、シンカーでは1本も被弾していないのも、特筆すべき点だろう。
シンカーとの相乗効果もあってか、ストレートの奪空振り率はトータルでも11.0%を記録。これは、リーグの先発投手では山本由伸(オリックス)に次ぐ高さで、涌井の16年に及ぶプロ生活でもキャリアハイの数値だった。涌井は2020年の活躍の要因に「ストレートが戻ってきた」ことを挙げているが、戻ってきたどころか、最も良い状態にあったと言っても過言ではない。
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